「周りに影響されやすい」サッカー下山田志帆にスポーツDr.辻秀一が送る平常心の保ち方
新型コロナウイルスの影響を受け、多くのアスリートの練習や試合が中止されています。急に試合という目標がなくなったとき、選手たちはどうモチベーションを保てば良いのでしょうか。また、今だからこそアスリートが伝えられることはあるのでしょうか。
自身もSNSなどで積極的に発信を続けるサッカーの下山田志帆選手と、アスリートのメンタルトレーニングを行なうスポーツドクターの辻秀一さんとの対談でお伝えします。
*本取材は2020年4月22日にオンラインで行いました。情報はその時点のものです。
(取材・文 辻岡奈保美)
目次
目標や外的状況にとらわれなければ心は安定する
リーグの再開は、まだ正確にはわからないとクラブから伝えられています。いつ開始できるのか目処が立たないので不安ですね。
試合や練習が中止になって、モチベーションが続かなくてどうしようと困っている選手と、単なる休息期間と捉える選手がいるようです。結構SNSとかでやりとりはするんですけど、選手によって全然違うなという感じですね。そういうものなんでしょうか?
目標としていた試合が途絶える、例えばオリンピックが延期になる、みたいなことが起きると、目標に向けて頑張るという外発的なモチベーションで動いていた人は、マインドマネジメントが難しくなりますよね。
そうすると目標が急になくなってもできることはあるはずだから、折れることはないんですよ。目標からブレイクダウンしてやるべきことを決めていると、そのやるべきことができなくなったときに心が折れやすくなる。
今できることに全力を尽くすとか、成長を大事にするといった思考を持つことが大事です。
試合では、自分の思った通りにいかないピッチ状況や天候、時間があったり、自分はこういうサッカーをやりたいけど監督のサッカーをやらなきゃいけないというもどかしさがあったり、審判がミスジャッジをしたり。
さらに、試合以外でもメディアがみんなのイメージを作ったり崩したり、そこにいろんなファンの声もあったり。そんな中でも自分の力を発揮しなければならないのがアスリート。だからメンタルトレーニングが大事なんです。
新型コロナウィルスという大きなストレスが生まれて、まさに今はアスリート以外の人々もアスリートの日常と究極の類似性を持つ状況ですね。
周囲の情報で心が疲れるときは「今、ここ、自分」に立ち返る
一方で、自分は周りの声とか、それこそSNSからの情報に敏感なタイプなんですよね。だから、SNSからアスリートの「ダラけてもいいよね」みたいな言葉が入ってくるとすごく焦りますし、なんか疲れたな、とかそういう気持ちになるんですよね。
反対に、心の状態を保っている時というのは、アスリートでも社会人でもどんなシュチュエーションでも「今、ここ、自分」という状況を脳がキープできているとき。
「今、ここ、自分」というのは過去を振り返ってあれこれ考えたり、未来に不安を抱いたりせずに「今、ここ」に向きあって生きるということ。そういうときの心の状態をフローといい、質の高い活動ができるんです。
でも、人間の認知的な脳というのは、今を裏切って過去や未来のことを考えるようにプログラムされている。ただ雨が降っているだけなのに、過去の経験から「あぁ、嫌な雨だな」と感じたり。
どうしても過去や未来に頭がいっちゃうのは仕方ないことです。大切なのはそれに気づいて、「今」に視点を合わせるように自身に言いきかせるよう、自分の脳をマネジメントしていくこと。そうすることで心の落ち着きは作られるんです。
技術練習はなかなかできないけど、時間がある今だからこそ自分のメンタルを鍛えるために時間を使うっていうのもいいかもしれないです。
「今、ここ、自分」に戻るには、自分の特徴や癖を知っておくことが大切
最近は、アスリートのプレー以外に関する発信内容もすごく重要視されていると思うんですけど、そういうのを見た時に、自分ができることってなんだろうと考えたり、他人と比べすぎて不安になることも多いんです。
トップアスリートだと、ふとした発信にも意味があるかもしれないけど、自分はなでしこ2部にいて、そういう選手が発信してどういう意味があるんだろうと。そうやって他人と比べて、自分に自信をなくすみたいなことがすごくあります。
自分が上手くいってないときには、今の自分は何かにとらわれて比較しているな、いつもの思考の癖が出ているな、と自分自身に言い聞かせる。一度クリアにすることで、またいつも通りの強いしもちゃんが登場するんですよ。
自分が発信したことでさえ、その反応に振り回されることもある
自分自身は、自然体でいいし弱くていいということを発信したいのに、思った以上に特殊扱いされてしまいました。それによって、いつの間にか自分でもかっこよくいなきゃいけないと思いこんでしまったりして。
ただ、そんなときでも自分の力で「今、ここ、自分」を意識して、ごきげんでいることが大事なんです。自分のごきげんの価値を知る、つまり自分がごきげんでいるとどうなるかを理解しておけば、揺さぶられそうになってもそこに立ち返ることで、心の平常が保たれるんです。
キーワードは「事態は非常でも気分は平常」
あとはファン側も、アスリートを特別視しないことが重要だよね。本来なら、アスリートも普通の人なんだから、弱さも共有できるといい。
■プロフィール
辻 秀一(つじ しゅういち)
スポーツドクター。株式会社エミネクロス代表。1961年東京生まれ。慶應義塾大学病院内科、慶應大学スポーツ医学研究センターを経て独立。応用スポーツ心理学とフロー理論を基にしたメンタルトレーニングによる個人と組織のパフォーマンス向上が専門。多くのプロアスリート、オリンピック選手、アーティスト、経営者の個人サポートを行う。著書に35万部突破のベストセラー『スラムダンク勝利学』(集英社インターナショナル)など多数。
公式サイト:https://www.doctor-tsuji.com/
下山田 志帆(しまやまだ しほ)
女子サッカー選手。なでしこリーグ2部SFIDA世田谷所属。株式会社Rebolt代表。2019年春に同棲のパートナーがいることを公表し、「スポーツとLGBTQ」「スポーツ界とジェンダー」をテーマに発信活動を行なっている。
Twitter:@smymd125