「2つのトップチームを持つ」。日本女子サッカーが必要な意識改革とは?(WEリーグ勉強会レポート)

2023年4月20日、公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)主催により、「スペインの女子サッカー戦略」をテーマとして勉強会が実施されました。

内容:スペインの女子サッカー戦略
①女子サッカー隆盛の社会的背景
②ラ・リーガの女子サッカーチームへの具体的施策

2022-2023年シーズンよりスペイン女子サッカー1部リーグがプロ化され、Liga Fという16クラブによって構成された組織が運営しています。男女クラブのチームが11チーム、そして5チームが女子だけの独立クラブです。

どのようにLiga Fがプロ化されていったのか、女子サッカーに注力していったのか語られました。日本の女子サッカーに必要な要素や観点は何なのか、考えるきっかけとなりました。

<今回の講師>
ペドロ・マラビア・サンチス(Pedro Malabia Sanchis)氏
Liga F(スペイン女子プロサッカーリーグ)戦略本部部長 Chief of Development and Strategy
経歴:FIFA女子競技大会部部長(2017‐2018)
La Liga(スペインプロサッカーリーグ)女子サッカー部門ダイレクター(2015‐2023)
Valencia CF (1999‐2015)

クラブ、リーグ、競技団体において、フットボール戦略や経営部門を担当。普及からプロ化に至るまで、女子サッカーに関する幅広い経験から、女子サッカーの意義や価値を唱え、ラリーガの施策に取り込んだ。大会運営、計画、マーケティング、国際的強化、デジタル、コミュニケーション、放送、法務など、知識は多岐にわたる。

全てはどのように始まったのか?プロ化までの道のり

2015年、スペインの女子サッカーに関しては、2つの意見に分かれていました。女子サッカーに可能性を感じ投資をしたいと考えていたクラブと、女子サッカーに注力する意味を感じていないクラブです。当時は露出が少なく、協会も特に力を入れていませんでした。

その中で、複数クラブ関係者が現状について現La Liga 会長の Javier Tebas氏(ジャビア・タバス)へ話に行きました。「これまでは男子にしか注力をしてこなかったが、女子サッカーも成長をさせるべき」と合意をしました。La Ligaの半分以上のクラブが女子チームも持っています。ここを成長させないわけにはいかない、と。

2015年10月より、女子サッカー改革にLa Ligaは乗り出しました。La Ligaの役割は、女子チームの発展をサポートすること。そしてサポートだけではなく、投資をしなければ発展しないこともわかっていたので、2016年〜2020年の5年間、年間で合計3.5億円程度を各クラブへ投資しました。

5年間を経てある程度基盤ができ、次のレベルに行く時代が来ました。

2020年5月に政府へプロ化を申請し、2021年6月に正式にプロ化が決定しました。2022年3月にはLiga Fの規則が制定され、2022年6月に初めて参加クラブの代表者会議が開催され女性会長のBeatriz Álvarezさん(ビアテス・アラベス)が誕生しました。その後9月にはリーグ戦を始める必要があったため、急ピッチで準備をしたんです。

ただ大会運営をするのではなく、新たな女子サッカーとしての“ブランド”を作ることが使命でした。そのための組織体制をつくり、プロモーションをしなければなりません。TVや配信会社と契約して露出を増やし、スポンサーを決める必要がありました。

参加チームも大幅増加。何に力を入れたのか?

各クラブへの投資は、2種類の用途を指定して各クラブに配分がされました。一つめはフロントスタッフの人件費として、4つの役職(マネージャー、財務、マーケティング、広報)の設置が義務付けられました。もう一つはプロモーション費です。この結果、4シーズンにわたり7クラブが収益化を実現することができました。

Liga Fの戦略としては、4つの方針がありました。プロ化に向けてレベルアップを図ること、露出を増やしていくこと、価値のある大会を作っていくこと、そして国際的な連携です。

主要試合を配信し、男子同様のカメラを取り入れてトップレベルの観戦体験を提供しました。さらに、可能な限りチームや試合に関する情報にアクセスをしやすくしました。各クラブ、選手やスタッフにそれぞれのストーリーがあります。個人が持っている背景や思いをしっかりと出していくことを意識しました。また、年間を通じてキャンペーンを打ち出し、リーグとしてのメッセージを打ち出していきました。例えば、女子サッカーが見たくなるようなビジュアル、ショートムービーなどです。

日本女子サッカー界へ。「信じない手はない」

スペイン女子サッカーの課題も、まだたくさんの課題があります。
・施設環境の整備
・サッカー自体のレベルアップ
・TVや配信でのデジタル観戦体験の向上
・女子のみの独立クラブの体制強化
・スポンサー収入を増やす
・CSR活動や社会貢献活動への注力

そして何より、ブランディングが大切だと思っています。ただ大会を開催するのではなく、女子サッカーならではの価値を作る必要があります。Liga Fの「F」には、「footballista」(スペイン語で「選手」)、「family」(ファミリー)、「future」(未来)という意味が込められています。

女子サッカーは財産であり、商品です。単なる社会貢献ではありません。しっかりと戦略をもって、投資をして拡大していくことが求められています。

そして、クラブが「2つのトップチームを持つ」意識を持つことも重要です。日本では「トップチーム」というと男子を指すと思いますが、男子も女子もトップチームなのです。女子のチームがあるのは、トップチームを2つ持つということ。当然クラブの価値は2倍になり、結果的にクラブが得をすると理解していただきたいです。

信じるかどうかはクラブ次第です。でも私は、女子サッカーはフットボールの未来だと思っています。しかも日本は世界一になったことがありますよね。スペインはまだないのです。信じない手はないと思います。今、世界的にも成長している女子サッカーはチャンスです。

編集後記

(B&編集部:市川紀珠)
私は、小学校時代にアメリカで女子サッカー経験があり女子サッカー観戦も好きです。投資されている額の規模、もともとのサッカー市場の規模が日本と違うとはいえど、海外の女子サッカーカルチャーの広がりをみていると少し残念に感じる気持ちがあります。

それでも、今回の勉強会を通じてヒントはあったように思います。例えば、広報面で「各クラブ、選手やスタッフそれぞれのストーリーがあると思います。個人が持っている背景や思いをしっかりと出していくことを意識しました」という話がありました。まだまだ国内の選手を知らない人は多いと思います。アスリート一人ひとりの思いが伝わることが、応援したいという気持ちに繋がるのではないでしょうか。

2023年夏には、女子W杯が始まります。ここからどのような歴史が新たに幕を開けるのか、楽しみにしたいと思います。

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