「自分らしく、勝ちにいく」フェンシング木村毬乃のパリ五輪への決意
日本代表歴10年を超える、フェンシング・サーブル日本代表の木村毬乃選手。高校生から競技を始め、わずか2年後(高校2年時)に全国初優勝を果たしています。現在は2024年のパリ五輪での金メダル獲得を目標に活動中です。
幼少期からオリンピックを目指して練習を重ねてきた中で、上手くいかずに悩んだことも。「自分は自分らしく進んでいい」と、他競技のアスリートとの出会いを通じて感じたそうです。当時の気持ちや、競技への思いを伺いました。
※フェンシングには、フルーレ・エペ・サーブルの3種目があり、突きの有効面や攻撃が異なります。
フェンシング一家に生まれ、オリンピックを目指す
ーまずは、フェンシングを始められた経緯と現在の活動について教えてください。
もともと、フェンシング一家に生まれたんです。父はユニバーシアード大会日本代表にも選ばれていて、実家にはたくさんの写真やトロフィーが飾られていました。親戚も含めて、どこに行ってもフェンシングの話で盛り上がっていたのを覚えています。そんな環境の中で育ったので、「私がオリンピックで活躍して、家族を笑顔にする」と小学校低学年の時に決めていましたね。
中学までは近くでフェンシング部のある学校が私立しかなく、金銭的な問題で通えませんでした。本格的にスタートできたのは高校生の時です。それまではバドミントンやアルペンスキー教室に通い、足腰を鍛えて準備を進めていました。それでも、小さい頃からフェンシングをしている同年代の選手には、なかなか追いつけなかったです。
そこでフルーレから父の専門種目のサーブルに変更し、父と二人三脚で練習を開始しました。部活動以外の時間は、父との自主練を続けました。
その成果もあり、高校2年生の冬に初めて個人で全国優勝、インターハイで準優勝を達成したんです。その後は応援してくれていた祖父の死をきっかけに本気で強くなろうと思い、法政大学へ。インカレでは個人・団体戦で優勝を経験し、日本代表にも選ばれました。
ー2021年には、所属していた会社を退社し、フリーで活動を始められました。オリンピックを目指す中で、なぜ環境を変える決断をされたのでしょうか?
大学卒業後の所属先の会社には強化費などしっかりとサポートしていただいていました。フェンシングに集中できる環境を提供してくださったのですが、大学生の時とは違い、例えばSNSでの発信などどうしても自由度が低くなってしまうなと。少し気をつかってしまう場所だったんですよね。申し分のない環境を提供いただいているからこそ、負けた時に申し訳ないと思ってしまうことも多かったです。
一度改めて自分らしくフェンシングを貫きたいと思い、フリーになる決断をしました。
「自分らしくていい」他競技のアスリートから得た気づき
ここまでだと順風満帆に見えますが、大学時代は上手くいかないことも多かったですね。
ー上手くいかなかった、というと。
オリンピック出場を目指して大学へ入学したものの、周りとモチベーションの差があり、競技に集中できない時期もありました。今は人それぞれの状況が異なることを理解していますが、当時の私は悩んでしまって。誰にも相談できない日々が続き、苦しみました。
ー悩みながら競技を続けることはつらかったのではないでしょうか?
つらかったです。
当時は、誰にも遠慮せず思いきりフェンシングを楽しむことを忘れてしまっていたんです。試合ではどう勝負をすればいいのかがわからなくなったり、周りの目を気にするあまり勝つことが怖くなる時もありました。
ーそこから成長できた、きっかけがあったのでしょうか?
大学2年生の冬に大怪我をしました。1年半競技から離れることになり、JISS(国立スポーツ科学センター)でリハビリを受けることになったんです。その時に他競技のアスリートの方々と交流する機会が増えて、刺激を受けました。
他の選手から「そのままでいいんだよ」と言っていただいた時は心が救われました。ありのままの自分を肯定してもらえたことが、自分らしく頑張ろうと思えたきっかけです。
同時に、自分がいる環境は小さかったなと。いろいろな考え方があって良いし、「こうでなければならない」ことはないんだ、と。当時の出会いがあったからこそ、今があるんだと思っています。
ー自分らしくいるために、心がけていることはありますか?
かつては、一生懸命頑張ることが自分らしいと思っていました。でも楽しむことに意識を向けた方が、自分の力を発揮できることに気づきました。気持ちが楽になったんです。周りと違っても良い、自分の性格を活かして生きようと思いました。
亡くなった祖父の言葉からも力をもらっています。「人生を謳歌するように」と教えられてきたので、思う存分楽しみながら自分らしく歩んでいきたいです。
楽しく生きる努力
ー改めて、パリ五輪への思いをお聞かせください。
金メダルを目指して、パリ五輪をフェンシング人生の集大成にしようと思っています。そう思えるくらい、納得できるものを作り上げたいなと。後悔だけはしたくないので、やりきれるように自分らしく楽しみながら取り組んでいきたいです。
ー最後に、スポーツに取り組む女性へメッセージをお願いします。
自分がこうなりたいと思ったものを最後まで追い求めてほしいです。時には孤独を味わうこともあるかもしれません。でも自分と向き合い続けることが、成長につながると思っています。
つらいことを楽しさに変えられるようになると強いと思いますし、楽しく生きる努力をすることも大切だと思います。自分らしく、取り組み続けていただきたいですね!