「痛くなる前にできることを」ニチバン株式会社 女子アスリートと考えるケガ予防

2024年9月20日、B&はニチバン株式会社と合同で、ケガ予防やテーピングについて女子アスリート座談会を開催しました。

<参加アスリート>(写真左から順)
・髙橋礼華さん(バドミントン)
・寺村美穂さん(競泳)
・山根佐由里さん(ソフトボール)
・大山加奈さん(バレーボール)
・登坂絵莉さん(レスリング)

ケガの現状や向き合い方、ケガ予防などについてアスリートたちがディスカッション。それぞれの競技での現状と課題について考え、今後どのように対応していくことが必要かを話し合いました。当日の様子をお届けします。

各競技で多いケガとは?

-各競技ではどのようなケガが多いのでしょうか?

登坂:レスリングで特に多いのは、自分が攻める時に相手が予想外の動きをした時かなと。膝のケガや前十字靭帯の損傷、肩や肘の脱臼など…不意の動きで起きてしまうケガが多いですね。ウォーミングアップの時にケガをする選手もいます。

大山:バレーボールは肩・腰・膝・足首など、さまざまな部位でケガが起こり得ます。空中で体をひねり、ボールに合わせてアタックを打ち、体勢が崩れた状態で着地を繰り返すので、身体への負担が大きい競技だと感じています。

あとは突き指はやはり多いですね。

寺村:競泳は、肩のケガが一番多いです。遠くから重い水を持ってくる動きによって肩に大きな負担がかかります。

あとは腰のケガもありますね。体幹が弱いと真っ直ぐな姿勢で泳ぐことができません。その結果腰が反ってしまい、痛めることがあるようです。

ちなみに私は競泳選手としては珍しく半月板を痛めました。人より関節が柔らかいことで、キックをするときに必要以上に足が反ってしまい、その動きを繰り返すことで膝を痛めてしまいました。可動域が広いことは強みにもなるんですが…難しいところなんですよね。

髙橋:バドミントンは足元を激しく使い続けるので、膝や前十字靭帯、アキレス腱など足のケガや肉離れがかなり多いです。先日のパリオリンピックでも、過去にケガした前十字靭帯を再び痛め棄権している選手がいました。ずっと腕を振ってプレーするので、肩や肘を痛めやすいと思われがちですが、実際にはあまり聞いたことがありません。

山根:ソフトボールは、モノに当たってケガをすることが多いと思います。バッターが打ったボールが顔に当たったり、飛び込んでボールをキャッチして肩を脱臼したり、スライディングの時に突き指したり。あとはバッティング練習で手がボロボロになってしまうので、テーピングを巻いて練習している選手もいましたね。

違和感があれば休める環境を。若い世代に伝えたいケガ予防の大切さ

-では、育成年代についてもお伺いしたいです。ジュニア世代だから多いものなどあるのでしょうか。

登坂:レスリングでは、中学生までは大きなケガをしているイメージはあまりないんです。もちろん全くないわけではないですが。高校生以降は練習時間が大幅に伸びて、ケガも増えている印象があります。

寺村:水泳も同じく、小中学生がケガをしているのはあまり聞かないですね。

山根:ソフトボールは、エースピッチャーが一人で投げ続けてしまい、肩を痛めることがあります。でも実はソフトボールの下投げは正しく投げることができれば肩を痛めることはほぼありません。だから野球のように投球制限も設けられていないんですよね。

大山:バレーボールは若い選手でもケガが多いので、他競技の現状を聞いて驚きました。小学生からすべり症になったり、中学生で前十字靭帯断裂後の手術をしている子がいたり。

※すべり症:背骨の関節や椎間板の変形などにより、背骨が崩れる病気。

登坂さんがおっしゃっていたように練習時間が長いこともケガの多さと関係ありそうですよね。小学生でも週6で練習するチームを見たことがあります。バレーボールに限らず全国大会を目指すような選手はみな、長時間練習しているものだと思っていました。

私は小学校6年生ですでに身長が175cmあり、1人でスパイクを打ち続けた経験があります。小学校のバレーボールにはローテーションがないんです。だから余計にひとりの選手への負担が大きくなって潰れてしまうことがあると感じています。

髙橋:バドミントンも小学生のケガはあまり聞かないですね。でも最近は幼少期からプロ選手のジャンピングスマッシュを真似した結果、膝を痛めたりアキレス腱を切ってしまったりする高校生を見かけるようになりました。

あとは捻挫が多いですね。私もインターハイの試合中に足首を捻挫したことがあります。

大山:捻挫は、他のケガに比べて軽視されがちだと感じています。くせになりやすく、後に残るからきちんと治さなければならないのに。

髙橋:まさにそうなんです。「捻挫なら大丈夫」とテーピングをグルグル巻きにしてプレーを続ける選手も多いです。

大山:あとひとつ気になっていたことがあるんです。プロ野球選手の方など、「身体の違和感」で試合を休むこともありますよね。「違和感があれば休む」という考え方が私が現役の時にはなかったので、すごく驚きました。でも自分の身体をコントロールするためにはとても大事だなと。若い選手たちが違和感を感じた時に休みやすい環境作りをしていきたいですね。

