アスリートの食習慣を書籍化。「ちょっといい」の積み重ねが力に(村田英理子)

アスリートフードマイスター村田英理子さん

プロラグビー選手・村田毅さん(日野レッドドルフィンズ)の妻で、アスリートフードマイスター1級の資格を持つ村田英理子さん。Instagramでは「#村田家の食卓」を公開し、レシピやポイントを解説しています。

今年1月には、自身初の著書「GOOD HABIT 心はずむ毎日の、うれしい食習慣」を出版。栄養学とアスリートのサポート経験を掛け合わせて、からだがよろこぶ食習慣を続けやすくする考え方を伝えています。

彼女の活動は、「夫を食事で応援したい」という想いから始まりました。そのきっかけとなった出来事と、GOOD HABITに詰まったこだわりを語っていただきました。

聞き手:小田菜南子、文・写真:田中 紘夢(B&編集部)

 

代表で当落選上にいた夫を支えるために

小田
現在はアスリートフードマイスター1級の資格をお持ちですが、この資格を取ろうと思ったきっかけは?
村田さん
やはり結婚ですね。付き合い始めたのは私が大学1年生の時からなので、割と長いのですが、その間ほとんど彼に料理をつくることがなかったんです。

結婚して初めて誰かのために食事をつくる立場になったものの、最初はすべて自己流。食べてもらえるのはありがたいけど、私の料理で夫のトレーニングの成果を無駄にしたくないなと思いました。

“トレーニングを無駄に”……。プレッシャーも感じますね。とはいえ、英理子さんも専業主婦というわけではありませんでしたよね。
私はずっと海外営業職の仕事をしていて、残業もありました。体力も時間もないなかでしたが、ご飯だけはちゃんと作りたかったんです。とはいえ、何を作ればいいかわからない。まずは知識をつけようと思って、ネットで調べたら、アスリートフードマイスターというものが出てきました。
現在は、当時の村田さんと同じような悩みを抱えている方をサポートしていますよね。そのような活動はいつ頃から始めたのですか?
資格を取り、内容が腹に落ちてきた頃から記録としてInstagramを始めて、勉強がてら自分なりの栄養メモやレシピの添え書きを載せていたら、少しずつフォロワーが増えていきました。そして資格を取ってからは、DM(ダイレクトメッセージ)で相談を受けることも多くなって。プロスポーツ選手の妻であることや、フルタイムで勤務していることを明かしていたので、それも響いたのかもしれないです。
Instagramが栄養関係の仕事やGOOD HABITの出版につながっていったのですね。それまでの会社をやめたタイミングは?
去年の10月です。2019年に出産して、1年半の産休・育休を取りました。妊娠中にもイベントやGOOD HABITの執筆をしていたので、料理の道に行く下準備ができていました。
妊娠しながら!昔から何か一つのことに集中するよりは、いろいろなことをやりたいタイプだったのですか?
そうですね。学生時代にずっとバレーボールをやっていたので、そこで行動する力がついたのかもしれないです。周りと協力して何かを成し遂げることにも、慣れていたんだと思います。

アスリートフードマイスターになって、料理への向き合い方にも変化があったと思います。旦那さんの反応も変わりましたか?
料理にかける時間や想いが大きくなって、夫も喜んでくれました。でも、私からしたら、少しずつ料理の内容を変えていっただけ。夫に栄養の知識を押し付けるようなこともしませんでした。

「この食材はこういうビタミンが多いんだよ!」みたいなことを言うと、美味しさを半減させてしまうような気がして。あくまで食卓では、美味しさを追求したいんです。

大学時代からそばにいるなかで、「支える」という気持ちが芽生えたタイミングは?
大学を卒業してからですね。特に20代半ばくらいから結婚を意識し始めて、精神的にも物理的にも支えたい、という気持ちが強くなりました。その時期に夫は、日本代表に入っていて、エディー・ジョーンズさん(当時の日本代表ヘッドコーチ)のもとで厳しい練習を積んでいました。多いときは1日5部練とか(笑)。

ただ、最後は2015年のワールドカップ直前に落選してしまいました。ずっと当落線上にいて、大変な精神状態の夫を見て、「少しでも私が支えになれれば……」って思ったんです。

 

食習慣のベースがあれば、息抜きやご褒美は怖くない

小田
今年1月に「GOOD HABIT」を出版されました。直訳すると「良い習慣」という意味になりますが、このタイトルを選んだ理由を教えてください。
村田さん
イベントをやる中で、「食事はすぐ結果が出るものではないから、続けましょう」というメッセージを何度も伝えていました。つまり、“食習慣”ですよね。それをもっと多くの人に伝えたいと思って、このタイトルを選びました。
最近では、ビジネス本などで「習慣化」という言葉を良く目にしますが、「食」と「習慣」は意外と結びつきがなかったように思います。食習慣には、どのくらいのレベルになったら身についたと感じますか?
外食でメニューを見たときに何を選ぶかって、ある程度自分なりの基準があるじゃないですか。「今日は唐揚げが食べたい!」とか。そのときに「唐揚げじゃなくて、野菜が多いこっちを選ぼう!」というふうになるかどうかだと思います。
旦那さんは、以前からそのような食習慣が身についていたのですか?
高校の部活帰りはラーメンだったようです(笑)。大学に入ってからは、意識の高い先輩に囲まれて、食意識が変わっていきました。

