4,000人以上が参加するランニングコミュニティのキャプテンが実感する、実体験の重みとは

世界中で人気を誇るランニングコミュニティ「adidas Runners Tokyo(以下:AR)」の、初代キャプテンを務める岩崎志保さん。昔からランニングに対しては苦手意識があったと話す彼女が、今の環境に行き着いた経緯や、キャプテンという大役を通して学んだ“コミュニティ論”をお届けします。

(取材・文・撮影:岡田隆太郎)

 

説得力のある言葉は、実体験からしか生まれない

ーARでキャプテンを務める傍ら、ピラティスインストラクターとしてもご活躍されているんですね。

岩崎さん
大学生のときに、あるフィットネスインストラクターの方と出会ったのですが、そのプログラムがとにかく衝撃的だったんです。ハキハキとした的確な指示出し、モチベーションコントロールの方法、使用するBGMとのコンビネーション、すべてが想像を遥かに超えていて、インストラクターという仕事の概念が変わりました。

ー興奮が伝わってきます…!

スポーツをする上で「指導者」との出会いは、かなり大切な要素になります。指導者の生き方そのものを尊敬できるようになると、自然とアドバイスを受け入れやすくなりますし、自分がそうであったように、私も誰かの人生をサポートできる存在になりたいと考えました。

ーフィットネスの中でも“ピラティス”を選ばれた理由を教えてください。

ピラティスは、ヨガと混同して捉えられがちなのですが、からだに対するアプローチが違います。もともとリハビリなどの用途で使われていたことも関係していますが、インナーマッスルを鍛えることでケガ予防・姿勢改善をしたり、今の自分のからだのパフォーマンス力を向上させることが求められます。

ーなるほど。

また、私はこれまで様々なスポーツをしてきましたが、その中でなんとなく自分のからだをうまく使いこなせていない感覚がありました。その感覚を改善するために、いろんなフィットネスを試して行き着いたのが、ピラティスでした。

ーご自身のつまづきを解明することがきっかけだったと。

インストラクターとして誰かを指導するためには、その動きを自分の中に落とし込めていることがマストです。自分のからだで試した結果、きちんと効果が出ると実感できれば、指導するときの言葉も自然と説得力や信憑性を帯びてきます。本当にいいと感じたものだけを発信したいので、ファクトを重要視しています。

ーピラティスにも指導にも誠実ですね。

バレエを3歳から18歳まで15年間続けてきたのですが、そこでの経験が私の人格の9割以上を形成している気がします。バレエは、上下関係や礼儀作法を加味したスキル以外の部分での評価が占める割合が大きくて、配役や立ち位置に大きく関係します。みんなが主役を目指すので、当然のように引っ張り合いもあります。

ーすごい世界ですね…。

そんな環境で過ごしてきたからこそ、人間の嫌な面もたくさん見てきました。だからこそ、自分に嘘はつきたくないと強く意識するようになりましたし、言葉や行動に重みがない人間にだけはなりたくないと思うようになりました。

 

ランニングは心の整理整頓ができるアウトプットツール

ーランニングとの出会いはいつ頃ですか?

岩崎さん
5年ほど前に、あるアパレル企業とスポーツブランドが主催するフルマラソンの大会に誘ってもらったことがキッカケです。テニス、スキー、ヨガなど、様々なスポーツに触れてきましたが、学生時代からとにかく持久走に対するイヤなイメージがあり、どうしても苦手意識が抜けずに避けていました。

ーネガティブな印象だったのに、なぜ参加を決めたのでしょう?

その頃、自分の周りにいる魅力的な人がこぞって、ランニングをルーティンにしていたんです。周囲の環境も相まって、直感的に“参加したら何かが変わるかも”と思って参加しました(笑)。そのことがキッカケとなり、ARのキャプテンに抜擢されたので、その勘は当たっていましたね。

ー勘ですか…!

とはいえ、本当にやれるか不安だったので、友人に話したり、SNSで表明することで後に引けない環境を作りました。なまけやすい私にとって、この方法は合っていた気がするので、性格が似ている人にはオススメです(笑)。

ーフルマラソン後、ランニングに対する価値観は変わりましたか?

