星奈津美と益子直美が考える、女性がスポーツを続けやすい環境とは。「競技以外も自由に楽しんでいい」

女性は生涯を通じて、出産や結婚などのライフステージの変化、生理など女性特有の身体の変化が伴います。さまざまなハードルがある中でスポーツを続けやすい環境を作るためには、社会全体としてどのように向き合うことが求められているのでしょうか?

今回お話を伺ったのが、元競泳日本代表の星奈津美(ほし・なつみ)さんと、元バレーボール日本代表の益子直美(ますこ・なおみ)さんです。日本水泳連盟アスリート委員、日本バレーボール協会理事と競技のトップ組織に所属する立場としても、今後の女子スポーツのあり方について語っていただきました。

※本企画は、佐賀県嬉野市が主催するシンポジウム「アスリートが語る女性目線のまちづくりー対話で創る未来の嬉野ー」の一環として実施しました。本シンポジウムでは、星さんと益子さんに専門家の方々も交えて、女性が輝くまちづくりについて議論しています。
<シンポジウムのレポートはこちら!>

(聞き手:竹村幸、文:市川紀珠)撮影:嬉野市中央体育館「U-spo(ユースポ)」にて

 

「上手くなるためにプライベートはいらない」風潮があった

ー女性としてスポーツを続けていく中で、違和感や難しさを感じることはあったのでしょうか?

益子さん
私が現役だった30年前は、指導者の厳しい指導が一般的でした。「監督が怒らないと選手はきちんとやらない」「選手は競技だけに取り組んでいなければならない」といった風潮が浸透していて、とても厳しかったです。休みはほとんどなく、毎日寮の門限直近の20時半まで練習する生活を過ごしていました。

自由がないゆえに、自分でも「どのような選手、女性になりたいのか」が全くわかりませんでした。進路についても、決まっていた実業団に入ってから、実は関東の大学全チームからスカウトされていたことを知ったほどです。自分の意思ではなく、大人に全て決められていました。

バレーで上手くなるためには女性らしさやプライベートを捨てて、競技以外に目を向けてはいけないといった雰囲気もありました。メイクは27歳くらいで初めてしましたね。恋愛も禁止で、ばれたら競技をやめなければいけない可能性もあったんです。

星さん
競泳でも、かつてはネイルが禁止でしたね。

益子さん
スポーツは楽しんではいけないものだと思い込んでいたので、これが当たり前だと思っていました。引退後にアトランタオリンピックへキャスターとして行った際、選手が「楽しんで頑張ります!」と発言していて怒りを感じたことを覚えています。「日の丸をつけて楽しむってどういうことなの?」と。現役時代の経験上、バレーを楽しむという発想がなかったんですよね。

 

星さん

私も、「恋愛を含め、競技以外に目を向けてはいけない」雰囲気を感じていました。実際に今の旦那さんと結婚を考え始めた時、現役中に結婚を発表することにためらいを感じていました。結婚後も現役で続けている選手がいなかったので、やめておこうと。つい最近も旦那さんと「どうしてダメな風潮があったんだろうね」と話すことがありました。

益子さん
ようやくバレー界でも、結婚や出産を経ても続ける選手が増えてきました。産後復帰した荒木絵里香さんや、昨年末に結婚し「一緒にパリ五輪を目指す」と話している西田有志さんと古賀紗理那さん。素晴らしいと思っています。

私も一人の女性として、自由に競技を楽しんでプレーしたかったと強く感じています。スポーツはワクワクする、楽しいものであるべきです。

「女性だからしようがない」で終わらせない。嬉野市スポーツフューチャーセンターができること

益子さん
女性特有の身体の問題についても、指導者や選手自身の理解が必要だと感じています。チーム内で、誰かが試合の日に生理になってしまうことは多々あります。

競泳では、生理について話しあう環境はありましたか?

星さん

水中では水圧で止まっていますが、プールから上がるときに血が漏れてしまうこともあります。隠せない部分があるので、案外オープンに捉えられているんですよね。男子も一緒に練習していることが多いので見慣れています。ただ、まだまだ生理に対する正しい理解を深める必要があると感じています。

益子さん
男性も含めて、女性の身体について正しく理解する機会は重要だと感じています。

星さん

生理への対応法も、正しい選択肢を知ることが大切ですよね。

ー女性がスポーツを続けやすい環境をつくるために、必要だと感じることを教えてください。

益子さん
バレー界では、選手起点での活動や発信が少ないんです。まずは協会が、選手たちが地域や社会貢献に目を向けられるようなきっかけ作りをするべきだと感じています。選手たちとコミュニケーションをとって、どのような活動をしてみたいか聞いてみるのもひとつかなと。

星さん

私はアスリート委員会に参加していますが、机上の話し合いで終わってしまうことが多いように感じています。選手と協会の架け橋であるべきはずなのに、できていないんです。より選手ファーストで取り組んでいく必要性を感じています。
※アスリート委員会:連盟運営のために、選手の意見を拾う組織のこと。現役選手や元選手から構成される。

引退後に視野が広くなったり、新たな考え方を知ることも多かったです。例えば他競技の選手と交流する機会を作り、そこでの現状はどうなのか、選手がどのような考え方を持っているのかを共有しあいたいですよね。学べることも多いと思います。

例えば競泳では、レース前の待ち時間は他の選手と話して過ごすことも多いんです。でもレスリングの選手に聞くと、「試合前に話すことなんてありえない」と。意外と自分たちでは気づけない競技ならではの良さにも気づけますよね。

益子さん
バレー界も世界が狭いので、他の競技の選手と交流したいですね。選手自身の意識も上がっていくと思います。

ー女性がスポーツや仕事を続けていくには、さまざまなハードルがあるのが現状です。

益子さん
女性特有の身体の不調もありますし、体力的に男性に負けることも多いです。社会として女性が直面する課題を軽視せず、受け入れていく必要があると感じています。

女性が働きやすい、練習しやすい環境について社会全体で考える必要がありますよね。一度結婚や出産を経て復帰してもいいし、子どもと一緒に取り組んでもいい。私もスポーツを支える立場として、女性に優しく必要な環境は何なのかを考えていきたいです。ぜひ一緒に頑張っていきましょう!

星さん

海外だと、合宿や試合へお子さんが一緒に行くことも当たり前になっていますよね。日本は追いつけていない部分がたくさんあると感じています。「女性だから」という理由でやめるのはもったいないなと。スポーツを続けたいと思うなら、挑戦し続けて欲しいです。一人ひとりが模索して新たな道を切り開いていくことで、変わっていくと思っています。

ーそれこそ嬉野市スポーツフューチャーセンター(※)など、社会全体として女性が輝くまちづくりについて考えていくことが求められていますね。


※スポーツの力で、特定のテーマや課題に人と注目を集め、組織の垣根を超えてともに社会課題について議論したり学びを深めたりする場所です。嬉野市スポーツフューチャーセンター構想について、詳しくはこちら!

益子さん
こうして行政が起点となることはとても重要だと感じています。先ほどお話したように、組織や連盟であってもなかなか実行に移せないことが多いんです。「こうなればいいよね」というアイデアでとどまってしまいます。皆さんの考えや意見を具体的な仕組みや環境に落とし込んでいける場所がフューチャーセンターなのだとあらためて感じました。

星さん

私は自分自身が罹患していたバセドウ病について知ってもらう活動をしているのですが、なかなか専門家の方や他競技の方とお話する機会がありませんでした。いろいろな視点や繋がりがあったほうが活動が広がっていくことをあらためて感じたので、フューチャーセンターが今後どのような展開をみせていくのかが楽しみです!

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