「140文字じゃ伝えきれない」下山田志帆と石塚晴子がnoteに文字を綴る理由【前編】
今やアスリートも伝えたいことがあれば自ら発信できる時代。SNSと上手に付き合うことで、新たなファンの獲得、ファンとの交流、スポンサーの獲得など、様々なメリットを得るアスリートも少なくありません。
今回の対談では、発信開始直後からその発言に多くの注目が集まるアスリートのお二人に、自らの発信についてお話を伺います。
お相手は、サッカーなでしこリーグ2部SFIDA世田谷に所属する下山田志帆選手と、陸上400mハードルの石塚晴子選手。なぜ二人の発信には注目が集まるのか、その秘密を前後編にわたってじっくり紐解きます。
■お話を聞いた人
下山田 志帆(しもやまだ しほ)
女子サッカー選手。なでしこリーグ2部SFIDA世田谷所属。株式会社Rebolt代表。2019年春に同棲のパートナーがいることを公表し、「スポーツとLGBTQ」「スポーツ界とジェンダー」をテーマに発信活動を行なっている。
note:下山田志帆/Shimo Shiho
Twitter:@smymd125
石塚 晴子(いしづか はるこ)
1997年生まれ。400m、400mハードル選手。400mハードルの自己ベストは日本歴代7位であり、U-20日本記録の56秒75、400mの自己ベストは日本学生歴代3位の53秒22。2015年の北京世界選手権では日本代表。ローソン所属。
note:Haruko Ishizuka
Twitter:@harekooo
noteを始めたのは「140文字以上の言葉で伝えたいことがあったから」
石塚さんはいつ頃Twitterのアカウントを作ったんですか?
ちゃんと発信するアカウントを作ったのは、インターハイが終わった頃ですね。中学生ぐらいの時から鍵付きのアカウントは持っていたんですが、私だってことが名前でバレてしまっていて…。
陸上関係の人からフォローリクエストが殺到して、アカウントが開かなくなっちゃったんですよ。
そうなんです。それで、「インターハイも終わったし、オープンなアカウントを作ってみよう」と思って作りました。
そうしたら、1日でフォロワーが2000人を超えて、何かつぶやくと500ぐらい「いいね」がつくみたいな状態でした。
始めた当初は、自分の意見を発信するっていうのはちょっと勇気がいるなと思っていたし、試合の結果や応援してくださる方への感謝を中心に発信していました。
「試合で○位でした。ありがとうございました」とか「○○を提供していただきました、ありがとうございます!」とか。
開始直後から、何かつぶやくと500の反応があるって、どんな気持ちだったんですか?
こんなに反応あるの!?って感じでしたね、最初は。
でも、試合が終わって周りの人に感謝を伝えるのって当たり前のことだし、みんなやってるし自分もやっておこう、みたいな感覚でやってました。
下山田さんもTwitterとnoteで発信していますよね。どういう経緯があったんですか?
自分の場合は2019年の春頃、先輩のnoteで自分自身のセクシャリティについてカミングアウトさせてもらったのをきっかけに、Twitter上のDMやリプライで質問がくるようになったんです。「メンズってなんなの?」とか「なんでカミングアウトしようと思ったの?」とか。
結構ありました。それで、もらった質問に対して140文字では返しきれない、でも自分の口できちんと説明したいと思って、文字数制限なく書けるnoteをほぼ同時期に始めましたね。
下山田さんのnote第1回はこちら
私は、
コーチとのトラブルがあった後に、スポーツ界のハラスメントをなくしたいという気持ちが強くなって、それを発信すべきだと思ったのがきっかけですね。
最初はTwitterに「ハラスメントが起こる時ってどういうことが起こるのか?どういう発言が多くなるのか?」みたいなことを書いたんです。そうしたらその投稿に2000ぐらい「いいね」がついて。「もう少し詳しく書いてほしい」っていう意見があったのでnoteに書いたっていうことが始まりですね。
石塚さんのnote第1回はこちら
すごい。それはTwitterじゃ返しきれなさそうですね。
そうですね。それに、ひとつの投稿だけを読まれて話の一部だけが転がっていくのも怖いなと思って。たまたま人に教えてもらったnoteに、ちゃんと書いてみようと思いました。
140文字じゃ書ききれない、もっとちゃんと書いてみようという動機は似てますね。noteを使ってみてどうですか?
noteって、書き手のことを「クリエイター」って呼ぶところとか、「いいね」ではなく「すき」っていうところとか、投げ銭機能があるところも面白いんですよね。文字数制限もないし、シンプルに書きやすい。
下山田さんはなんでnoteにしたんですか?