登坂:たしかに現役時代、「違和感で休みます」なんて言える雰囲気ではなかったですね…。

山根:野球の場合、公式戦が年間100試合以上あります。長期的な目線で、ケガを長引かせないために休むという意識がしっかりあるのかもしれません。

「痛くてもやるのが美徳」という空気は変えていかなければならないですよね。

寺村:「やらない勇気も必要」と何度も言われました。ケガをするとどうしても焦ってしまいがちですが、コーチが落ち着いて休むようにアドバイスをしてくださったので最短で復活できたのだと思います。今後は私たちがその役目を果たせたらいいなと。

大山:私は引退した今も、現役時代に患ったケガの痛みに苦しんでいます。冷蔵庫の一番下を開ける時や子どもの世話をする時に屈むと膝がとても痛いんです。引退後の人生に影響が出るのもつらいと思います。無月経や骨粗鬆症についても言えますね。

もちろん競技も頑張ってほしいですが、あくまでスポーツは人生の一部だと伝えていく必要があると感じています。

-皆さん自身は、ジュニア時代のケガはあったのでしょうか?また、現役時代のケア方法を教えてください。

寺村:水泳で一番最初に膝を痛めたのは小学6年生の時です。ストレッチやトレーニングをきちんとしていなかったことが原因かもしれないと思い、その後は練習開始の1時間前に行き、事前にストレッチをするように心がけました。関節が緩いからこそしっかり周りの筋肉で固める必要があると、陸上トレーニングにも力を入れました。

山根:私は高校2年生の時に前十字靭帯を断裂しました。手術をしなければならなかったのですが、直後の大会にどうしても出場したかったので続行したんです。なんとか続けることができてしまったがゆえに、ケガを軽視するようになってしまいました。

社会人になり、練習量が増加し、周りのレベルも高くなったことによって、徐々に自分の膝が限界に。その後は膝に頼らないようお尻に力を入れたり体幹を意識したりと準備と練習後のケアに力を入れるようになりました。

大山:私は練習や試合前にホットパックを使ったり、お風呂に浸かったりして“温める”ケアをよくしていました。

あとはチームで身体の可動域チェックが毎日ありました。いつもと可動域が違えば、自分の身体の変化に気づけるんです。普段と異なる箇所を重点的にケアすることができたので効果的でした。

寺村:練習後のケアこそ大事かなと思っています。練習直後はアイスバスに入っていました。運動後の温まった身体や筋肉を一気に冷やしていました。

大山:所属チームの体育館にアイスバスがあったので、私もよく利用していました。疲労の取れ方が全然違うんですよね。学生だと整った設備が用意されていない場合も多いと思うので、きちんとお風呂に浸かったりストレッチをしたりと当たり前のケアを徹底してもらいたいです。

登坂:あとは学生だと門限もありますよね。私は学生時代の門限が21時だったのですが、練習が20時までだったので少し居残り練習をするとすぐに門限ギリギリで…。その結果ストレッチの時間を確保できなくなっていました。今になって、もっとしっかりケアや睡眠の時間をとるべきだったなと。

大山:睡眠をしっかり取るとパフォーマンスが上がるというデータもあるみたいです。朝練をやめたことでパフォーマンスが上がるなんてことも。練習をすることだけがパフォーマンス向上に繋がるのではないことを伝えたいですよね。

ケガ予防にもテーピングを。どう使っていた?

-みなさんはどのような場面でテーピングを使用されていましたか?

大山:私は足首が緩かったので、固定をするために使っていました。あとは肩や指ですかね。

髙橋:バドミントンでは、指にテーピングをすると感覚が変わってしまうので、あまり使っていませんでした。一方、テーピングによって感覚をわざと変えることで、プレーを安定させる選手もいましたね。

山根:ソフトボールのピッチャーは、指先にテーピングをすると滑り止めになって、投げやすくなるので禁止されているんです。

寺村:水泳も練習の時には付けている選手もいます。私も膝を痛めた時は、テーピングで固定をしていました。でも感覚が大きく変わってしまうので、どうしても痛みがひどい時や動きを止めたい時に使うだけでしたね。なるべくテーピングを使わずに、泳ぐ感覚を確かめたいという気持ちがありました。

みなさんはテーピングによって感覚が変わって上手くいかないことはないですか?

大山:テーピングをしているのが当たり前なので、逆にない方が不安になるかも。

登坂:いつものテーピングを忘れてしまった日は精神的に不安定になりますよね。

寺村:競泳では、試合の場合基本的に水着以外何も身につけることができないので、テーピングをする場合は申請をしなければならないんです。何も申請せずテーピングをして出場すると失格になります。なので皆さんと違って、テーピングをして試合に出場したことはありませんでした。

-どのようなテーピングがお気に入りでしたか?

登坂:テーピングといっても柔らかく伸縮性のあるものから、硬くて剥がれにくいものまでさまざまですよね。私はしっかり硬めに固定できて取れないテーピングがお気に入りです。

大山:固定したいという目的で使う人は硬いテープを使用することが多いですが、指は柔らかい方が動きやすいと感じています。

<ニチバン株式会社 コメント>

テーピングは、すでにケガをしたり身体を痛めたりしている人がその対処法として使用すると思われがちです。例えばプロの試合で選手がテーピングをして出てくると観客が「あの選手はケガしたのかな?」と感じることもありますよね。その考え方を変え、予防のためにテーピングをするという認識を多くの人に持っていただきたいです。

 

各競技それぞれ異なるケガの悩みや対処法があり、あらためてケガ予防や休養の大切さについて伝えていきたいと感じた今回の座談会。B&では、アスリートが長く競技を続けられるよう、今後もメディアという立場からできることを考えていきます。

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