「デビュー戦はアジャ・コングさん」プロレスラー岩田美香「怪我から看板スターまでの復活劇」

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女子プロレス団体・センダイガールズプロレスリング(通称:仙女)に所属する岩田美香(いわた・みか)さん。プロレス好きの母親の影響で、幼少期からプロレスを身近に感じてきた岩田さんは、中学生のとき自らもプロレスの世界に身を投じることを決意されました。

仙女入門後わずか3か月で華々しいデビューを飾るも、医師からプロレス引退を宣告されるほどの首の怪我を経験。その後は見事復帰を果たし、仙女を牽引する存在へと上りつめました。

今年デビュー9年目を迎えた仙女の“蹴撃の美戦士”こと岩田さんに、今でも忘れられない人生初の試合や、引退も考えたという休養期間中の話、さらには地域密着型の団体ならではの活動についてお話を伺いました。

人生初の生観戦に衝撃を受け、プロレスラーを志す

ープロレスラーになろうと思ったきっかけを教えてください。

中学生のときに、博多スターレーンで母と一緒に観たプロレスの試合がきっかけです。初めて観た生のプロレスに一発で衝撃を受けて、その瞬間に「私もプロレスラーになる!」と決意しました。

ーお母様はプロレスファンだったんですか?

そうなんです。実は、母が熱狂的なプロレスファンで、常にプロレスの試合が流れている家で育ちました。子供の頃はそれに対して不満しかなかったです。好きな番組を観れなかったので(笑)。

ー実際にプロレスラーになられるまでの経緯を教えてください。

中学を卒業したらすぐプロレスラーになる気でいたんですが、母から「せめて高校だけは卒業してほしい」と懇願されて、しぶしぶ高校に進学しました。

高校入学後は、近所の総合格闘技の道場に通いつめていました。そこでは、地元のプロレスラーさんから技の基本や受け身の技術を学んだり、一人のときも筋トレをして基礎体力をつけたりと、日々自分を鍛える生活。高校卒業後は、本格的にプロレスの道を志すと決めて仙台へ移住しました。

私は仙女への入門後、わずか3か月でデビューを果たしましたが、それは地元で通っていた道場のお陰です。現在、私が蹴り中心のスタイルでやっているのも、当時の環境が影響していると思います。

ー入門から3か月でのデビューはすごいですね。大体皆さんどれくらいでデビューされるんですか?

人によって全然違いますが、一般的には半年から1年弱です。みんな毎日練習しているので、その中でどれだけ濃い練習をできているかどうかでデビューまでの日数に差が出ますね。

ー岩田さんのデビュー戦について教えていただけますか?

新潟県で年に1回行われるビッグマッチが私のデビュー戦で、対戦相手はアジャ・コング選手でした。初戦からビッグネームすぎて、長年の夢が叶う舞台なのに逃げ出したくなったのは、今振り返ると良い思い出です。

ーその初戦を今振り返ってみていかがですか?

試合開始前にアジャ選手がリングへ入場する姿を見て、鳥肌が立つくらい恐怖を感じたことを覚えています。これまでにないくらいガチガチに緊張してしまって、試合が始まってからもなかなか緊張はほどけなかったのですが「お前来いよ!」と声をかけられた瞬間に、戦いの精神に火がついたんです。生まれて初めての感覚でした。

肝心の試合はというと、アジャ選手の分厚い体には、得意技のドロップキックも全然効かず、全くと言っていいほど歯が立ちませんでした。今でもデビュー戦は昨日のことのように鮮明に思い出せます。

ープロレスファンのお母様はどんな反応でしたか?

母もデビュー戦のために福岡から駆けつけてくれたんですけど、試合を観てなぜか泣いていました。娘がボコボコにされていたからですかね?プロレスすごい好きちゃうんかい!とツッコみたくなりました(笑)

「もうプロレスは無理」どん底から復帰までの道のり

ー2019年7月から約1年半、首の怪我で戦線を離脱されていました。怪我をされたときのお話についてお聞かせいただけますか?

首に関しては、突然症状が出たわけではなく元々痛みがありました。違和感がありつつも痛み止めを飲みながら、だましだまし試合をしていたという感じです。プロレスラーたるもの痛みの一つや二つは当たり前ぐらいに思っていました。

ですが、ある日突然首の痛みが急激に悪化し、眠ることすらできない状態に……。さすがにマズいと病院に駆け込んだら、診断結果は「ヘルニア」。医師からは「もうプロレスは無理」と断言されて、さすがにその時はすごく落ち込みました。まだプロレスラーとしての人生が始まったばかりなのに「もう終わり?」って。どん底に突き落とされたような気分でした。

ー現在は復帰されているので、首は治っているかと思いますが、どういった治療を受けたのでしょうか?

