木村沙織&髙田真希「代表キャプテンが初めてのリーダー経験」孤独と葛藤を経て見つけた自分らしい向き合い方
元日本代表としてそれぞれの競技でキャプテンを務め、数々の国際大会で活躍してきた木村沙織さんと髙田真希さん。リーダーとしての孤独や葛藤、チームを率いることの難しさを経験しながらも、自分らしく前向きに挑戦し、大舞台で素晴らしい結果を残されてきました。
今回はそんなお二人に、「強く美しく、私らしく生きるために、ポジティブに挑戦するために大切なこと」をテーマに語っていただきます。引退後も新しい分野で自分らしく輝き続ける木村さんと、現役選手でありながら社長としてバスケットボールの普及活動にも取り組む髙田さん。それぞれの視点から、自身のキャリアを振り返り、リーダーとして乗り越えた試練とそこから得た気づき、そして現在挑戦している新しい活動についてお話しいただきました。
【本企画は、株式会社カティグレイスが展開するコスメブランド「LUMIURGLAS」との共同で実施いたしました国際女性デー特別イベント(2025年3月10日実施)での対談です。】
(撮影:槇野翔太)
日本代表キャプテンを経験して知った「リーダーの孤独と葛藤」
ーお二人とも日本代表のキャプテンを経験されていますが、チームを率いる立場を経験して難しかったことや悩んだことがあれば教えてください。
髙田:私は東京オリンピックに向けた約5年間、日本代表のキャプテンを務めました。でも実は、それまでまったくリーダー経験がなくて、キャプテンをやるのはこのときが初めてだったんです。もともとプレーに専念したいタイプで、人前で意見を言うこともほぼありませんでした。
でも代表チームを率いる以上、そのままの性格ではいけないと思ったんです。目標を達成するためにも、自分が先頭に立って発信していこうと、気持ちを切り替えました。最初は「これを言ったらどう思われるかな?」「みんなはどう感じるかな?」と悩みましたし、相談相手もいなかったので孤独を感じる日々でした。なのでキャプテン期間中は正直ずっと苦しかったですね。
ーそういった日々をどのように乗り越えられたのでしょうか?
髙田:自分なりに試行錯誤しつつ、「これは言うべき」と思ったことはその都度伝えるようにしました。言い続けていくうちに、徐々にみんながついてきてくれて嬉しかったですね。継続的に声をかけることの大切さを肌で感じました。結果的に、先頭に立つことへの恐れも自然となくなりましたね。
もちろん最初からすべてがうまくいったわけではありませんが、キャプテンとしての経験を重ねるうちに、少しずつ成長できた気がします。
ー木村さんはいかがでしょうか?
木村:今の髙田さんのお話、「わかる…!」って思いながらずっと聞いていました。私もリオオリンピックを目指すタイミングで初めて代表のキャプテンを経験したんですが、それまでは一度もリーダーをやったことがなくて…。しかも私は人前で話すのが本当に苦手で、みんなに声をかけたくても、声が震えてしまうようなタイプでした。
でも、やっぱり最初はすごく孤独でしたね。それまではずっと先輩方に支えられて自由にプレーしてきたのに、キャプテンになった途端、自分がみんなを引っ張る側に。チームを率いる立場になって改めて、本当に周りに助けられていたんだなと気付かされました。
キャプテンとして意識したチームメイトとの向き合い方
ーお二人とも日本代表のキャプテンを務める前はリーダーの経験がなかったとのことですが、実際にやってみて、ご自身の中でどのような変化がありましたか?
髙田:私は人前で話すことへの苦手意識がかなり減りました。以前よりもずっと前向きになって、色々なことにチャレンジするようになったとも思います。リーダーを経験させてもらって、先頭に立つ難しさをたくさん感じましたが、それ以上に楽しさやそこでしかできない貴重な経験も積ませていただきましたし、経験を通じて得た結果や過程が、自分自身を大きく成長させてくれたと思います。
木村:私はキャプテンを経験して、キャリアだけじゃなく人間的にも大きく成長できたと感じています。特に私は人に任せることが苦手で、何でも自分で抱え込んでしまうタイプだったんです。でも年齢層も幅広い代表チームでは全部を一人でこなすのは難しくて、周囲に任せていいんだと気づいたら、とても気持ちが楽になりました。キャプテンはあくまで役割で、チームはみんなで作るものなんだって思えるようになったのは大きかったですね。
ーキャプテンとしてチームメイトや監督、コーチとコミュニケーションを取る中で心がけていたことはありますか?
