ママは格闘家。杉山しずか選手がアスリートの産後復帰に思うこと
東海大学在学中にプロデビュー後、連勝を重ね、強き格闘家としての道を邁進してきた杉山しずか選手。20代後半には出産を経て、一時はリンクを離れるも現役復帰を果たし、今もなお第一線で活躍を続けています。
格闘家としてリンクで見せる、力強いイメージとは裏腹に、オフでは柔和な笑顔とゆっくりとした話し方で人を魅了。そんな杉山さんは女性アスリートとして、妊娠や出産という複雑なステージをどう乗り越えてきたのでしょうか。また、彼女が考える女性アスリートが生きやすい社会とはどのようなものなのでしょうか。
聞き手/蓮実 里菜(はすみ りな)
目次
「復帰したい」という気持ちで過ごした妊娠期間
さっそくですが、妊娠中は、どのようなことに気を遣って過ごされていたのでしょうか。
また、露出のある仕事でもあったので、妊娠線にも気を付けて、毎日オイルやクリームでケアをしていました。
体重は20キロ増え、筋肉は激減
思った以上に筋肉も落ちて体幹がぐにゃぐにゃになってしまったので、産後3ヶ月ほどで初めてキックの動きをしたときは、上半身で下半身の動きを制御することがまったくできずに、そのままぐるんと1周回ってしまうほどでした。
メンタルを保つための環境づくりも
海外では産後の復帰もめずらしいことではないので、そういう事例を見たり、谷亮子さんの有名な「ママでも金」って言葉を思い出したりして、「そういう人もいる!」と前向きな気持ちを保つように努力していました。
ただ「そんなに簡単じゃない」というような否定的な言葉は耳にしたくなかったので、妊娠・出産の公表はしませんでした。環境的な不安を解消できたのは、早い時期に託児所を紹介してくださった方がいたことも大きかったです。
今は産前よりも高いコンディションを維持
でも時間に制約ができたことで、集中力は上がって密度の濃い練習ができるようになりました。限られた時間のなかで良いパフォーマンスをするためには、どのような行動が必要なのか。栄養の摂り方や練習の仕方なども以前より考えて、仕事にも向き合うようになりましたね。
勢いだけでやっていたのが20代ですが、その頃に比べて、今のほうがいい体のコンディションを保つことができているんです。 運動後の心拍数の乱れや疲れなども、今のほうがずっと軽く、以前より走るのも速くなったんですよ!
格闘家・杉山しずかであることは、自分を生きること
本名のしずかだけになっていたら、体もめちゃくちゃ太ってて、きっと廃人みたいになっていたんじゃないかと思うことがあります。想像できませんが、人生が違うものになっていただろうな、と。競技に復帰したことで、自分にできることをする喜びや、人生のなかでこれだって思えたものをやり続けることができて、アスリート杉山しずかとしての自分も生き続けながら充実した日々を過ごすことができています。
前例があることもすごく大きなことで、谷亮子さんのような存在は、「そういう人もいる」というだけで希望の光になります。
出産は現役生活中の出来事の一つ
格闘家夫婦の子育て。夫目線の杉山しずかはどんな人?
杉山しずか選手のパートナーは、格闘家の中村K太郎選手。同業の共働き夫婦とも言えるお二人ですが、二人揃っての取材は今回が初めてとのこと。
そういうことじゃなくて、手伝ってほしいって思ったときに手伝ってほしい、と言われてしまいまして(笑)。今はやってほしいときに、その思いに応えられるよう心がけています。大変そうなときは、話し合うようにしていて。
お二人が出会った頃から、結婚期間や出産・育児を経て、K太郎さんに甘えられる領域がどんどん増えていった、と話してくれた杉山しずか選手。母、妻、そして格闘家という、様々な顔を持つ杉山選手ですが、ライフステージの変化を迎える女性アスリートのロールモデルの一人として、今後も自分を生き続ける姿を見せてほしいです。
■プロフィール
杉山 しずか(すぎやま しずか)
1987年生まれ、アメリカ・ニューヨーク出身。東海大学体育学部卒業。大学在学中に 女子格闘技の団体「DEEP JEWELS(ディープジュエルズ)」の旗揚げ大会で格闘家デビューを果たし、以降は連勝を飾って、格闘家として一躍有名に。
2014年大晦日のDEEP DREAM IMPACTで、元女子ボクシング世界王者のライカに一本勝ちして以降、出産と育児で女子格闘技界から離れていたが、2017年2月のDEEP JEWELSで約2年ぶりに復帰し、奈部ゆかり選手を相手に勝利。続く8月のDEEP JEWELS 17では、空手こまち選手に連勝して完全復活を果たし、総合格闘家として最前線で戦い続ける。
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杉山さんが働くジムプロデュースのホエイプロテイン。ご自身も出産後、栄養管理の重要さに気づき、特に女性がタンパク質を摂ることの大切さを感じたそうです。太る、ムキムキになるという誤解を取り除き「女性がもっと気軽にプロテインを手にとってほしい」と話してくださいました。
聞き手/蓮実 里菜(はすみ りな)
ライター。インタビュー記事や留学コラムなどを幅広く執筆中。エッセイである「夜の扉のなかにあるもの」が好評発売中!
(取材・文/蓮実里菜 編集/小田菜南子 写真/谷口千博)