結論としては、自然治癒です。首がまだ若く、骨が弱いため手術は難しいと。「じゃあどうしたらいいんですか?」と尋ねると、ひたすら安静にしてケアに専念するしかないと言われました。

治療方法がないなら仕方ないと、アドバイス通りにケアを開始。首の状態が良いときだけ少し負荷をかけながらメニューをこなすといった感じで調整を続け、結果的には復帰できる状態まで治りました。

治ったと言ってももちろん完治ではありません。プロレスの受け身は体に負担がかかるので、いつ再発してもおかしくはないんです。今も首に関しては無理をせず、練習メニューを調整しています。こればかりはうまく付き合っていくしかないですね。

ー休養期間中はどのような生活を送られていたのですか?

日常生活もままならないくらい首の痛みがひどかったので、実家のある福岡へ一旦戻りました。

帰省中の生活は、仙台での緊張感ある日々とは違って、とても穏やかな毎日でした。久々の実家暮らしで母にも甘えたい放題。ありがたいなと思う反面、このままここにいたら人として駄目になるんじゃないかという不安もありました。

だからと言って、仙台に戻るのも怖かったんです。首の痛みは少しずつ良くなってはいたものの、また再発したらと考えると、復帰への一歩が踏み出せなくて……。再びリングに立ちたいという気持ちと、また怪我をしてしまったらもう立ち直れないという気持ちが交錯していました。

ーなぜ仙台に戻ることができたのですか?

帰省している間も、仙女のメンバー達が連絡をくれたり、実家にサプライズでプレゼントを送ってくれたり、本当にいろいろと親切にしてくれて、そのやり取りを通じて、彼女たちの存在が私の心の支えになっていることに気がついたんです。最終的には、私の居場所はやっぱり仙女だなと思いました。

ー無事復帰できて本当に良かったです。仙台に戻るまでは、不安も大きかったのではないですか?

実は、もうプロレスはできないと言われたとき、気持ちもすごく落ち込んでいたので、代表に「辞めさせて下さい」と辞意を伝えたんです。ただ、もし仮にまたプロレスができる状態になれば、一から出直させて下さいともお願いしました。でもそれを聞いた代表が「籍は残すから、必ずとは言わないけどやりたくなったら帰ってきなさい」と言ってくれて……。私としてはその言葉にすごく救われましたし、仙台に戻ろうと思えた一つのきっかけでもあります。もちろん家族のサポートも心の支えになりました。特に母には感謝しかありません。

ーお母様がプロレスに理解があることも大きかったのでしょうか?

それもあると思います。帰省中は本当に何から何まで支えてくれて、母からは「このまま福岡にいてもいいからね」という言葉もありました。でもそこに甘えたら良くないという気持ちと、プロレス好きの母のためにも、ここで諦めたくないという思いもあって、仙台に戻ることを決めました。

試合中はオラオラ全開!どんな相手にも怯まず立ち向かう

ー普段のトレーニングについて教えてください。

平日は午前と午後の2部練習で、トレーニング時間は各2時間です。午前は10時からランニングや筋トレなど、主に基礎体力をつけるメニュー。午後はリングで、技や受け身の練習をします。試合前になると、技の精度を上げることに時間を割きますね。

ー試合前の準備として、他に行なっていることはありますか?

初めて対戦する選手の場合は、動きや戦術を研究するために、試合動画を繰り返し見ています。複数回対戦している選手の場合は、新しい技や表現を考えることが多いです。今回はこういう技を出したいなとか、ここで気持ちを出したいなとか、試合前は結構イメージトレーニングをします。

また対戦相手に関わらず、試合前日はリングに立ったときに何を見せたいかを考えながら眠りにつくことが多いのですが、よく夢の中でプロレスをしています。でも夢の中では、リングシューズが全然履けないとか、入場曲が流れてるのにコスチュームを着ていないとか、めちゃくちゃな状況(笑)。起きたら「夢で良かった……」的な展開が多いです。

ー初戦は緊張されたというお話もありましたが、今はいかがですか?

試合数を重ねたことで少しずつ楽しめるようにはなりましたが、やっぱり試合のときは緊張します。今も入場前は結構ガチガチです。自分の入場曲が流れるタイミングでスイッチが入るので、そこがスタートの合図となって試合モードへと気持ちが切り替わります。

ー試合中は劣勢になるシーンもあるかと思いますが、どのようなメンタリティを持って相手と対峙しているのでしょうか?

