「今なら話せる」アイスホッケー元日本代表・鈴木世奈「現役中は言えずにいたこと」【後編】
冬季オリンピックに三度も出場経験がある、アイスホッケーの元日本代表・鈴木世奈さんが波乱万丈な競技人生と引退後の今を綴ります。
中学から社会人リーグに所属し、2017年からブリヂストンタイヤソリューションジャパンで「アスリート従業員」として2022年まで競技を続けた鈴木さん。引退後は「元アスリート従業員」となり、同社に勤務されています。
現役時代の葛藤と挑戦を記した前編に続き、今回の後編では引退後に得た気づき、変化したことなどをお伝えします。
アイスホッケーを通じて鈴木さんが見つけた「勝利とは別の“人の心を勇気づけるもの”」とは。
現役中、背中を押してくれた「力強い存在」
“CHASE YOUR DREAM”-それはさまざまな困難を乗り越えながら、夢に向かって挑戦し続けるすべての人の挑戦・旅(Journey)を支えていくというブリヂストンの思い。
そしてこのメッセージを体現するすべての人で構成されるチーム、それが“TEAM BRIDGESTONE”です。チームの顔として活動する「ブリヂストン・アスリート・アンバサダー」をはじめとし、彼ら彼女らを支え、応援するすべての人もひっくるめて“TEAM BRIDGESTONE”。
私も現役の時は、アイスホッケーという競技を通じてこのメッセージを体現するためにアスリート・アンバサダーとして様々な挑戦や発信活動をしてきました。支えてもらうばかりの立場ではありましたが、現役を引退した今は一転、挑戦する人を応援し、“支える側”に立てている気がしています。
現役中、私の背中を押してくれたのは、この“TEAM BRIDGESTONE”でした。
入社する前もしてからも自分は会社に対して、また従業員の方々に対して、何ができるのだろうという思いが常にありました。スポーツの世界は「結果が全て」と言われることも普通で、私自身も結果を出すためにアイスホッケーに取り組んでいたのは間違いありません。
実際、アスリート従業員として入社した私は、競技を最優先に考えられる環境にもありました。ただ、練習がない時に出社し、従業員の方と一緒に業務を行うなか で、競技の話を聞かれたり、応援してくれたりすることは多々ありましたし、素直に嬉しかったです。それと同時に応援してくれている人の存在を 知るほど、私の中では期待に応えたいという「責任感」が増し、それが大きなモチベーションにもなっていきました。
アスリート・アンバサダーをさせてもらう中で、結果を出すことはもちろんですが、「応援されている、支えられている」という実感が日に日に増していきました。「怪我なく自分の力を出してほ しい」「納得するまで全力で挑戦してほ しい」と耳にすることもあって、結果はもちろんですが、挑戦すること自体を応援してくれている気がして、過程も見守られている気がしました。企業としてはやはり結果は出してもらいたいという思いのかたわら 、アスリートの気持ちを汲んでくれているTEAM BRIDGESTONEがとても心強かったです。
ブリヂストンでは、積極的に従業員応援団を結成し、応援をする機会があります。私自身、現役時代に大きな横断幕を持って従業員の方々に応援に来てもらった経験があります。その時はなんだか恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ち、寒いリンクに来てもらってしまって申し訳ない気持ち、いろいろな思いで応援団の姿をリンクから見ていました。
アスリート従業員の「引退後」
引退した今は、車いすバスケットボール、自転車競技など、大きな横断幕の横で従業員応援団としてTEAM BRIDGESTONEの選手たちのことを応援しています。試合の応援をするだけではなく、従業員応援団の運営サポートもさせてもらっており、「従業員が楽しく応援できる雰囲気作り」を自分の中では大切にしています。
従業員を受付で案内することもありますし、 試合時間以外を楽しんでもらうために従業員の方と競技に出ているアスリートの話をしたり、今後の試合展開を一緒に予想することもあります。全国各地から集まる従業員とコミュニケーションできることは毎回の楽しみです。
また、アンバサダー活動の一つとしてDE&I (ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)への理解を深めるための施策に参加する機会もあります。現在ブリヂストンが行なっている「Dream Studio by TEAM BRIDGESTONE」がその一つです。
すべての人が自分らしい毎日を歩める社会づくりを目指し、未来のため、ブリヂストン・アスリート・アンバサダーや各界で活躍を続けるゲストが一緒に DE&I について考えていくイベントです。
その中でも、私は従業員とその家族向けのイベントに参加したことがあります。そのイベントでは、DE&I実現とはどういうことなのか、実際に体験しながら考える7つのいろいろな企画を実施しました。パラリンピックの選手指導のもと、競技用の車いすに試乗するコーナーやボッチャ体験などもありましたが、私が印象的だったのが五感を生かしてコミュニケーションを図る「未来言語ワークショップ」。
