「教えてくれない」からこそ問われる、性教育の大切さ。帝京大学小学校とファミワンの取り組み
帝京大学小学校では、個人や企業、自治体向けにヘルスケアサポートサービスなどを提供する株式会社ファミワンと連携し、「カラダとココロの包括的性教育プロジェクト」と題した児童の発達段階に合わせた独自の性教育プログラムを展開しています。
なぜこのような新たな性教育を実施することを決めたのでしょうか。子どもたちがお互いの身体を理解することへの思いを、帝京大学小学校校長の石井卓之さんと、同小学校養護教諭の松田亜弓さんにお伺いしました。
※「B&」は、本プロジェクトをメディアパートナーとして応援しています。
「カラダとココロの包括的性教育プロジェクト」とは?
小学1年生から6年生までの発達段階に合わせ、学年ごとにカスタマイズした内容および伝え方で包括的性教育を実施する、全国的にも先進的な取り組みです。体の発育・発達といった通常のカリキュラムに加え、性と生、ジェンダー、人間関係、プライバシーの尊重など、多様なテーマを網羅した包括的・継続的な性教育を提供し、子どもたちが多様性を理解し尊重し合える社会の実現に貢献することを目指します。
また、本プロジェクトでは、授業および保護者向けの講義の開催に加えてオンラインでの相談サービスを提供し、家庭ごとのお悩みにも個別にサポート。実装されるサービスは、オンラインで、匿名性を保ちながら、場所や時間を問わず安心して相談が可能です。看護師や臨床心理士・公認心理師などの専門家への質問や相談を通して、知識の補完や子どもとのコミュニケーション方法などをサポートし、家庭における性教育への理解と実践を支援しています。
プロジェクトURL:https://project.famione.com/cse
正しい知識を子どもたちに伝えていきたい
ー今回、ファミワンさんとご一緒する中で、もともと性教育に取り組みたいという想いがあったと伺いました。その背景について、どのようなお気持ちがあったのか教えていただけますか?
松田: 私自身、小学生の頃に周囲よりも成長が早く、身体や心の変化に戸惑い悩んだ経験がありました。そのとき、相談できる場所や手段がほとんどなく、ずっと心の中にモヤモヤを抱えていたんです。そういった経験から、養護教諭として生徒と接する中で、「過去の自分のように悩む子どもたちの力になりたい」「正しい知識を伝えたい」という気持ちが強くなっていきました。性に関する知識は、自分自身の将来にとっても大切で役立つものだと思いますし、それを子どもたちにきちんと伝えていくことに意味があると感じています。
石井:もともと養護教諭の松田さんの性教育への思いは聞いていたので、ご縁があってファミワンさんをご紹介いただいた時は、「ぜひやりましょう」と。専門家に入っていただかないとできない分野でもあるので、すぐに決めました。
あとは日本の性教育は、「教えてくれないこと」が多いですよね。教育の原点は「教えて任せる」こと。しっかり土台を作って後押ししてあげることが教育の役割です。なのに日本では土台も作らずに外に出ていってしまうから、実際にさまざまな性に関する課題が生じていると感じています。合わせて保護者の方にも正しい知識を届けられる仕組みがあればな…と思っていたところに、ファミワンさんのカリキュラムがまさに合致した形です。
また、特に小学校低学年であれば恥ずかしがらずに、事実として受け止めることができるかなと。そういった意味でも小学校から性教育を取り入れていくことに意義を感じています。
ー実施にあたって、保護者の方から何かご意見などあったのでしょうか?
石井:ありました。前例のない取り組みで、まずは保護者の皆様にご理解いただくことが大切だと考え、まずは保護者向けに説明会を行い、授業内容やそのねらいについて丁寧にお伝えした上で実施しています。また、保護者の意向で授業を希望しない場合は、受けなくてもよいように配慮しました。
ー子どもたちには、授業を通じてどのようなことを感じてもらいたいですか?
石井:性教育は特別なことではなく、心と身体の教育の一環だと捉えています。なのでまずは自分の体を大事にすること、それから相手を尊重することを学んでもらいたいですね。
第三者が入る方が、子どもたちにも保護者にもプラス
ー保護者の方が相談できる窓口を増やした、というのも今回の取り組みの特色ですよね。
松田:学校のスタッフもそれぞれの役割や専門性が異なるので、相談できる窓口はできるだけ多い方が望ましいなと。例えば、「保健室だけ」「担任だけ」となると、どうしても視点が限られてしまいます。それに「担任の先生には話しづらい…」というケースも実際にあるでしょうし、相談先として選択肢が複数あった方がご本人やご家庭にとっても心強いんですよね。
今回のファミワンさんとの連携で、新たな選択肢がひとつ加わったという実感があります。学校外でも安心して話せる環境ができたことは、保護者の方にとっても非常に大きな意味があるのではないかと思います。
ー今回は、ファミワンより公認心理師の戸田さやかさんに授業を担当していただきました。いかがでしたか?
松田:専門的な知識を分かりやすくお伝えいただき、私自身が勉強になったのはもちろん、子どもたちにとっても大変貴重な時間になったと思います。授業内容は、私が普段行っているものと重なる部分もありましたが、むしろそういった“重なり”こそが重要だと思いました。同じテーマに繰り返し触れることで、子どもたちの理解がより深まり、知識がしっかりと定着していくことを期待しています。
イメージだけでは、子どもたちも理解ができない部分が多いんですよね。でも今日のようにイラストや写真も交えて説明することで、新たな命が誕生する仕組みと、「自分たちが生まれたことは奇跡なんだ」と気づいてもらえれば嬉しいです。
取材後記

取材当日は、学年ごとに合わせた内容で授業を実施。どのような仕組みで命が誕生するのか、グループでの話し合いなども交えながら楽しく学べるように工夫されていた
今回は、小学校1〜3年生の授業をそれぞれ見学。学年ごとに伝え方を変えながら、「プライベートゾーン」「良いタッチと悪いタッチ」などプライベートなパーツに対しての感じ方から、性器の正しい洗い方、命が誕生する仕組みなどが、主なテーマとして取り上げられていました。参加した生徒たちからは「プライベートゾーンの部位を正しく知らなかった」「精子と卵子が受精して、ひとつの命や細胞ができていくことを映像で初めて知りました」などと、新たな発見があったという声が挙がりました。
どこでもきちんと教えてくれないけれど、その先社会の中で生きていく上で不可欠なのが性に関する正しい知識。だからこそ、賛否両論あるテーマではあると思いますが、きちんと学校現場で伝えていく必要性をあらためて感じました。
B&は今後も、子どもたちが自分自身のカラダとココロを理解し誰もが健康で自分らしくいられる未来に向けた一助となりたいという思いから、本プロジェクトを応援させていただきます。