「挑戦することが誰かのためになる」中西悠子がチャレンジを続ける理由

200mバタフライで日本選手権5連覇を達成し、シドニー、アテネ、北京と3大会連続五輪出場。アテネ五輪では銅メダルを獲得した、競泳元日本代表の中西 悠子(なかにし・ゆうこ)さん。

現役引退後は、大阪府枚方市の教育委員会にも携わるなど、アスリートの経験を活かした教育活動に注力。中西さん自身、3人の子どもを育てる母親でもあります。さらに近年は、マスターズ水泳にも挑戦。先日行われた大会では、100mバタフライの日本新記録を樹立しました。

現役時代から輝かしい成績を収めてきた中西さんですが、なぜ引退後も歩みを止めずに挑戦を続けるのか。その理由を伺いました。

(聞き手・文 竹村幸)

子どもたちがより良い教育を受けられるために

ー水泳一筋の生活を続けてきた中西さんですが、教育現場に携わり始めたきっかけは?

声をかけてもらったことがきっかけですね。全く知らない世界でしたが、引退後はもっと広い世界を知りたいなと思い、引き受けました。チャンスをいただけたら「何でも挑戦」することを大事にしています。

ー「何でも挑戦」素敵ですね。教育委員会ではどういう取り組みをされていますか?

卒業式や入学式の参列はもちろん、トイレの改修、いじめ問題、不登校対策など、学校教育に関わることは全て携わっています。

直接子どもたちの様子を見ることで、現場は何で困っているのかを汲み取り、会議で解決に向けて話し合います。問題が様々なので時間がかかりますが、子ども達がより良い教育を受けられるように動いています。

ー教育に携わるようになってどのように感じられていますか?

未来を担う子どもたちに投資することの大切さを実感しています。安心して勉強できる環境を、大人が整えてあげないと。教育に正解なんてないと思いますが、子どものことをいちばんに考えて取り組んでいます。

学力も大切ですが、これからの多様性の社会では非認知能力(※)が必要になってくると思っています。私は、スポーツを通して臨機応変に対応できる力が身についたと実感しています。

競技を長く続けていたので、周りと比べると社会的な部分で出遅れたなと感じることもありました。でもスポーツを通して、勝ち負けや自分を成長させるために切磋琢磨した日々を過ごすことで、身につけた非認知能力は私の中で武器となっています。子どもたちも、柔軟に生き抜く力を身につけてほしいなと思っています。

※非認知能力:IQや学力テストの能力ではなく、物事に対する考え方、取り組む姿勢・行動など日常生活に必要な能力

写真:本人提供

少しの勇気を出して、踏み出してほしい

ー現役時代から、常に前向きに挑戦し続けている中西さんがすごく印象的です。そんな中西さんも落ち込むことはなかったのでしょうか?

あまり落ち込むタイプではありませんが、高校生の時に日本代表に選ばれなかったショックで、体重が6kg減ってしまったんです。もう水泳を続けることが無理だと思い、コーチに辞めることを伝えました。「体のことが心配だから、体重が戻ったら辞めても良いよ」と返答がありましたが、コーチはその間に説得しようという魂胆だったと思います。

そして、その思惑通り辞めることなく長く水泳を続けることになりました(笑)。 どうしても辞めたいと強く思っていましたが、コーチとの話し合いで納得すると、切り替えて練習に集中するようになりました。悪い結果に落ち込んでも、捉え方次第でプラスにできるということは私の強みだと思います。

ーまさに非認知能力ですね。体重が6キロも体重が減ってしまったことで、生理など体への影響は出なかったのでしょうか?

影響は出なかったですね。ただ生理の時期はすごくタイムが遅くなりました。心配したコーチから「生理が試合と被らないようにしてほしい」と母親に相談があったので、ドーピング対策の本を持って婦人科にいき、ピルを服用し始めました。副作用もありましたが生理に左右されずに、思い切り試合で頑張れるようになったのはピルのおかげですね。

ー早い段階で対策を立てられていたんですね。最近の選手や指導者への生理の理解は進んでいますか?

コーチたちの生理への理解は進んでいる一方、選手たちの意識が変わっていないように感じています。やっぱり内診への抵抗感があるのか、なかなか婦人科に行けないみたいですね。

生理痛が重い人は、何かしらの病気を抱えている可能性があります。自分事として捉えられていない現状を変えていきたいですね。ただSNSでの発信が増えている時代に、自分に必要な情報の選別も必要になってくると思います。彼女たちが行動に移せるような仕組みや取り組みを、これから行なっていく必要があるなと考えています。

日常生活でも競技の面でも、困ったことがあれば周りの人に相談してほしいと思います。ただ一人で悩むより、知識を持った人に相談することで道が開けると思います。SNSでメッセージを送ったり、イベントに出席したり、少しの勇気を出して一歩踏み出してほしいと思います。

全ての挑戦は、人生を楽しむために

ー先日、マスターズにも挑戦されて日本新記録を出されましたね。おめでとうございます!また泳ぎ始めようと思ったきっかけはありますか?

ありがとうございます!オリンピックでメダルを獲得し、マスターズ水泳でも日本記録を出している選手っていないなと思ったんです。誰も挑戦していないことに、チャレンジすることはかっこいいなと。子育てもひと段落したので泳ぎ始めました。

日本記録を狙うために本気で取り組もうと筋トレも始めましたが、以前と比べて疲れが取れないんです(笑)。ただ、育児だけをしてるときは水泳する時間もなかったので、今はチャレンジしていることが「楽しい!」と感じています。

ー現役の時とマスターズでは競技に対する思いは変わりましたか?

全然違いますね!マスターズに初めて出場した時はたくさんの方から声をかけていただき、新記録を出した時も一緒に喜んでくれました。こんなに喜んでくれる人がいるなら、今まで頑張ってきたかいがあったなと。

現役を引退してもスポーツで社会に貢献していきたいと考えていましたが、これが私なりの貢献の形かなと今は思っています。

ー挑戦することを楽しむ姿は、周囲の方達に一歩踏み出す勇気を与えていますね。最後に、今後の展望をお聞かせください。

私も子育てや、教育委員会のお仕事、そしてマスターズを通して周りの方に良い刺激を与えられる存在でありたいと思っています。挑戦することを止めず、自分にしかない価値を高めて誰かのためになれるような人でありたいです。人生は1回しかないので、楽しんで進んでいきたいですね!

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