【アスリートと貧血】原因別、貧血を予防する食事の摂り方(正しく知りたいシリーズ 第6弾 後編)

 

「正しい知識を身につける」ことは、日々のトレーニングの効果を出すためにとても重要なことです。今回のテーマは、アスリートやトレーニングをする人たちにも意外と多い、「貧血」について。前編では症状と要因を、後半では貧血の種類別に食事の摂り方について学んでいきます。

「B&」では正しい情報をベースにした「自己判断」ができるよう、管理栄養士の佐藤彩香さんによる“正しく知っておきたい”テーマをシリーズ化。8月5日に開催された第6弾「アスリートと貧血(後編)原因別、食事の摂り方」についてのセミナーの様子をお届けします。

■セミナー講師 

佐藤彩香・管理栄養士

企業や保育園で栄養カウンセリング、献立作成、栄養計算、店舗運営を経験し、その後独立。健康を土台とした実践型の栄養サポートを行い、プロアスリート~スポーツキッズ、ダイエット希望の方など累計5,000人を超える人々と関わる。現在はパーソナル栄養サポート、セミナー講師、ライター活動、レシピ開発なども行いながら、「あなたのかかりつけ栄養士」として活動している。

OFFICIAL BLOG「三度の食事は三回のチャンス」

 

貧血についての基本知識

貧血とはどんな状態?

 

佐藤さん
みなさんこんにちは!今日は最初に、貧血とは何か、について前回の復習をしていきたいと思います。

貧血とは、「血液中のヘモグロビン濃度が低下している」状態を指します。貧血の原因といえば鉄分不足、と聞いたことがある方も多いと思いますが、単純に血液中の鉄分の値(血清鉄)のみをチェックすれば良いということではなく、もっと総合的な見方をする必要があります。

 

 

覚えておきたい単語

ヘモグロビン=赤血球に存在するたんぱく質。ヘム(鉄)+グロビン(たんぱく質)からできている。

 

佐藤さん
ヘモグロビンは、赤血球が体内の組織へ酸素を運搬する際に中心的な役割を担っています。つまり貧血状態になると酸素運搬能力が低下してしまうということです。ヘモグロビンの数値は、貧血かどうかを判断する時の大きな判断材料として使われています。

 

また、貧血にはさまざまな種類があることも押さえておきましょう。

 

 

▪︎再生不良貧血:細胞を作る部分の貧血
▪︎腎性貧血:赤血球を生み出していくために必要な、エリスロポエチン不足による腎臓の貧血
▪︎巨赤芽球貧血:B12・葉酸が不足によって起こる貧血
DNAの合成障害が起こり、血液中に正常な大きさではない赤血球(巨赤芽球)が存在するのが特徴。
▪︎溶血性貧血:外傷などによる赤血球の破損による貧血

 

佐藤さん
貧血の種類によって、補いたいものやケア方法が異なります。このあたりについては後半で詳しくお話していきます。

 

貧血に陥りやすい人とは?

・若い女性
・アスリート

 

佐藤さん
月経のある女性や、ランなど足の裏に衝撃を受けやすい持久性競技を行うアスリートは特に貧血になりやすいと言われています。

ただし上記の人以外にも「隠れ貧血」は存在します。貧血は、骨の形成や神経伝達物質、生理不順や不妊の症状を引き起こすこともあるので、どんな世代の方でも注意が必要です。

 

 

前編記事ではもっと詳しく貧血についての基礎知識が学べます。

貧血セミナー前編の記事はこちら

 

貧血のチェック方法

佐藤さん
ここからは、現在発表されている具体的な貧血の定義と、健康診断などで血液検査を受けた場合の血液検査表の見方をお伝えします。

 

WHO(世界保健機関)が定める貧血の定義について

 

上記は、特にアスリートに限らず一般の方における「貧血の定義」となります。

 

佐藤さん
現在、国内には「アスリートにおける貧血ガイドライン」はありませんが、スポーツ内科の先生がいる病院では、独自のガイドラインを提示していることもあります。

海外ではアスリートにおける貧血のガイドラインが発表されていますのでまずはそちらを見てみましょう。

 

 

佐藤さん
このデータでは、貧血はステージ1〜3に分けられており、各ステージの治療方法も明確にされています。

フェリチン(体内の貯蔵鉄)が35を切った場合は治療が推奨されており、3〜6ヶ月ほどをかけ、食事と鉄剤で補っていきます。6ヶ月後に再検査をして、フェリチンの数値で経過を観察します。

 