Twitterと相性がいいなと思ったからですかね。Twitterとnoteって、Twitterで知る→気になったらリンク先のnoteを読む→またTwitterに帰ってくる、という流れができているような気がして、伝えたいことを発信しやすい。
文字数制限がないとか、デザインのカスタマイズができるのもいいなと思っています。あと、修正、追記ができるところとか。
たしかにTwitterと連携しやすいし、修正できるのはいいですよね。デザインを変えられるのとかは、全然使えてないなあ(笑)。後から修正することってありますか?
内容の修正はしないですね。後から付け加えたりはします。「何月現在、この件に関しては○○という意見をもらって、こういうふうに考えています」とか。
更新は不定期。noteに記事を書くのは○○な時
更新頻度とか決めてますか?自分の場合は決めてないんですけど。
不定期ですね。思いついた時にメモって段落だけ作っておいて、何日か、何週間かそのまま。少し手を加えれば出せるなと思ったら出します。
ちゃんと準備してる。自分は「これ書かなきゃ!」って感情がものすごく動いた瞬間に2時間ぐらいで書いてます。
この件(新型コロナウィルスによるインターハイの開催中止について)に関しては、最近多くの関係者の方が意見を発信していたんです。
そんな中、6月4日に日本陸上連盟から、9月、10月の開催予定が発表されました。人の関心が一番集まっている発表当日中なら、たくさんの人に見てもらえるかなと思って、3、4時間でざーっと書きました。なのでちょっと雑です。
そうなんです。自分の場合は、世の中で○○っていう出来事があって、それに対してLGBTQの立場から何か言わなきゃって思って書き進めた記事は、全部下書きのままだったりします。
本当に感情が動かされて、これはもう言葉にしないとやってられない!って状態じゃないとかけないんですよね。
私もnoteはないけど、Twitterの下書きには結構残ってる(笑)。ちなみに、言える範囲で下山田さんの下書き記事ってどんな内容なんですか?
最近下書きのままにしてるものだと、いつかは出したいと思ってるんですけど、「スポーツ界とダイバーシティ」についての話ですかね。
オリンピック前の今、世の中的にも注目されているワードだと思うし、スポーツ界の男女の差とかについて書こうとしたんですが、なんか格好つけてるなと思ってやめたのがひとつ。あとは「LGBTQアスリートは、クラブにとってリスクかチャンスか」という話とか。だけど、これも「リスク」とか「チャンス」とか、言葉的になんか違うなと思って。
5時間ぐらいかけて中身はしっかり書いたんですけど、そんなに時間がかかってるなら出すべきじゃないなと思って、下書きのままになりましたね。
下山田さんのnote下書きページ
下書きに入ってる記事は、いつか出そうかなって感じですか?
今、20本ぐらい溜まってるけど、たぶんお蔵入りになると思います。ちなみに石塚さんのTwitterの下書きには、どんな内容が残ってるんですか?
えーっと…くだらないことも書いてるんですよね(笑)。「どんな大金持ちになっても、パピコの蓋の部分は食べると思う」とか。これはたぶんお蔵入りですね。
発信内容=自分のプロフィール
自分の発信って、下山田志帆のプロフィールを見るような感覚で読んでくれる人もいるんだろうな、って思うんですよね。
「こういう考え方の人がいるんだと思って安心しました」とか「今度応援行きます」というDMが届くと、書いておいてよかったなと思います。文章って、人の考え方とか、すごく深いところまで反映される気がする。
そうですね、だからこそ私は自分のTwitterやnoteでは「人が言っていることを自分がもう一度言う必要はないな」と思って発信しています。
『読みたいことを書けばいい』っていう田中泰延さんの著書を読んだんですけど、その中の「常に人が書いていることを書く必要はない」という言葉が印象的で、結構意識してますね。
石塚さんのnoteって、まさにクリエイターっぽいなと思います。起きた現象に対して、自分が感じた感情がきちんと言葉にされてたり、なぜそう想ったのかが深掘りされてる文章な気がする。
私が求められていることって、○○という出来事に対して、石塚晴子という人間の意見はどんなものなのか、ということだと思うんですよ。
なので、旬なニュースを取り上げる時も、そのニュースに対する自分の意見をきちんと発信するということは大事にしたいなと思っています。話の芯がぶれないよう、事前に紙に書き出しておいたりもする。
自分は、誰かと同じことを書いていても、アスリートの言葉ってファンにとっては特別だったりするから、それもありかなって気がします。
ただ、書くときに何のために発信しているのかということをちゃんと考えないと、本当に届けたいことが、伝えたい人に伝わらないなとは思いますね。いろんな人の発信を見ていて、本当は共感してもらいたいのに、自分の知識を発信しているだけになっているのかな、と感じることもあったりします。
<後編に続く>