東京五輪銀 三好南穂「指導者と選手の繋ぎ目に」支える側としてのバスケへの思い

東京五輪で銀メダルを獲得した、元バスケットボール女子日本代表の三好南穂(みよし・なほ)さん。五輪では強みのスリーポイントシュートでチームを引っ張り、Wリーグ(バスケ女子日本リーグ)でもトヨタ自動車アンテロープスのキャプテンとしてリーグ2連覇へ導きました。2022年4月に引退を表明し、現在はトヨタ自動車アンテロープスのサポートコーチとして活動しています。

現役時代は輝かしい成績を収めた一方、苦しいことも多く、ストレスが身体の不調として表れることもあったそうです。指導者として支える側になった今、選手に伝えたい思いについて伺いました。

(聞き手、文:競泳元日本代表 竹村幸)

 

選手とスタッフの架け橋に

ー三好さんは2022年4月に引退後、もともと所属されていたトヨタ自動車でサポートスタッフとして活動されています。引退後の進路については、どのように決められましたか?

引退後、チームから「サポートコーチにならないか」とお声がけいただいたんです。個人的には普通の社会人経験を積みたいと思っていたので、想定外でした。でもメンバーが大幅に入れ変わる年で、チーム作りが大変になるだろうなと。後輩たちが安心してプレーできるよう、サポートすることを決めました。

トヨタ自動車に移籍して1〜2年目の頃、バスケやチームのことについて親身に話を聞いてくださった女性コーチの方がいました。その方のおかげで救われた部分が大きかったので、私も選手にとって、何でも話せる存在になりたいと思っています。

ー選手からスタッフに立場が変わって、気づいたことはありますか?

物事を客観的に捉えられるようになりました。現役時代にかなり悩んだことも、もう少し楽観的に考えてもよかったかなと。後輩の悩みを聞いているうちにそう思うようになりました。

私自身同じような悩みを感じてきたからこそ、一人ひとりが相談しやすいよう、伝え方を工夫するなど寄り添っていきたいと思っています。もはや親のような気分です(笑)。

昨年まで一緒にプレーしていたので、選手と近い存在でいようと心がけています。選手は精神的にも身体的にもしんどいと感じることが多いので、気持ちを汲み取れるようフォローしています。

選手の時はスタッフの指導や対応の真意に気がつくことができず、疑問に思うこともありました。

でもスタッフの立場に立ってみると、選手に対する思いや意図に気がついたんです。選手に思いを率直に伝えること、スタッフにも選手の状況を伝えることで、良好なコミュニケーションに繋がると考えています。スタッフと選手を繋げる役割を果たしたいです。

試合の時は選手の気持ちで応援して、良いプレーには全力で喜んでいます。盛り上げることが、試合での私の役割。選手の活躍が、心から嬉しいですね。

 

苦しいまま終わりたくなかった

ー三好さん自身は現役時代に悩みはありましたか?

キャプテンだったので、自分のこともチームのことも悩みが尽きませんでした。一人で考え込むタイプだったので、引退する1年前は本当に苦しかったです。

「強くいなければいけない」と思い込んでいたんです。その中でメンタルを維持することは本当に大変で、(ストレスが)身体の不調として現れることもありました。

ー具体的にはどのような不調があったのですか?

眠れなかったり、不正出血があったりしました。不正出血が続いた時は、婦人系の病気を疑って病院に行きました。検査では異常はなく安心しましたが、ストレスが原因だったと思います。

毎日「辞めたい」と「もう少しやらないと」の繰り返しで、一度は引退を決めてチームに伝えたほどです。でも苦しいまま終わりたくない気持ちが強くなり、最後の年は「自分のためにやろう」と決めました。

ー覚悟を決めて挑んだ、東京五輪だったのですね。

東京五輪でラストと決めていたので、怖いものはありませんでした。これまでは「このミスで交代させさせられるかも」とネガティブに考えながらやっていたので、思いきったプレーができていませんでした。

覚悟を決めたことで、重荷がとれ、失敗への恐怖もなくなりました。自然と結果もついてきて、選手人生の中で最も楽しくできた1年間だったなと。スポーツにおいて、メンタルは大事だなと実感した瞬間です。

ちょっとしたきっかけや視野を広げることで、苦しい感情から離れられることもあると思います。そういうことを伝えていけたらと思っています。

銀メダルを獲得した私の使命

ー東京五輪の銀メダル獲得を受けて、女子バスケットは世間から注目を浴びたと思います。

そうですね。2016年のリオ五輪でもベスト8の結果を残しているので、悪くはなかったんです。でも男子バスケと違って、なかなか日の目を浴びることがありませんでした。ようやく東京オリンピックで注目してもらえるようになったものの、すでに注目度は少しずつ落ちてきているのかなと感じています。さらに盛り上げられるようにしていきたいですね。

男子のようなダンクや、華やかなプレーは少ないですが、戦術にも細かくこだわって全員で戦っているのが女子バスケです。頭を使って、みんなでゲームを進めていく楽しさを知ってほしいです。

ー女子バスケは競技人口こそ多いのに、もったいないですよね。

試合を見る機会が少ないことも考えられます。興味を持っていただくために、今回のように結果を出すことは大事だと実感しました。

小学生の競技人口は多いのですが、進学と共に辞めてしまう子がたくさんいます。大人になっても続ける人はあまりいません。運動量が多いことも要因のひとつだと思いますが、続ける子どもたちが増えてほしいですね。

Wリーグの選手も、結婚をしたら競技から離れる人がほとんどです。これからは結婚、出産をしても競技を続けられる環境があればとも思います。

ーコーチ以外にバスケットの普及活動もされていますね。

東京オリンピックで銀メダルを獲得した時、「(この経験を活かして)私にできることは何だろう」と考えました。ひとつはバスケを始める、あるいは続ける子どもたちを増やすことだと感じています。子どもたちに夢を与えることが、私にできることかなと。

バスケット教室で子どもたちにメダルを見せたり触ったりしてもらうと、目の色が変わるんです。オリンピックが終わった時、テレビで「私も将来金メダルを取りたい」と話している子がいて嬉しかったのを覚えています。

ー女子アスリートへのメッセージをお願いします。

競技を続けていると、悩みが尽きず苦しいことがたくさん起こります。良い方向に進むきっかけを作るために、悩みは抱え込まずに相談したり、見方を変えてみることが大事だと思います。

そしてこれからは、女性がもっと活躍していく時代になってほしいと感じています。私もバスケットを通して、子どもたちが憧れる未来を作っていきたい、そして今の活動以外にも、自分のやってみたいことを新しく探しながら進んでいきたいと思っています。悩みながらでも自分をたくさん表現して、一緒に頑張れる毎日を送っていきましょう!

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