宮崎早織が新たに伝えたい、いち女性としての自分。「競技は人生の一部」だからこそ

女子バスケットボールの最前線でチームを牽引し続ける、宮崎早織さん(所属:ENEOSサンフラワーズ)。2024年11月に初の著書『あしたも笑顔で』を発表し、これまでの努力や苦悩など、自身の半生について振り返っています。今回はその中でもさらに「自分自身と対話してパフォーマンスを管理すること」、そして女子アスリートのパフォーマンス管理において不可欠な「生理との向き合い方」について、具体的にお伺いしました。

また、取材日当日の2025年1月13日には入籍を発表。新たなライフステージを迎える今、宮崎さんが率直に感じていることとは?そして「いち女性としての自分も見てほしい」と話す背景にはどのような思いがあるのでしょうか。

仕事やスポーツに打ち込む女性が日々を過ごす上でヒントになる言葉が、たくさん詰まったインタビューです。ぜひ最後までお楽しみください。

<特集「PLAYING IN HER WAY」について>
メンタルとの向き合い方、パフォーマンス管理の方法/身体との向き合い方、デュアルキャリア、ファッションや美容などのオフの部分など、自分らしくスポーツと向き合うための工夫や考え方&思いを取り上げる企画です。

 

身体と対話してパフォーマンスを管理。「体調は自分が一番わかる」

ー書籍内で「自分の身体についてしっかり理解して日頃から対話しているから、怪我も少ない」と書かれていました。これは競技を続けていく上で強みだと思いますが、いつ頃からこのように考えられるようになったのでしょうか?

ENEOSに入ってから、前十字靭帯を怪我する選手が多いことに気づきました。同い年の同期が4人いて、そのうち3人が経験者です。結果的に、彼女たちはリハビリや、1年間バスケットができないといった、アスリートには耐え難い現実に向き合わざるを得ませんでした。

そんな苦しさやもどかしさを間近で見ていたら、自分も無理をしすぎると、同じように1年間を棒に振ってしまうかもしれないな、と感じたんです。そういった背景もあり、自分の身体としっかり向き合い対話しながらプレーしていこうと思うようになりました。

ー学生時代はいかがでしたか?

あまり身体に気を遣うことはなかったです。幸いにも学生時代に経験した怪我は疲労骨折くらいで、身体が痛くなることもありませんでした。ENEOSに入ってから、練習量や強度も変わり、いろいろと考えるようになりました。

ー自分の身体と向き合う方法のひとつが呼吸法だと紹介されていました。

特に試合前はいろんなことを考えてしまったり、呼吸が浅くなってしまったりするタイプなんです。それを少しでも減らすために取り入れています。

あとは、身体が硬くてストレッチがめちゃくちゃ嫌いで(笑)。一番身体が緩むなと感じるのが呼吸法で、日本代表の時のトレーナーに教えていただいたのをきっかけに今では試合前も後も実践しています。

ーアスリートの場合、無理をしてしまうこともあるかと。また、自分の身体をきちんと知ること自体が簡単ではないと感じます。ご自身の身体と対話するために、どのようなことに取り組まれているのでしょうか?

自主練など全体練習以外で身体を動かすときは、自分の気持ち的にやりたくないのか、本当に身体がだるくてできないのかをしっかり見極めるようにしています。

また少しでも痛みを感じる部分があれば、まずは自分でエクササイズをして、ある程度身体を整えます。それでも改善しなければ、チームのトレーナーに「今日は半分の負荷でお願いしたい」などと正直に伝えますね。トレーナーに判断を委ねるアスリートも多いと思いますが、私は「体調は自分が一番わかる」と思っているので、まずは自分で身体の状態をチェックするように心がけています。

ー書籍内でも「私は時間内でやりきって、すぐ帰る」とありましたよね。練習しすぎる、というのは特に日本人ならではの一面でもあるなと。

長時間の拘束が続くあまり、好きで始めたスポーツを嫌いになってしまうのが一番悲しいこと。なのに、学生のうちから拘束時間が当たり前のように非常に長いのが一番の悩みです。正直に言って、もう少し自由な時間が欲しいと感じています。ただ、決められたルールの中でやっていかなければならないので、なるべく練習時間内に自主練を済ませ、練習時間外には体育館に行かないようにしています。「練習が終わったらすぐ帰る」という選択肢が、バスケットを好きでい続けるためには最適な方法だと感じています。

あと、練習後は後輩たちが体育館を使いたい時間だと思っているんです。私もなかなか体育館を使用できない時期があったので、若手の成長機会を作るためにも、あえて譲りたいなと。

アスリートの世界は結果がすべてなので、若いときは自主練をたくさん頑張ってほしいです。努力を続けていろんな壁を乗り越えれば、いずれチームの主軸となれると信じています。自分の立場や役割を理解した上で周囲の信頼を得たら、そこからは自分のスタイルを貫いていってほしいですね。

若いうちから生理と向き合うのも大切なこと

ー生理も、女子アスリートが向き合わなければいけない大きなテーマです。宮崎さんはどのように対応されているのでしょうか?