次に、国内のデータ(*1)を使って、血液検査結果の中で特に貧血に関係する項目と基準値を見ていきましょう。手元に血液検査結果がある方はぜひ照らし合わせながら見てみてくださいね。

 

①フェリチン

フェリチンとは・・・身体に蓄えられた鉄の量。

一般の方の基準値範囲内であったとしても、女性アスリートは30ng/ml、男性アスリートは50ng/mlを下回る数値が出てしまうと、望ましくない状況です。

鉄欠乏性貧血の判断基準は12ng/ml以下とされていますが、これはアスリートにとっては死活的な数値であると理解していただきたいです。

フェリチンは貯蔵された鉄ですので、お金に例えて言うならば「銀行口座に1000円か2000円しか貯蓄がない!」という状況です。ストックの量によってパフォーマンスがだいぶ変わってしまうことが想像できますよね。

 

②ヘモグロビン

ヘモグロビンとは・・・一般的な貧血の指標です。赤血球は体のさまざまな細胞へ酸素を運び二酸化炭素を受け取って肺まで運び出す働きをしていますが、この中心的役割を担うのがヘモグロビンです。

アスリートは男性は15g/dl以下・女性は13g/dl以下になると貧血が疑われます。

 

③血清鉄(Fe)

血清鉄(Fe)とは・・・血清に含まれる鉄量。身体全体の鉄量とは異なります。

基準数値:40〜188μg/dl

佐藤さん
アスリートは最低50μg/dlはあってほしいです。

 

④TIBC(総鉄結合能)

TIBC(総鉄結合能)とは・・・鉄不足のときに上昇する。血清中の鉄と結合して運搬する蛋白。

基準数値:187-356μg/dl

佐藤さん
アスリートの場合は360μg/dlを越えないように注意しましょう。

 

⑤TSAT(トランスフェリン飽和度)

TSAT(トランスフェリン飽和度)とは・・・造血についての鉄充足率を表します。

血清鉄(Fe)/総鉄結合能(TIBC)×100(%)

基準数値:20%〜25%

佐藤さん
トランスフェリンが全部でどれくらい鉄と結合しているかを表すトランスフェリン飽和度。20%を下回ると造血に回っていない可能性が出てきます。

 

⑥網状赤血球

網状赤血球とは・・・赤血球になる一歩手前の状態で、骨髄での赤血球の造血能力を表します。

基準数値:1%以上(0.5~1.5%)

佐藤さん
アスリートは1.0%を下回らないようにしましょう。

 

⑦LDH(血清乳酸脱水素酵素)

LDH(血清乳酸脱水素酵素)とは・・・溶血の指標です。

佐藤さん
赤血球が壊されることによって上がってしまうのがLDH数値です。高くなってしまう場合には、溶血性貧血が疑われる可能性があります。

アスリートでは250以上=貧血の疑いがあります。トライアスロンの選手などは、数値が高い傾向にありますね。

 

⑧MCV(平均赤血球容積)

MCV(平均赤血球容積)とは・・・赤血球の平均的な大きさを表します。

佐藤さん
赤血球は大きすぎても小さすぎてもいけません。81〜100flを基準値(正球性)と考えましょう。90台後半からグレーという感覚です。

メンタル面や自律神経系が乱れると数値に表れやすく、一時的に下がったり上がったりもします。ビタミンBと葉酸を摂るようにしましょう。

 

貧血の種類別、改善アプローチ方法

さまざまな原因や症状がある貧血には、それぞれに適したアプローチ方法があります。

 

佐藤さん
トレーニングで汗を大量にかくことが貧血に繋がることもありますし、トレーニング強度が高くなればなるほど消化管にも影響が出て、血便が出る場合もあります。貧血の改善のため、まずはできることからはじめていきましょう。

 

①鉄欠乏性貧血へのアプローチ

 

佐藤さん
ヘモグロビン、血清鉄、フェリチンの値などに影響が出やすい鉄欠乏性貧血を改善するには、不足している鉄を補うことも大切ですが、同時に吸収する側である内臓系の疲労度など「受け側」の状況にも目を向けることが大事です。

 

鉄分を摂る

 

佐藤さん
鉄分を摂るタイミングとしては、練習後1〜3時間以内が良いでしょう。鉄の吸収を妨げる「ヘプシジン」は、運動から3〜6時間の間に分泌されると言われているので、分泌時間帯にかからないよう、運動直後や翌朝などに摂ると良いですね。

 

