【アスリートの働き方】アルバイト・パート編
前回の導入編では、競技に集中するためには生活の土台をしっかり作ることが大切というお話をしました。ここからは、働きながら競技をすることを前提として、どのような働き方を選んでいくべきかを雇用形態別に考えていきましょう。
まずは、アルバイト・パートの場合です。
■教えてくれる人
浦辺 里香 (うらべ りか)
特定社会保険労務士
早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。本業と並行し、SSS(サムライ・スポーツ・ソリューションズ合同会社)の代表を務め、アスリートのセカンドキャリアをサポート。クレー射撃(スキート)元日本代表、ブラジリアン柔術紫帯(2020ヨーロピアン選手権青帯フェザー級ダブルゴールド)。
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■前回の記事はこちら
アルバイトやパートは「競技中心の生活」を作りやすい
みなさんは、学生時代にアルバイトをしたことはありますか?部活が忙しくて、アルバイトはできなかったというアスリートも多いと思います。アルバイトやパートという働き方は、練習や試合の時間を確保しながら、仕事を続けられるというメリットがあります。
アルバイトとパートの違いは?というと、法律上の違いはありません。
両方とも「働く時間が短い」点は共通しますが、一般的なイメージとして、アルバイトは「ほかに本業がある(学生や自営業など)」「働く期間がわりと短い(数カ月、長くても1~2年)」、パートは「専業主婦の人が時間を固定して働く」「働く期間がわりと長い(数年以上)」という感じでしょうか。
しかし、これはあくまで企業側のイメージとしての違いですので、実際は同じ働き方です。
2020年4月より、働き方改革の一つとして「同一労働同一賃金」がスタートしました。これにより、社員やアルバイトの区別なく、同じ仕事をすれば同じ時給をもらえることになりました。
今まで、社員とアルバイトとで時給に差があった人たちは、全員同じ時給になります。「同じ仕事をしているのに、働き方の違いで時給が違うのはおかしい!」という考えからスタートした改革なので、アルバイトやパートで働く人にとって、画期的なムーブメントとなりました。
働く人を守る「雇用保険/失業給付」について
週20時間以上、アルバイトやパートで働く場合は「雇用保険」に加入します。これは法律上の決まりで、手続きは会社が行います。
雇用保険に加入すると、毎月のお給料から「雇用保険料」が引かれます。雇用保険料は、働く人と会社とでそれぞれ負担しますが、会社は働く人の倍の保険料を負担します。
そして、失業してしまったときは、ハローワークで「失業給付」をもらうことができます。失業中にお金が入ってこないということは、精神的にかなり追い込まれます。そんな不安をやわらげてくれるのが失業給付であり、雇用保険なのです。
仕事中のケガや通勤途中の事故もカバー/労災保険
もし「仕事中に手を切ってしまった」「出社のために自宅を出たところで、転んでケガをしてしまった」というような、仕事にかかわるケガや事故に巻き込まれてしまった場合、「労災保険」が使えます。
病気やケガをして病院に行くと、いつもは保険証を出し、医療費の3割を支払うことで治療が受けられます。しかし、仕事にかかわる原因がある場合、「労災保険」を使うことで医療費の負担はありません。これは働く人を守るための制度なので、アルバイトやパートで働く人も、安心して仕事を続けることができます。
社会保険(健康保険、年金)について知っておきたいこと
競技をメインのキャリアとして、サブでアルバイトやパートをする場合、働く時間はどうしても短くなります。「仕事の時間調整がしやすく、競技を優先できる」というメリットが、アルバイトやパートにはありますが、社会保険(健康保険、年金)の加入について注意が必要です。
アルバイトやパートで、週30時間以上働く場合は「社会保険(健康保険、厚生年金保険)」の加入が必要になります。毎月のお給料から「社会保険料」が引かれますが、会社から健康保険証(カード)が交付され、厚生年金(国民年金にプラスされる年金)に加入できます。
しかし、週30時間未満の働き方の場合、自分で「国民健康保険」と「国民年金(20歳以上)」に加入しなければなりません。お住まいの市区町村役場で手続きし、保険料は自分で毎月納付します。つい保険料の支払いを忘れてしまったり、後回しにしてしまったりで、ある日突然「督促状」が届き驚く人もいます。
健康保険は、競技でのケガも含め、風邪をひいたり病気になったときに必ず必要です。年金はシニアライフを豊かにするためにも、また不慮(ふりょ)の事故や病気でからだに障害が残った場合にももらえるため、絶対に必要な保険です。このあたりについては、別の回でお話ししましょう。
「アルバイトやパート」という働き方を選ぶ場合の注意点
働く時間が短いということは、もらえるお給料も多くはありません。かといって、勤務シフトを増やすことは、結果として食事や睡眠を削ることになり、アスリート失格です。
まずは、一か月に必要なお金がいくらなのか、あらかじめ計算しておきましょう。最低限、その金額を稼げなければ、競技に集中することはできません。その理由として、前回の話に戻りますが、マズローのピラミッドでいうところの「②安全欲求」が満たされなければ、さらに上の欲求へは行けないからです。
おわりに
競技中心の生活を希望する場合、働く時間を調整しやすい「アルバイトやパート」の働き方はおすすめです。しかし、働く時間が短いため、それにともなうリスクや不安をどうクリアするのか、知識を得ることと計画を立てることが重要です。
1年後、3年後、そして10年後の自分を、競技と仕事の両面でどうなっているか、イメージを書き出してみましょう。そして、足りない部分をどうフォローすればいいか、考える機会を作りましょう。ビジョンが明確になると、気持ちもスッキリし、競技へ集中することができます。ぜひ、この機会に競技と仕事について見直してみませんか。