「怒られながら練習していたら、今の私はない」元競泳金メダリスト・岩崎恭子が伝えたいこと
競泳競技史上最年少金メダリスト(1992年バルセロナ五輪時)、岩崎恭子さん。1998年の現役引退後、現在はスポーツコメンテーターやスイミングアドバイザーとして活躍しています。
2021年からは、新たな取り組みとして「岩崎恭子のGOLD PROJECT」をスタート。子育て中のお子さんを持つ親御さんを対象に、「子どもの体、心づくり」をテーマにセミナーを展開されています。
このプロジェクト立ち上げには、競技引退後に参加したアメリカでの指導者研修に大きな影響を受けたとのこと。「岩崎恭子のGOLD PROJECT」立ち上げのきっかけやアメリカで体感した指導法、子どもたちへの思いを伺いました。
比較しない。子どもたち一人ひとりが輝けるように
ーはじめに、「岩崎恭子のGOLD PROJECT」とは何かを教えていただきたいです。
成長期のお子さんの身体やメンタルについて、私自身の経験から得た知識や考え方をお伝えするプロジェクトです。親御さんを対象とした、オンラインセミナーの開催が主な活動内容になります。2021年4月〜6月に第1回を開催し、オンラインとオフラインを組み合わせた合計8回のプログラムを実施しました。
第1回GOLD PROJECTの様子
ー始めたきっかけは何だったのでしょうか?
友人から、子どもの習い事について相談されることが増えたんです。「本格的にスポーツをやらせる方が良いのか、本人が楽しいまま続けさせたほうが良いのか?」「栄養管理や体重管理はどのようにすればいいのか?」「指導者との接し方は?」などと。これらの悩みに対して、私の経験から答えられることはあると感じましたし、さらに多くの方々へ伝えていきたいと思うようになりました。
ー印象に残っている相談はありますか?
小学校1年生のお子さんを持つ方が「周りの子たちと比べて、(うちの子は)個人メドレーのタイムが遅い」とおっしゃっていたことですね。私は「その年齢でバタフライまで泳げるのがすごいんだよ、褒めてあげて」と伝えました。
周囲と比較してできないことに気がとられると、お子さん自身も親御さんもつらくなっていくと思うんです。子どもはそれぞれ輝くものを持っているので、その輝きを活かせる環境を作ってあげることが大切だと考えています。できることを、言葉できちんと伝えてあげて欲しいですね。
ーお子さんを応援しているからこそ、できていないことに目を向けてしまうことも多いですよね。
日本は、2022年の「世界幸福度調査」(※)で54位となっています。とても裕福な国なのに、どうしてこうなってしまうのか……。
日本人は謙遜するあまり、“認める”ことが苦手だと感じています。周囲を気にするのではなく「自分自身がどうありたいか」を大切にすることが幸福度にもつながるのではないかと。
※国連機関である持続可能開発ソリューションネットワーク(SDSN)が毎年発表している世界ランキング
ー認めてあげることが、お子さんの“幸福度”につながると。
そうです。そのほうがお子さんも楽しいと思いますし、続けたくなると思うんですよね。
いいところを認める。アメリカで体感した指導法
ー岩崎さんは競技引退後、海外指導者研究生としてアメリカで学ばれています。海外で勉強しようと思ったのは、理由があったのでしょうか?
アメリカは競泳強豪国です。世界一を常に争うような国で、どのような指導が実践されているのか見てみたいと思いました。私の場合強化選手の指導というより、習いはじめの子どもたちへの指導といった、競泳人口の拡大に興味があったんですよね。
ー実際現地へ行ってみて、日本の教育とどのような違いを感じましたか?
先ほどの話にも繋がりますが、「良いところを認めてあげる」教育が印象的でした。私が日本のスイミングスクールで体験してきたのは、「悪い部分を直していく」指導。これが当たり前だと思っていました。
もちろんアメリカでもよくないところは指摘しますが、しっかりいいところを褒めます。子どもたちもお互いに尊重しあう雰囲気があって、すばらしいなと。
アメリカの子どもたちの方が積極的に発言する傾向にありますが、これも普段から“認められている”環境で育っているからなのかと思いましたね。
ースポーツを続ける上で、幼少期に認められた経験は重要ですよね。褒められることで芽生える楽しさもあると思いますし、後々競技として続けるきっかけにもなるかなと。
成績がいいから褒めるというより、過程を認めてあげることが重要だと思います。幼少期のうちは、結果だけに着目せず瞬間瞬間でできていることを伝えてあげて欲しいです。
子どもの「楽しいからやりたい」を生み出す環境づくり
ー岩崎さんのご両親は、幼少期どのような関わり方をされていたのでしょうか?
競技に関して、成績が悪いから怒られるということはありませんでした。でも周囲の人の話を聞いていると、私が育った環境は当たり前ではないと感じさせられます。もし怒られながら水泳をしていたら、今の私はいないと思っています。両親には感謝しかありませんね。
私が3歳のころに、父が体調を崩して危険な状態になったんです。そういったことが実体験としてあったから、父も母も、「とにかく元気に育って欲しい」という思いがベースにあったのだと思います。
当然両親も「結果を出して欲しい」と願っていたと思いますし、食事や練習への送迎など精一杯のサポートをしてもらっていました。一生懸命、支えてくれていました。ただその期待がプレッシャーとはならなかったのが、良かったのだと思います。
ーサポートしつつも、子どもたちが主体的に伸び伸びとできる環境づくりが大切なんですね。
オリンピック選手でも、「やらされてきた」がゆえに自分に誇りを持てていない人を見てきました。幼少期のうちから、自分で考えて取り組んでいくことが重要だと思います。子どもたち自らやりたいと思うような環境を作ってあげるべきです。
ー改めて、今後の展望をお聞かせください。
日本では、「スポーツ=競技」といった考え方が主で、選手として続けられなければスポーツから離れてしまう人が多いです。私自身、スポーツに育ててもらったといっても過言ではありません。だからこそ、皆さんに生涯通じてスポーツを楽しんで欲しいと思うんです。
トップレベルを目指さなくても楽しめる環境が広がっていけば、もっとスポーツが盛んになるのではないかと。私なりに伝えられることを、これからも発信していきたいと思っています。
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