鉄の摂取量は以下を参考に。



佐藤さん
現段階で貧血を自覚している、もしくは貧血予備軍の場合には、マグロやカツオ、レバーなどの赤身の魚や肉を、週に2〜3回、主菜にしてみてください。副菜では、あさりのスープを作るのもおすすめ。緑黄色野菜も積極的に摂っていきましょう。

 

月経中の経血量が多い場合は婦人科医に相談する

 

佐藤さん
女性特有の月経も貧血と強い関わりを持っています。月経によっても鉄は失われていきますので、月経量があまりにも多い方はピルの活用などを検討してみても良いかなと思います。婦人科医に相談してみることをおすすめします。

 

紅茶・コーヒー・緑茶を減らす


鉄の吸収力が落ちてしまうタンニンの含まれた飲み物は、食事中や食後は避けましょう。

佐藤さん
私も食後のコーヒー大好きなので複雑ですが、渋いお茶や濃いコーヒーはなるべく避けたほうが鉄分の吸収のためには良いです。

 

思春期・妊娠時・授乳期、アスリートは特に注意


鉄需要が高まる、思春期・妊娠時・授乳期には、アスリートは特に鉄分を意識した食事を摂りましょう。

 

高齢者は鉄の吸収力が落ちやすい


高齢者は、食事量の減少・胃液分泌の低下で鉄の吸収力が落ちがちなので注意が必要です。

 

悪性貧血へのアプローチ

 

佐藤さん
ビタミンB12や葉酸が欠乏している可能性のある方に気をつけていただきたい項目です。菜食主義の方はビタミンB12が不足しやすいので、食事調査で念入りにみていきましょう。

摂取方法としては、白米に雑穀米をプラスすると葉酸が摂りやすいです。緑黄色野菜・葉物野菜にも含まれています。胃腸が弱ると吸収効率が下がりますのでアルコールの摂りすぎやピロリ菌などには注意しましょう。

 

③溶血性貧血へのアプローチ

 

血液中のCK数値・AST数値が高い=筋肉が炎症している・疲労が取りきれていない可能性が考えられます。

 

 

溶血性貧血の場合、食事全体の見直しに加えて、場合によっては練習内容を見直し、おのおのに合わせた対処法を取ることになります。

 

エネルギー摂取も忘れずに!

 

佐藤さん
貧血の場合は、不足しがちな栄養素だけを補えば良いというわけではなく、「血を作る」ために大きな役割を担う「たんぱく質」の摂取も大切です。

エネルギーが不足すると、たんぱく質が分解されてエネルギー産生が行われます。そのため、ヘムとグロビンの合成も低下することから血色素、ヘモグロビンの低下が認められると考えられます。お肉や魚、大豆製品も積極的に摂っていきましょう。

 

たんぱく質の摂り方についてのおさらい記事は>こちら

参考:*1 国立病院機構 西別府病院 スポーツ医学センター「アスリートのメディカルチェックにおける血液検査データの見方」

 

質疑応答


Q.ASTがどうしても上がってしまうのですが、肝機能改善のためにもASTを下げたいです。たんぱく質は多く摂らないようにしていますが、他にはどうすればいいですか?

佐藤さん
運動量にもよるので、総合的に見る必要があります。ASTだけを見て、たんぱく質を減らすというのはエネルギー摂取の側面から考えるとあまりよくないですね。練習強度も関わりますし、ビタミンが足りずにたんぱく質代謝が落ちていることも考えられます。色々な面から見る必要がありますので必要に応じてご相談ください。

 

Q.食事を改善して鉄欠乏性貧血は良くなったのですが、生活習慣が戻るとまた貧血になってしまうでしょうか?

貧血に戻る可能性は大いにありますね。一時的に貧血じゃない状態に戻りフェリチンが貯まっていた場合、多少はサボれるかもしれないです。無理のない範囲内で、できることを継続してみてください。

 

Q.赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリットが低値です。赤血球が増えれば貧血が良くなるのかなと思いますが、どのような改善策が考えられますか?

佐藤さん
一概には言えませんが、細胞を作るための総エネルギーやビタミンBの見直しを行いましょう。あとは、鉄の強化です。あわせて、糖質、脂質、たんぱく質、ビタミン・ミネラルなど、一つずつ確認をしながら見直しを行っていく必要があるかと思います。過去にB&でセミナーも開催していますのでレポート記事も参考にしてみてください。

>糖質についての記事はこちら
>脂質についての記事はこちら
>たんぱく質についての記事はこちら
>ビタミン・ミネラルについての記事はこちら

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