参加者がそれぞれ「見えない人」「聞こえない人」「話せない人」の役割を担い、自己紹介やしりとりなどのコミュニケーションを体験するワークショップです。これが私にとっては衝撃的で「何事も人の立場にな って考えよう」と頭では少しだけ理解していたつもりでしたが、「何事も自分で体験しないとわからない」とこの時改めて実感し、学びしかありませんでした。
長年チームスポーツを経験し、多様な人と一緒に何かに取り組むことの難しさや面白さは体感してきたつもりでしたが、アンバサダーとしてこのような様々な活動を通じてまずは社内から、そして社外へ、DE&Iを広められたらと改めて実感しました。
引退後に気づいた「勝利と同じくらい大切なもの」
現役を引退し、少しだけ考え方が変わったことに気づきました。「結果への考え方について」です。応援してもらう側の立場だと「結果が全て」とどうしても考えてしまいます。これは間違っていないと今でも思いますが、現役を引退し、チームブリヂストンの選手を応援していると、結果が出たら最高に嬉しいが、結果ファーストではなく、頑張っている姿から刺激や感動をもらっている自分がいることにも気がついたのです。
それは、従業員の方と一緒に応援団としてドキドキしながら選手を見守り、アスリートの行う体験会イベントに参加する機会を通じて、アスリート自身の思いや取り組み方を間近で知る機会に恵まれたことが大きいのだと思います。
チームブリヂストンの活動として、大会の報告会など、普段は知ることのできない選手の素顔や思いを聞く機会が多々あります。選手たちのことを 知るほど自然と応援したい気持ちも大きくなってきて、自分がプレーしている時よりも緊張したり、結果によってはすごく嬉しかったり、逆に悲しかったり…良い意味で気持ちがブレブレです。
「自分が実際にプレーしているわけではないのに、こんな気持ちになるんだ」
「応援することでこんなにもパワーがもらえるんだ」と毎回驚いています。
つまり、私が言いたいのは、選手は結果も大事だが、全力で挑戦することに対して人の心は動くということ。全力で挑戦をすること自体が、少なからず応援する人に力を与えている。現役中は選手としての責任感からそんなことは言えなかった自分がいたのかもしれませんが、今なら自信をもって言えます。
今の私は、挑戦する人にとって支えや応援は何より心強く、パワーになることを知っています。一人では頑張れない時も、支えがあれば人は頑張れる。だからこそ一人でも応援、支える人を増やしたいという思いがあります。
同時に、応援する、支えることでこんなにもパワーをもらえるなんて知らなかったからこそ、人を応援することでたくさん のパワーをもらえることに気がついてもらえたら嬉しいです。
現役選手の思いを知る私が「多くの人に還元できること」
私自身、現役中に 応援してくれているチームブリヂストンの人たちと もっと 会い、自分の言葉で伝えることができていたら、 競技の魅力をもう少し知ってもらえたり 、挑戦を通じてもっと何かを感じてもらえたりしたのではない かと思っています。
現役中もそんな思いを持って活動をしていて、会社も何度も機会を作ってくれていましたが、チーム練習やトレーニング、合宿の日程は自分では調整できないことも多くあり、参加する機会が限られてしまっていました。
そんな現役選手の状況も思いも理解している私だからできること、それが「応援してくれる人たちと選手を繋ぐパイプ役になること」。
だから彼らの挑戦を少しでも多くの人に知ってもらいたい、という思いで現役中に参加できなかった活動に今では積極的に参加させてもらっています。これからも彼ら彼女らの魅力を伝え、一人でも多くの方をチームブリヂストンと巻き込み、一体となれるよう 活動を続けていきたいです。
最後に、これは少しスケールの大きなことではありますが、全ての人に対して「スポーツ、運動の楽しさや素晴らしさを知ってもらいたい」という思いが私にはあります。これは観る側、 プレーする側の 両方に対してです。
一つ目の理由は、やはりチームブリヂストンの活動を通じてスポーツを応援することの楽しさや得られる学びを知っていること。次に、選手として、スポーツをすることの楽しさを知り、スポーツで得られるものの大切さを知っていること。そして最後に、選手をやめた今、スポーツ、運動をすることは人が幸せに生きるために一番重要な“健康”というものに欠かせないと気づいたからです。
人生を豊かにするために、子供から大人までより多くの人に「スポーツ、運動をする、観る、楽しさ」を知ってもらいたい。
ブリヂストン・アスリート・アンバサダーの活動を通じてスポーツの魅力、素晴らしさを伝えていくことが、多くの人にとって豊かな人生を歩むきっかけとなればこれ以上に嬉しいことはないと思っています。
アイスホッケーを始めたきっかけや、オリンピック惨敗からのリスクある挑戦で得られたものなどを鈴木さん自らが記した【前編】はこちら!