結局はラーメンを「食べること」が悪いんじゃなくて、「食べ続けること」が悪いと思うんです。好きなものばかりを食べ続けないように、ベースとなる食習慣が大事。それがあった上で、息抜きやご褒美を設けるのは全然ありかなって。

アスリートの妻として発信する中で、一般の方からはどのような相談が多いですか?
料理そのものの相談が多いです。ご主人やお子さまが試合前だったり、怪我をしているときに、どんな食事を作ればいいのかとか。

あとは、アスリートとの向き合い方ですね。私もそうだったんですけど、それってあまり知る方法がなくて。アスリートの妻って、選手が今悩んでいることを赤裸々に発信できないじゃないですか。とはいえ、引退後にそういう話をするわけでもない。情報が少ないからこそ、知りたい方が多いんだと思います。

 

「ちょっといい」の積み重ねが習慣化につながる

小田
GOOD HABITでは、上野由岐子さん(女子ソフトボール日本代表)や金正奎さん(男子プロラグビー選手)など、様々なアスリートの食習慣が紹介されています。取材をされて、何か共通点はありましたか?
村田さん
品数を多く食べていて、栄養素の偏りが少なかったです。でも一品ずつは簡単に作れるものが多かったり。例えば国枝家では、朝食から3、4品くらい出てきますが、サラダはまとめて作り置きしているので、それを盛るだけ。うまく毎日の手間を抜いていました。
食事って、実感までにすごく時間がかかるものだと思います。良い食習慣を続けていても、違うことが要因で調子が良くなったり。人に伝えるのが難しい分野ですよね。
競技者のパフォーマンスの8割くらいはトレーニングで成り立ってると思います。それをネガティブにさせないのが食事であって、あくまで土台でしかないんです。その土台を作るために必要なのが習慣化。莫大な情報の中から、いかに削ぎ落としてシンプルにするかが、習慣化の鍵だと思います。
GOOD HABITには、シンプルな3つのルールが書かれていますね。
3つのルールには、栄養学の専門用語を入れていません。もちろん栄養学の裏付けもありますが、それを伝えたとしても、絶対に覚えられないので。日常的なノウハウとして浸透してほしいんです。

ビジュアル面にもこだわりを感じます。
歴史の教科書で有名な山川出版社さんとタッグを組みました。山川出版社さんにとって、初めての料理本とのことでしたが、すごく丁寧に仕上げていただきました。
料理自体はすごくおしゃれですが、意外に材料が少ないですよね。調味料などを見ても「うちでも作れそう!」って思えるものが多くて嬉しいです。
私は普段から、工程を3つくらいにすることを心がけています。GOOD HABITの根底にあるのは「自分なりにちょっといい」ということです。自分が納得さえできれば、家にあるものだけでも十分。新しいものを一気に取り入れようとすると続かないので、「昨日よりいい!」「去年よりいい!」って思えるように、少しずつ積み重ねていく。それでこそ習慣になるんです。
完成まではどれくらいかかったのですか?
構想から完成まで、1年くらい。普通の料理本は3カ月くらいでできますが、取材をしたり、バイリンガルにしたりしていたので、それなりに時間はかかりました。これからの時代、日本に住む外国人は絶対に増えますからね。

あとは私のこだわりとして、表紙を外しても中がオールカラーになるようにしてもらいました。料理本って、表紙を外して使うことも多いので。ちなみに表紙に載っているのは、夫の母の得意料理であるハヤシライスです。ルーを使わずに、ちょっとだけヘルシーにアレンジしてみました。

様々なところにこだわりが詰まっているのですね。最後に、GOOD HABITを通して、一番伝えたいことを教えてください。
「ご飯は日常の一部」ということです。表紙にも出ているように、私は料理だけじゃなくて、食卓も好きなんです。一緒に食卓を囲む人を考えて作るとか、そういうプロセスも尊くて。「ライフスタイルとしての食卓を大切にしよう!」というメッセージを込めています。

今はコロナ禍なので、おうちで食事をする機会が増えていると思います。みなさんにとって「ちょっといい」食卓を作るきっかけとなれば嬉しいです。

村田英理子さんのイベント情報

2月9日に村田英理子さんと女子ラグビー冨田真紀子選手のトークイベントを開催します!

イベントの詳細はPeatixページをご確認ください。(バナーをクリックしてもご覧いただけます)
https://b-and-nutrition-seminar0209.peatix.com/

■プロフィール

アスリートフードマイスター村田英理子さん

村田 英理子(むらた えりこ)

兵庫県神戸市出身。現在は、東京都日野市を拠点に活動中。

プロラグビー選手の夫・村田毅(日野レッドドルフィンズ)の食事サポートをしながら、より多くの人に「GOOD HABIT(良い食習慣)」を続けてほしいと願い、InstagramやTwitterで日々の工夫を発信。アスリートの妻としての実体験と、アスリートフードマイスター1級所有者としての知識をかけ合わせた内容は、運動習慣のある人だけでなく、料理初心者にも人気。

今年1月には、自身初の著書「GOOD HABIT 心はずむ毎日の、うれしい食習慣」を出版した。

Twitter:@erikome1104
Instagram:@athlete.food_eriko.murata

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