運動量が少ない時期の食事は?管理栄養士・佐藤彩香さんが教える食事法
外出自粛や感染症対策によるジムの閉鎖などで、運動量が減った方も多いのではないでしょうか。そんな中、今まで通りの食事をしていいの?と疑問に思うことも…。そこで活動量が落ちている今、コンディションとウエイトを維持するための食事について、オンライン講義「ビートレ 栄養セミナー」を実施!管理栄養士の佐藤彩香さんがレクチャーしてくれました。
■教えてくれる人
佐藤 彩香(さとう あやか)
管理栄養士
企業や保育園で栄養カウンセリング、献立作成、栄養計算、店舗運営を経験し、その後独立。健康を土台とした実践型の栄養サポートを行い、プロアスリート~スポーツキッズ、ダイエット希望の方など累計5,000人を超える人々と関わる。現在はパーソナル栄養サポート、セミナー講師、ライター活動、レシピ開発なども行いながら、「あなたのかかりつけ栄養士」として活動している。
活動量が落ちるとからだはどうなる?
急激な運動量の低下で、アスリートのからだにはどんな変化が起こるのでしょう。運動不足による体重増加などは分かりやすい例ですが、佐藤さんによると生活リズムの変化によって、睡眠や排便への影響、それに伴う腸内環境の悪化で免疫機能が低がるなど、想像以上にからだがグッタリしてしまうとのこと。
そんな時の食事で大事なのは「量は減らし、必要な栄養量は減らさない」こと。しかし量の減らし方を間違えると、筋肉量の低下や貧血など、コンディションに悪影響をもたらします。そこで、減らすものと維持・プラスするものの見極めが重要です。
まず見直すべきは糖質・脂質の量と質
まずは自分に必要なエネルギー量を知ることが重要です。厚生労働省が出している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、年齢層と運動量に応じた推定エネルギー必要量が表になっています。
しかし、この場合は少なく見積もられることもあるとか。しっかり管理したい!というアスリート(運動習慣の高い人)の方は、次のJISS式で推定エネルギーを求めましょう。
■推定エネルギーの求め方
・JISS式:28.5カロリー×FFM×運動活動レベル(PAL)
・女性アスリートの場合(田口らの式):27.5カロリー×FFM*×運動活動レベル(PAL)+5
*除脂肪量(FFM)=(体重-脂肪量)
また佐藤さんは、糖質、脂質は量だけでなく摂り方も重要と指摘しています。
糖質の減らし過ぎにも注意!低GIが質を高めるコツ
一般的には1日のエネルギーの約6割で設定します(1日1,700カロリー必要の場合、約1,000カロリー:250グラム)。運動習慣があり、強度を意識しながらトレーニングしている人はIOCのガイドラインが参考になります。
また「質」の見直しも必要です。新型コロナの影響を受け、アメリカ栄養士チームからアスリートに「糖質制限はストレスホルモンを増加させる可能性がある。減らしすぎはストレスで免疫力が下がってしまう危険も」とのアナウンスが…。
今こそ免疫力は重要、減らしすぎやストレスは大敵です。その代わり、血糖値を急上昇させない「低GI」の食品を選びましょう。さつまいもやそば、全粒粉パンなどが低GI食品です。
脂質はコンディション維持にも重要。オメガ3を重点的に
糖質同様、動かない間は減らしたくなってしまいますが、目安はエネルギー比の2〜3割(1日1,700カロリーの場合、約420カロリー分:約50グラム)。脂質はエネルギー源であるだけでなく、ホルモンや細胞膜、核膜を構成したり、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収を促す作用があります。減らしすぎはやはりコンディションに悪影響だといいます。
脂質もやはり「質」が大事。青魚やサーモン、ナッツ類などに含まれる良質な油「不飽和脂肪酸 n-3系(オメガ3)」を摂りましょう。オメガ3は怪我をしにくいからだを作ったり、血液をサラサラにしたり、さらに脳や睡眠への関連も。「アトピーや花粉症を含む炎症の緩和にもつながるので、体質改善にもいいと思います」(佐藤さん)。
オメガ3を魚油から摂取する場合は、DHAとEPAを合わせて1日に1000グラム以上摂取しましょう。佐藤さんは「吸収面を考えると、魚のほうが動物性なのでからだに入りやすいです」とおすすめしています。また1日に多く摂取するのではなく、必要量を毎日継続して摂取しましょう。