どれだけ劣勢だろうが、格上の相手だろうが「いや負けねえよ?」って気持ちで常に戦ってますね。誰よりもハングリー精神はあると思うので、試合中はオラオラ全開です(笑)。

でも最初からそんな調子ではありませんでした。実は私、デビューから3年くらいは一度も勝てなかったんです。若い頃に負け続けたことで、どれだけやられても相手に立ち向かう精神が養われました。

ー女性アスリートとして、月経など体の変化への対処はどうしていますか?

もともと生理が重いタイプなので、2日目とかは動けないくらい酷いときも……。それで道場の練習に出られないこともよくあります。ピルを飲んでコントロールしている選手もいますが、私は生理不順ではないこともあって飲んでいないんです。飲むと症状が軽くなると分かってはいても、まだ試せていないですね。今は試合日と重なったときは痛み止めで対処しています。

生理前も、感情が不安定になったり、体が重かったりで、万全のコンディションと言える日は月の半分くらいなのかなと思います。

ー個人差はありますが、全ての女性アスリートの悩みですよね。

仙女は女子プロレス団体ということもあり、生理や女性特有の体の悩みについては理解があると思います。状況を話せば必ずお休みはいただけるので、選手としては恵まれた環境ですね。

お米作りをして気づいた「プロレスと農家」の共通点

ーInstagramで、農作業をされている投稿を拝見しました。これはどういった活動なのでしょうか?

実は『農姫米』というお米を、農機具販売会社の五十嵐商会さんと協力して作っているんです。田植えから袋詰めまで、全工程に携わらせていただいて、宮城県内の各地で田んぼをお借りして作業をしています。

私は農業高校出身なので、高校時代に学んだお米作りの経験や農業関連の知識が今になって役立っています。過去にやってきたことって何にも無駄じゃないですね。自分としては、耕運機や草刈り機を使うのがメンバーの中でも一番上手だと思っています。ちなみに、地元の農家さんからも「うちに嫁に来ないか?」って言われるレベルなので全然盛っていないですよ(笑)。

 

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ーまさに地域密着の活動ですね。

プロレスだけではなく、地元の方々と一緒に何かできるというのは、地域密着型の団体ならではですよね。貴重な経験をさせてもらっているので、本当にありがたいと感じています。

これはお米作りに関わって気づいたのですが、農業とプロレスって似ているんですよ。重い機械を背負って日々作業されている農家さんは筋肉隆々で、気持ちも強い。どんな環境下でも収穫のために365日作業するその姿は、自分たちプロレスラーに通じるものがあるなと。私たちがお客さんに熱い試合を提供するように、農家さんは一生懸命育てた作物を提供しているんですよね。そういった共通点も意識しながら、今後も「農業女子」として盛り上げていきます。

ー実際に地元の方々も応援しに来てくれるのですか?

地元企業に勤めている方が試合に足を運んでくれますし、宮城県では月に一度、宮城野区文化センターで試合を開催していて、そこには毎月通ってくれている常連さんもいますね。

ー女子プロレスの場合、ファンは男性の方がメインなのでしょうか?

昔は、圧倒的に男性ファンの方が多かったです。でも最近は、女性ファンの方も増えてきました。女性の方がプロレスを観るときって、友達を誘うことが多くて、そこからファンの輪がどんどん広がっている気がします。

ー同性からの応援は嬉しいですね。

実際の試合を観て「かっこいい」と思ってくれたり、憧れてもらえるのは、本当に嬉しいです。

仙女の選手は、一人ひとりがプロレスへの熱い情熱を持っていて、自信に溢れています。仲間思いでありながら、自分が自分がというギラつきもある。女性の持つかっこよさを最大限に発揮することで、さらにファンを増やしたいです。

ー最後に、今後の目標について教えてください。

最終目標は仙女のトップに立つことです。団体最高峰のベルトは私がもらいます!あとはタッグベルトも欲しいですね。今「レッドエナジー」というタッグを組んでいるので、タッグとしても頂点を目指したいです。強い自信とハングリー精神で、結果を残していきたいと思います。

 

岩田美香さんが、団体最高峰のベルトに挑戦!

※9月18日(月)こちらの大会で岩田美香さんが見事勝利し、13代目王者に輝きました!仙女ワールド初戴冠、おめでとうございます!

株式会社ホットハウスPRESENTS
『女子プロレスBIGSHOW in 仙台』

センダイガールズワールド選手権試合 30分1本勝負
(王者)ミリー・マッケンジーvs岩田美香(挑戦者)
※第12代王者 初防衛戦

日程:2023年9月18日(月祝)15:00試合開始
会場:仙台サンプラザホール

▼チケット料金等大会情報
https://sendaigirls.jp/schedule/42720/

▼前売チケット好評発売中!座席が選べる仙女公式チケットサイト
https://c.tstar.jp/cart/performances/268865

ほかチケットぴあ、ローチケでも販売中です。

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