【アスリートの働き方】スポンサーに頼りすぎないキャリアを。
「スポンサーがついている」と聞いて、みなさんは何を想像し、どう思いますか?
「うらやましい!」「私もスポンサーがほしい」ーそう思うアスリートは多いと思います。しかし、本当にそうでしょうか。スポンサーがつくということは、スポンサー企業と契約するということを意味します。そして、その契約はいずれ終了します。
今回は「スポンサー頼みのリスク」について学んでみましょう。
■教えてくれる人
浦辺 里香 (うらべ りか)
特定社会保険労務士
早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。本業と並行し、SSS(サムライ・スポーツ・ソリューションズ合同会社)の代表を務め、アスリートのセカンドキャリアをサポート。クレー射撃(スキート)元日本代表、ブラジリアン柔術紫帯(2020ヨーロピアン選手権青帯フェザー級ダブルゴールド)。
浦辺さんの個人ブログはこちら。
アスリートのスポンサー
アスリートにとって、スポンサーからサポートされる内容は、主に2つあります。
金銭的なサポート
基本的には、競技に必要な費用(施設使用料や試合のエントリー費用、遠征時の旅費交通費など)をサポートする契約です。なかには、これらの費用とは別に、「年間いくら」という契約でスポンサーフィーを受け取る場合もあります。
スポンサー企業にとって、「アスリートによる宣伝効果が高い」と判断されれば、スポンサーフィーも高くなる傾向にあります。
物品のサポート
スポンサー企業で製作・販売しているアパレル(Tシャツ、パンツなど)やサプリメント、スポーツ用具などを使用し、宣伝をする契約です。最近では、テレビや雑誌だけでなく、SNSでの露出が目立ちます。
たとえば、選手が取材を受ける際や、チームメイトとの写真をSNSに投稿するときに、サポートを受けているブランドのロゴが入ったウェアを着ていれば、視聴者や読者には「○○選手が着ているブランド」という印象がつきます。
スポンサー企業にとって、金銭的なサポートよりも物品のサポートのほうが行ないやすいため、多くのトップ~アベレージアスリートが、物品サポートを受けています。
スポンサーが求めるもの
そもそも、スポンサー(sponsor)とは、「事業の資金を出してくれる人、後援者、広告主」という意味があります。スポンサー企業としては、「自社の宣伝」がメインですが、なかには企業ブランドのイメージアップや、CSR(Corporate Social Responsibility)といって、「企業が果たすべき社会的責任」の一つとして支援をすることもあります。
また、イベントやクラブ運営をサポートするために、お金やモノ(スポンサー企業が製作・販売している商品)を提供するケースもあります。スポーツイベントでよくある光景ですね。
いずれにしても、スポンサー企業はサポートするアスリートやチームに対し、何らかの「目的」と「期待」を持って支援をします。それらを理解し、サポートに見合った対応や成果を出すことが、スポンサード・アスリートに必要です。
スポンサーの存在に頼りすぎないこと
ここ最近は、コロナ騒動もひと息ついたかのように、かつての日常が戻りつつあります。しかし、この数か月で世界経済は大きなダメージを受け、変化を求められました。
日本でも同じく、さまざまな変化が起きました。仕事をしている人は、お給料が減ったり、アルバイトのシフトに入れなかったり、残念ながら会社を辞めなければならなかった人もいるでしょう。
この状況は、会社の大きさに関わらず、すべての企業が抱える問題となっています。つまり、スポンサー企業も例外ではないのです。
スポンサーフィーは削られやすい「経費」
企業にとって、売上げが減ってしまった場合、まずは「経費を減らすこと」を考えます。なかでも、宣伝広告費は「真っ先に削られる項目」といってもいいでしょう。
スポンサーからの金銭サポートのみで生活をしていたアスリートにとっては、急に生活費がゼロになります。これでは競技を続けることも、ましてや生活のレベルを維持することも難しくなります。
このような緊急事態を避けるためにも、ある程度の貯金をすることや、複数のスポンサー企業と契約をするなど、あらかじめ考えておく必要があります。
金銭的なサポート、物品のサポート、いずれのスポンサードであっても、私はアスリートに対して「他の収入源を確保しておくこと」を強くすすめます。
アスリートにとっては、「活動をサポートしてもらう目的」でお金を得ていますが、企業としては「宣伝広告の目的」でお金を払っているのです。このことをきちんと理解し、お互いに責任を果たさなければなりません。
今回のコロナショックにおいて、私たちは「誰かに頼ることは難しい」ということを学びました。人も、企業も、自分自身のことで精一杯です。ましてや、企業は従業員を守らなければなりません。そうなると、スポンサー契約の打ち切りは当然の結末なのです。
これに対して、日ごろから少しでいいので、何らかの「収入」を得ていれば、生活を維持することは(なんとか)可能です。
引退後にも活きるデュアルキャリアはおすすめ
アスリートのキャリアについて、「デュアルキャリア」という言葉がよく使われます。これは、アスリートの人生の一部(競技をメインで行なっている時期)において、何らかの仕事をしながら、競技を続ける状況を指します。引退後は、その仕事へシフトチェンジする場合がほとんどですが、現役中でも「デュアルキャリアから学んだことが、競技へ活かせた」というアスリートは多いので、このキャリアプランはとても有効です。
デュアルキャリアをスタートすることで、いざというときに、スポンサー企業に頼らず生活を維持できます。さらに「視野を広くもつこと」「いろいろなことを学び吸収すること」ができます。
これは、人間としてもアスリートとしても、大きく成長することを意味します。その結果、みなさんの現役生活をより長く続けることが可能となります。
アフターコロナを迎える今後、スポンサーのあり方を含め、これからのキャリアについて、考えてみませんか。