■主な食品でオメガ3を摂取する場合の必要量
・アジ:150グラム
・サバ:100グラム
・亜麻仁油、エゴマ油:小さじ1杯
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強化すべき栄養素を覚えましょう
糖質、脂質は見直しが必要でしたが、栄養素は「強化」が必要!次の5つのポイントに注目です。
①たんぱく質をしっかり摂ること
アスリートなら日頃から気にする人の多いたんぱく質ですが、骨や筋肉を作ったりするだけでなく、感染防止(免疫グロブリン)やホルモンの素にもなるそう!だから絶対欠かせません。
1日に必要なたんぱく質は、エネルギー比率の13〜20%(1日1700カロリーの場合、約255カロリー:約65グラム)。
しかし、もっと簡単な計り方が「手計」。1食あたり片手のひら、または両手のひらくらいの大きさのたんぱく質を含む食べ物を摂取すればOK!ただし食事だけではなかなか摂り切れないので、捕食で摂ることを意識しましょう。
■主な食品に含まれるたんぱく質の量
・お肉100グラム:20グラム
・魚1匹:20グラム
・豆腐1丁:20グラム
・納豆1パック:6〜7グラム
・卵1個:7グラム
・白米茶碗1杯(150グラム):3.5グラム
②ビタミンDを意識すること
こちらも免疫に強く関係する栄養素。筋たんぱく質の合成や骨の強化にも大事で、日光を浴びることでも合成されるのですが、自粛中はなかなかそれも難しい。
18歳以上の女性であれば、目安量は8.5マイクログラム、上限量は100マイクログラム。「ビタミンDは脂溶性なので体にある程度保管できるので、上限量までが適切」(佐藤さん)。
ただ、この上限量を超えるには相当な量が必要なので、普段の食事では特に気にすることはないでしょう。日光を浴びていない時はできるだけ多く摂取しましょう。
■主な食品に含まれるビタミンDの量
・鮭1切れ:25マイクログラム
・サバ1尾:15マイクログラム
・乾燥きくらげ2グラム:1.7マイクログラム
・干しシイタケ2個:0.8マイクログラム
③ビタミンACEを意識すること
緑黄色野菜や果物に含まれるビタミンACEは、ウイルスからのバリア機能や粘膜保護に大事な栄養素です。特に色が濃い野菜・果物に多く含まれています。
生野菜なら1食あたり両手山盛り1〜1.5倍、加熱野菜なら片手1杯が目安です。また、ビタミンA、Eは油に溶け、ビタミンCは水溶性のため壊れやすいという性質が。生野菜も加熱野菜も、偏ることなく食べるのがベストです。
④腸内環境にアプローチする栄養素を摂ること
「腸内環境を整えることはコンディションを整える上でとっても大事!」と佐藤さん。必要になるのは、ヨーグルトや納豆などの発酵食品に含まれる有用菌プロバイオティクスと、その有用菌を育てるプレバイオティクスを組み合わせて摂取すること(シンバイオティクス)。
加齢や運動不足、ストレス、アルコールなどで悪玉菌が増えると言われますが、そうすると腸内のバランスが崩れてしまいます。そのため、善玉菌を含む乳酸菌やビフィズス菌、発酵食品を摂ったり、善玉菌のエサになる食物繊維を摂取することも大事です。
「腸が荒れてしまうといい栄養素を入れても吸収できなかったり、なんだか疲れが溜まったり、気分が乗らないなどいろんな不定愁訴につながります」と、重要なポイントです。
■有用菌が含まれる主な食材
・プロバイオティクス:ヨーグルト、納豆、ぬか漬け、味噌
・プレバイオティクス:ブロッコリー、きのこ類、豆類、オリゴ糖(玉ねぎ、キャベツ)
⑤水分をこまめに摂ること
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運動をしていない時でも水分はこまめに摂りましょう。「意外と飲んでない人が多いので、一度水分量の見直しを」(佐藤さん)。1日に必要な量は幼い時ほど多いといいますが、成人でも体重1kgあたり40〜50mlが必要です。
また、1日3食以上食べる場合でも、三大栄養素(たんぱく質、脂質、糖質)を意識しましょう。「レース前などで急速にからだを回復させる必要がある場合以外は、食事できちんと栄養素が摂れていればサプリメントは必要ない。まずは必要量を採れているか、きちんと確認してみて」(佐藤さん)。
まだまだ長い自粛生活。食事から健康に、コンディションを整えていきましょう!