「サッカーしかない」から「サッカーがある」元なでしこ・泊志穂の引退後の気づき。
こんにちは!
元女子サッカー選手の泊志穂です。
私は愛知県の名古屋市出身で、12歳からサッカーを始めました。幼少期はソフトボール・陸上・水泳・サッカーといろいろな競技をしていました。中学生になるタイミングで何を続けるか考えていたところ、女子のサッカーチームがあると勧められ体験練習に参加したのがサッカーを選んだきっかけです。
経歴だけで見ると、名古屋FCレディース(現:朝日インテック・ラブリッジ名古屋)→大阪体育大学→浦和レッズレディース(現:三菱重工浦和レッズレディース)→AC長野パルセイロ・レディース→FC Wacker Innsbruck(オーストリア)→BV Cloppenburg(ドイツ)→AC長野パルセイロ・レディースと、多くのチームを経験してきました。
また2017年になでしこジャパンに選出され、日本代表としてプレーした経験もあります。20年間のサッカー人生を経て、2022年6月に引退しました。
私が引退した気持ちや引退して気づいたこと、これからのこと。引退してから少し整理ができたので、コラムを書くことにしました。
よく頑張ったな、私
約3年前からシーズンが始まるたびに「ラスト1年だと思ってやりきろう」と覚悟を決めては、シーズン後に「今年1年、自分はやりきれたのか?」と自問自答を繰り返してきました。
そしてようやく今シーズン、引退を決意しました。
決断するのはとても難しく、葛藤する日々が続きました。いつの間にか自分の気持ちよりも周りの期待や思いばかりを気にして、引退したいのか続けたいのか、自分の気持ちがわからなくなってしまうこともありました。
「環境を変えたら気持ちが変わるかもしれない」そう思って移籍も視野に入れ、自分の気持ちと向き合う日々でした。
そんな中AC長野パルセイロ・レディースで迎えたリーグ最終戦、アウェイでのサンフレッチェ広島レジーナとの試合。リーグ戦終盤はスターティングメンバーでの出場が多かったのですが、この日はベンチスタート。現役ラストの試合は結局最後までピッチに立つことができませんでした。でもそのときにこれまでの競技生活における全ての喜怒哀楽がフラッシュバックして、初めて「よく頑張ったな、私」と思うことができたんです。やりきったんだな、と思いました。
もちろん最後の試合でピッチに立てず悔しい気持ちもありました。でも今シーズンが終わったんだと思うと、気持ちが軽くなったんです。身体の力も抜けた感じがしました。サッカーをしてきて初めて、自分で自分を認めてあげることができました。そこで私は引退を決意しました。
「サッカーしかない」と思っていた
サッカーがあったから、たくさんの人と出会い、いろんな場所に行くことができました。なのに引退を意識し始めてからずっと、「サッカーしかない」と思っていたんです。人生の半分以上をサッカーに費やしてきて、私からサッカーを取ったら何もなくなるのでは、と。
サッカーから離れて他のことにチャレンジするとなると、すべてゼロからのスタートのような気がして、「今さら難しいのではないか」と自信が持てませんでした。「まだ引退しないほうがよかったのでは?」と自己嫌悪に陥ってしまうこともありました。
でも引退後のキャリアについて考えている中で、「何のためにサッカーをしていたのだろう?」ともう一度サッカーと向き合うことができたんです。
サッカーをはじめた頃は、ただただうまくなりたかった。大学サッカーでは「チームのために」と思う気持ちが強くなり、プロチームに入団してからは応援してくれる人のためにも、とプレーしていました。最終的には、私が闘う姿で観ている方々へ勇気を与えたいなと。
私にはサッカーしかないと思っていましたが、振り返ってみると、サッカーを通してたくさんのものが得られたと気付きました。うまくなりたいという向上心、チームのためにと思う協調性、リーダーシップ。応援してくれている人のためにと思う責任感。サッカーをしている人たちはみんな少なからず培うことができているのではないかと思います。
その中でも私は、これまでの経験を経て、「失敗してもチャレンジし続けること」そして「試合に出ている人、ベンチにいる人、ベンチ外の人全ての立場の気持ちがわかること」が自分の強みになったと感じています。
「私にはサッカーしかない」から、「私にはサッカーがあったから」と感謝の気持ちを取り戻すことができました。
やるか、やらないかは自分次第
引退して約4ヶ月が経ちました。本当にあちらこちらと心が揺さぶられて、浮き沈みが激しいせわしない毎日を送っていました(笑)。
今は、最後に在籍していた長野県でイベントに呼んでいただいたり、友達のバイトの助っ人に行ったりしています。
そして実は10月から、ヨガインストラクターの資格を取得するために勉強しています。
ヨガはほとんどやったことがありませんでした。でも妹に連れられてヨガの体験に行き、衝撃を受けたんです。現役中にやっておきたかったなと。身体が硬いのでポーズはほとんどとれなかったし、よろけて倒れそうになりましたが、終わった後は身体が軽くなった感じがして、気持ちもスッキリしていました。
現役中は毎日の疲労と戦い、メンタルコントロールもかなり大変でした。プロリーグ(WEリーグ)に所属していましたが、私はアマチュア契約だったので毎日が時間との闘いでした。
朝起きて走りに行って、午前中は仕事、午後からはチーム練習。練習のあとはジムへ行って筋トレをして、お風呂で交代浴をしていました。
自主トレーニングと練習が重なる中で、ジムに行く回数を減らすなどもしましたが、なかなか疲れがとれませんでした。「休むことが妥協なのではないか」と自分を責めてしまう日もありました。
また、年齢を重ねれば重ねるほど弱音を吐く場所がなくなり、孤独を感じることも。だからそういったアスリートのために、疲れ切った身体を整えて、気持ちを鎮められる空間を作りたいと思いました。
ヨガを通して、少しでもアスリートや弱音を吐かず頑張る方々の助けになれればいいなと。
正直、ワクワク半分、不安半分です。でもやりたいと思った日が人生で一番若い日で、自分次第で誰にだってチャレンジできると思っています。やるか、やらないか。今のワクワクする気持ちを信じて、またサッカーと同じようにチャレンジと失敗を繰り返しながら突っ走っていきたいと思っています。