私は生理がかなり重く、経血量も多かったので、学生時代は本当にしんどかったです。今はピルを服用しているので、症状はだいぶ軽減できています。

アスリートや若い女の子たちの間では、生理に関する正しい知識がまだ十分に共有されていないと感じています。実際、私もピルの存在について知らないまま大人になり、実業団に入ってから産婦人科に通うなかで、きちんと生理と向き合う必要があることを知りました。多くの子が「これが普通」「苦しくなるのは当たり前」と思っている現状が、少しでも改善されればいいなと。もっと自分の身体を大切にする意識を持ってほしいと強く感じています。

とは言うものの、学生時代は自己管理が難しい部分も多いと思います。監督が男性の場合も多いので、なかなか話しづらいかなと…。だからこそ学生に任せるだけではなく、先生や監督さんたちがなるべく選手に寄り添い積極的に生理について取り組んでいただけたら嬉しいです。

やはり身体があってこそのアスリート。学生時代からきちんと向き合って改善していくことができれば、選手たちの未来にも大きくプラスになると思います。

スポーツをしている女性だって、「かわいくいたい」「綺麗だと言われたい」と思うもの

ー今日(取材日:2025年1月13日)ご結婚を発表されました。これから迎えられる30代は女子アスリートにとって節目のタイミングかなとも思います。今率直に感じていることを教えてください。

まさか自分が結婚して、アスリートとしてバスケットを続けるとは…想像していませんでした。このような決断をしたのは、応援してくれる家族がいるからですね。

結婚して辞めてしまうアスリートも多い中で、あらためて周囲には感謝したいなと思いますし、私のように続ける選択肢がもっともっと増えてくれたら嬉しいです。

ー逆に続けていく上で、不安はありますか?

そこまでありません。家庭を持つのは不思議な感覚ですが、日常は変わらないので、もっと早く家に帰れるようにしたいなと思うくらいです(笑)。

ー女子アスリートでありながら一人の女性として、今後どのようにご自身を知っていただきたいですか?

バスケットボール選手としての宮崎早織を知っている方は、たくさんいらっしゃると思います。同時に私としては、1人の女性として魅力的であり続けたいと強く思っています。スポーツをしている女性はまだまだ「恋愛に興味がない」「美容に無関心」というイメージを持たれがちですが、実際は誰もがいち女性として「かわいくいたい」「綺麗だと言われたい」と望んでいると思います。

例えば私は髪を金髪にしたり、ネイルを楽しんだりして、自分を表現しています。「女性としてもしっかり生活しているんだな」と感じてもらえると嬉しいです。そして、私を知らない方々にも、髪型やネイルを見て「かわいい」と思ってもらえたらさらに嬉しいですね。

ーオフの部分があるからこそ、競技にもプラスに活きる部分があるようにも感じます。

ネイルをし始めてから感じたことは、ちょっと爪を見るだけで気分が上がるんですよね。同じように、髪色変えたらそれだけで気分が上がります。自分の身だしなみをしっかり整えることは、競技向上に繋がっていると思いますね。

ーちなみに、今後挑戦してみたい髪型はありますか?

ある程度全部やってみたのですが、まだ金髪ロングだけは経験したことがないのでいつかはやってみたいと思っています(笑)。

ー最後に、宮崎さんと同世代の女性や女子アスリートへのメッセージをお願いします。

仕事やスポーツを人生のメインにしている人はたくさんいますし、それ自体はすごく素敵なことです。一方で執着しすぎると、最初は好きで始めたはずのことが苦しくなってしまうこともあると思います。私もその一人です。自分の人生を少し俯瞰して、競技や仕事は一部であるという感覚を持てると、少し見方が変わると感じています。

苦しいことや悲しいこと、もどかしいことはたくさんあります。切り替えられないときもありますし、試合に負けて正直しんどいなと思うことも。でも、それは自分の中での苦しさにすぎなくて、私のことを知らない人からしたらどうってことありません。人生って、そういうものだと思います。

時々、ふと「こんなに考えすぎなくてもいいのかな」と思える瞬間があります。いろんな人を見ていると、そう感じることが多いんです。苦しいなと思ったときは、YouTubeを見たり自分の好きなことをしたりして、「どうでもいいか」と自分に言い聞かせて、気がついたらそのことを忘れているような時間を作るようにしています。

あまり重く捉えずに、「まあ、いいか」という気持ちを持ちながら日々を過ごすと、人生がもっと楽しくなると思っています。私自身もそうやって、これからも進んでいきたいです。そんな私を見て、「日常生活もこんなに楽しめるんだ」と感じてもらえたら嬉しいですし、SNSを通して皆さんとそんな気持ちを共有できればと思っています。

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