スペインに見る「チームでひとつに」戦うサッカー。十川ゆきが海外挑戦で感じたこと
JFAアカデミー福島卒業後から、スペイン2部でプレーする20歳のプロサッカー選手・十川ゆきさん。スペインでの挑戦が始まって2年が経つ中、スペイン人選手のサッカーへの考え方、チームとの向き合い方に日本とは異なる魅力を感じておられるそうです。
「スペインのサッカーを体感してみたい」と思うようになったきっかけは、JFAアカデミー福島時代(中学2年時)に出会ったスペイン人監督の影響だとか。高校時代からトライアウトに参加し続けた理由、新しい環境で生きていくために意識していることなど、スペイン挑戦の全貌を伺いました。
「やっぱり、スペインで勝負したい」
ーアカデミー福島卒業後はなでしこリーグや大学サッカーへ進む人が多かったと思います。スペインでの挑戦にこだわった理由を教えてください。
大学へ行って「これを勉強したい!」と思うことがなくて、「とりあえず大学に行っておこう」という気持ちで4年間を過ごすのは無駄だと思いました。
今でこそWEリーグとして日本の女子サッカーもプロ化していますが、当時国内でプレーするなら仕事もしなくてはなりませんでした。100%サッカーにベクトルを向けたかったことが、スペインに挑戦した決め手です。
ー初めて行った時、スペインの印象はどうでしたか?
スペイン1部エスパニョール(Bチーム)の練習に参加できることになり、高校1年時に初めて行ったのがバルセロナでした。現地の方は皆温かくて、何より食べ物が合うと感じました。滞在期間中、全くストレスを感じなかったです。
アメリカにも行ったことがありますが、似たような味付けが多くて、あまり合わなかったんですよね。スペインはお肉が美味しいし、海が近くて魚も新鮮です。日本人の味覚に合っているのではないかと思います。
ースペイン語は、話せたのですか?
最初は全く話せなかったです。付き添っていただいた世話役の方に通訳や身の回りのことをお願いしていました。技術では手応えを感じた一方、チームに上手く馴染めないのが悔しかったです。帰国してすぐ、オンライン講座に申し込んで勉強するようになりました。今では問題なく、チームメイトと会話できています。
ー話せるようになるまで、どのくらいかかったのですか?
プロになって1年くらいで、ストレスなく話せるようになりました。常にスペイン語が耳に入ってくるので、自然と習得した感じがします。私自身オープンな性格で、コミュニケーションをとっている中で気づいたら身についていました。
私は大阪出身なのですが、スペイン人と大阪人でフレンドリーな雰囲気が似ているんです。すぐに距離感近く話せる感じが、馴染みやすかったと感じています。
ー2021シーズンからは再び新たなチームへ。移籍経験も多いですが、新しい環境で馴染むために意識していることはあるのですか?
自分を知ってもらえるようにすると同時に、自分から周りを知るようにしています。チームメイトにはとにかく話しかけますね。チームに受け入れてもらうことが何よりも大切なので、コミュニケーションは特に意識しています。
ずっと長く同じ場所にいると、慣れてしまうんです。最初に100あった刺激が少しずつ減っていくので、定期的に新たな環境へ挑戦しています。
“良い”チームとは何なのか。スペインの「みんなでひとつに」という意識
ー日本と比べて、チームの雰囲気や文化で異なるところはありますか?
スペインの方が全体的にワイワイしています。試合会場へ行くバスの中では、みんなで歌ってテンションを上げていくんです。選手一人ずつ曲を事前に選んでおいて、プレイリストを作っています。それをバスの中で流して、熱唱。ロッカールームにもスピーカーが置いてあって、試合前に大音量でレゲエ音楽を流しています。チームでひとつの曲を聞いて歌って、試合に向けて一体になっていく感じが大好きです。
日本人の場合、バスの中は音楽を聞いたりして各自で気持ちを整える人が多い印象です。私も最初は一人で音楽を聞いていたのですが、バスの音楽が大きすぎて聞こえなくて(笑)。良い意味で、ルーティーンは全部なくなりましたね。
ー日本だとなかなか見られない光景ですね。サッカーに対する向き合い方や考え方で、日本人選手と異なるところはありますか?
スペイン人はピッチの中と外で、人間関係を明確に分けて捉えています。共にサッカーをするチームメイトとして、一体にならないと良いサッカーはできない。先ほどの試合前の雰囲気にも通じますが、「チームでひとつになろう」という意識が、スペイン人はとても強いと感じています。
例え仲が良くなかったとしても、コートに入ったら皆同じ。誰とも同じように向き合わなければ上手くいかない、という話はチームの中でよくします。逆にピッチ外で合う・合わないはあって仕方がないし、そこは個人の自由だという理解がありますね。良いサッカーを作り上げるために組織として何が必要なのか、チームがどうあるべきなのか、スペインの選手はよく理解して行動しています。
ー「チームの中での、自分」という意識が強いんですね。
みんなどこかで意識しているなと感じます。いろんな人と積極的に話したり、年齢が若い選手に話しかけに行ったり。チームの中でグループのようなものもありません。
ー一方で、やりにくいと感じることはありますか?
自分の意見をしっかり持って主張する選手が多く、その環境に慣れるのが大変でした。ひとつの議題について同時に何人も話すので、状況が掴めないことも多々あるんです。
来た当初はスペインのサッカーを吸収したくて、「こうして欲しい」と言われたらとにかく受け入れていました。でも今はスペインのサッカーを整理して理解できるようになったので、違うと思ったらはっきり伝えるようにしています。
いつかは、日本代表に。海外選手も注目される仕組みが欲しい
ー日本でも、2021年からリーグがプロ化されました。スペインでプレーしていて、WEリーグはどのように見えていますか?
以前は昼間に仕事をしてから練習するといった環境だったので、サッカーに集中できるという意味でプロ化されて良かったと感じています。仕事との両立がある場合、どうしても疲労が抜けないですし質が落ちる部分はあると思うので。
サッカーでいうと、日本のサッカーは常に速くて疲れそうだなと思います。例えば私のチームでは40〜50%くらいで繋ぎながら、相手のタイミングを見て70〜80%くらいで緩急をつけてゴール前まで持っていきます。
ー2年間スペインでキャリアを積み上げてきたことを踏まえて、今後どのようにやっていきたいと考えているのですか?
「日本代表に選ばれる」というのがひとつの目標です。そのためにも、どこかのタイミングで日本に帰ることも選択肢としてはあります。
ー代表選考となると、日本でプレーしている選手の方が注目されるのでしょうか?
残念ながら、そうですね。世界トップレベルのスペイン1部で活躍している日本人選手もいますが、彼女たちも代表には選ばれていません。「何年か経って結果を残したら見てもらえるようになるだろう」と思って2年間やってきましたが、まだまだ見られていません。もっと発信していかないといけないと痛感しています。
個人的に欲しいと思うのは、海外でプレーする日本人選手の映像を集めたプラットフォーム。日本サッカー協会の方々など、サッカー関係者の方が海外にいる選手を見られるような仕組みがあればと思っています。
ーまた日本でプレーするとなると、スペインでの経験から新たに見えてくることも多そうです。
そうですね。どんな違いを体感できるのか楽しみです。サッカーでもチームの雰囲気でもギャップを感じると思うので、まずは改めて日本のサッカーに順応していきたいです。その上でスペインで学んだことを上手く活かして伝えていきたいと考えています。
逆に日本のサッカーから吸収できるところもあると思うので、バランス良く取り入れて成長したいですね。とにかく今はスペインで引き続き、自分らしく明るく、チャレンジしていきたいと思います!