髙田:私は選手一人ひとりへの「目配り」を大切にしていました。やっぱり選手にはそれぞれのペースや個性がありますから、困っている子がいたらこちらから歩み寄って、「もっとこうしたらいいんじゃない?」「次はあんな感じでやってみようよ!」と積極的に声をかけていました。
一方で東京オリンピックのときには、トム・ホーバスヘッドコーチから「自分と同じように選手に厳しく接してほしい」と強く求められていました。ただ、私自身はトムさんみたいに強い口調で叱ることはできなかったですね。私まで強い言葉を使ったら、若い選手たちが萎縮してしまって、本来のプレーが出せなくなるかもしれないなと。
だから私は先回りして「ここは気をつけようね」「もう一回集中していこう!」と、伝えるようにしていましたね。練習が長引いてチームの集中力が落ちそうな時でも「もうひと踏ん張りしよう!」って声をかけたり。実際その一言で、雰囲気がぐっと良くなるんです。なのでチーム全体をよく観察しながら、一人ひとりに合ったアプローチを意識してコミュニケーションを取っていました。
木村:私もキャプテンになったばかりの頃は、「もっと自分から積極的にみんなに声をかけなきゃ!」って頑張っていたんです。でも、やっぱりコミュニケーションは苦手でしたね(笑)。キャプテンがかける言葉って、普通に先輩が声をかける以上に重みを持ってしまう気がして、どうしても気軽に話しかけられなかったです。もちろん相談に来てくれた選手には丁寧に対応していましたが、自分からはなかなか声をかけられず…。結果的に、コミュニケーションが得意な仲間にその部分を担ってもらい、私はプレーでチームを引っ張る形に落ち着きました。そのおかげでうまく役割分担できていたと思います。
ーエースとキャプテンを兼任する立場でしたが、ご自身のプレーに集中するのは難しくなかったですか?
木村:最初は本当に難しかったです。当時はロンドン五輪後の世代交代のタイミングで、チームは若手中心の新しい体制に変わっていました。私は「若い選手たちが伸び伸びとプレーできる環境を作らなきゃ」と気負いすぎてしまって…。気がつけば、自分自身のプレーが思うようにいかなくなっていたんです。
そんな時、真鍋監督から「キャプテンという役割も大事だけど、ちゃんと“木村沙織”として戦いなさい」と声をかけていただいて、ハッとしました。そこからは、もっと仲間を信頼しようと思えるようになり、自分のプレーにも集中できるようになったんです。
選手活動の先に見つけた、私たちの新たな使命
ー髙田さんは現役の選手として活躍されながら、社長としてもお仕事をされていますよね。今はどんなことを中心に取り組まれているんですか?
髙田:今は学校訪問をして子どもたちとバスケットを楽しんだり、地域のお店と協力してマルシェを開催したりしています。マルシェでは、ビンゴ感覚で楽しめるオリジナルのバスケットリング「Nine Hopes」を設置して、バスケットをきっかけに地域の方々がつながり、交流が生まれるような場づくりをしています。
また、1対1で戦う「1on1」の大会も新たに企画しました。これは、引退した選手や競技から離れていた人たちに、もう一度輝くチャンスを提供したいという思いから始めた取り組みです。今後は日本国内だけでなく、海外での開催も考えています。
ー現役選手でもありながらその活動量はすごいですね。大変ではないですか?
髙田:「忙しくない?」とはよく言われますね(笑)。でも、自分がやりたいことを楽しんでできているのでむしろ充実していますし、こうした活動が選手としてのモチベーションにもなっているんです。それに私自身が試合で活躍することで、「この選手のプレーを生で見てみたい」と思ってもらえたら、それが女子バスケの普及にもつながるかなと。今は選手活動と社長業がお互いに良い刺激になっていますね。
ー木村さんはリオ五輪後に1シーズンプレーしてから翌年引退されて、現在は子育てをしながらバレー関連のアンバサダーとしてもご活躍ですよね。今後はどんなことに挑戦したいですか?
木村:現役を引退してから8年ほど経ちますが、2年前に息子を出産して、今は子育て中心の毎日です。その中でこうしたイベントに参加させてもらったり、小学生の全国大会でアンバサダーを務めたりしています。今は「何かに挑戦する」よりも、「誰かを応援したい」という気持ちがとても大きいですね。
最近も全国小学生バレーボール大会や春高バレーを会場で観戦し、スポーツの素晴らしさを実感しています。特に、親子で喜び合う様子を間近で見ると、自分が親になったこともあって、母への感謝の気持ちが自然と込み上げてきます。
それに実際に試合会場で観戦すると、「この選手すごく成長したな」とか「あのプレーが素晴らしかったな」といった新しい発見があって本当に楽しいです。家でテレビを見ていると、つい家事をしながらになってしまい、気づいたら試合が終わっていることも多いんですけど(笑)、だからこそスポーツは会場で応援する楽しさがあるなとしみじみ感じています。
ー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。皆さん、ぜひこの話を参考にポジティブに自分らしく、一緒に挑戦し続けましょう!