180度変わりました。ランニングを避けてきた頃が嘘だったかのように、今では自分の生活の一部になっています。例えば、私は音楽が大好きで、よくフェスやライブに行くのですが、魂が揺さぶられるほどのライブを見た後は必ず走りたくなります。

ーどういうことでしょう?

要はアウトプットの一種だと思います。音楽家が何かにインスピレーションを受けた時に、自然と歌詞を書きたくなる感覚に近いかもしれません。その時に感じたことを考えながら走ることで、整理して自分の中に落とし込んでいるんです。

ー面白いですね。

昔は1人で走るのが嫌いでしたが、今は大好きです。ARのキャプテンとして走る時は、コミュニティを必ず意識して走るので、複雑に思考を張り巡らせないといけない感覚ですが、自分のためだけに走れる時間が尊いとさえ感じるようになりました。

 

コミュニティ運営のキーワードは“自分ごと化”

ー岩崎さんがキャプテンを務めるARについて、詳しくお聞きしたいです。

岩崎さん
adidas Runners Tokyoは、世界中にあるランニングコミュニティで、日本だけでも4746名(3/18現在)の方が参加していて、老若男女さまざまです。日本だと東京のみですが、世界中どこのコミュニティにも参加自由ですので、旅先でジョインすることもよくあるんです。

ーキャプテンとしてどのような役割が求められていますか?

ARのキャプテンは、コミュニティの象徴(顔)であり、コーチとクルーをつなぐポジションです。 自分のセッション(ランニングプログラム)を持って、トレーナーとして活動することもありますし、コミュニティ拡大のためのキャプテンMTGに参加して、方向性を決めたり、運営体制を整えるのも仕事です。

ーいきなり大役に抜擢されたわけですが、すぐ馴染めましたか?

クルーの大半が陸上経験者、ランニング経験者なこともあり、専門用語が飛び交う独特の空気に圧倒されてしまって、最初は輪に入るだけでもかなり苦労しました。経験値が浅いことに対する劣等感から壁を作ってしまって、当時はうまくコミュニケーションを取れていなかった気がします。

ーどのように順応していったのでしょう?

よくある“キャプテン論”のような題材の本を読んだり、誰かを参考にするのではなく、ひたすら現場と向き合いました。この世に全く同じ立場の人は1人もいないはずですし、リアルな声を吸い上げて、立場関係なく意見を出し合うことでコミュニティのカラーを定着させていったイメージです。

ーここでも岩崎さんの誠実さが伺えます。

ARは、アディダスが母体のコミュニティなので、根幹にあるメッセージや思想を、どれくらい現場のクルーに浸透させ、自分ごと化してもらうかが課題なんです。本社、運営、クルー、さまざまな立場の人間が関わっているのですが、その全ての矢印がキャプテンである自分に向くので、精神面での消費は相当なものでした。

ーその中で工夫した部分があれば知りたいです。

大切にしたのは、共通項を見つけること。ベクトルは違えど、目指している方向は同じだと、理解してもらえるように意識してコミュニケーションを取りました。様々な過程でいろんな人の想いが存在していることを、どれだけ考えられるか。解像度をあげて抽出しながら、事前情報がゼロベースの人に情報を伝達する能力は、かなり鍛えられましたね(笑)。

 

指導者として成長するために、生涯を通して勉強し続けたい

ー様々な苦労があった中で、辞めようと感じたことはなかったのですか?

岩崎さん
アディダスというビッグネームがなくなった時に、自分にどれだけの価値があるのかわからなかったですし、辞める勇気がありませんでした。だからこそ、ARのキャプテンとしてだけではなく、フィットネスインストラクターの岩崎志保としての活動も精力的に行うことで、少しずつ自信をつけています。

ーこれからの目標があれば、教えていただきたいです。

直近だと、資格を取ることです。資格がなくても仕事としては成立するんですが、インストラクターは、絶えず変化していくからだと向き合う仕事なので、一生勉強が続いていくんです。資格を取ったら終わりではなく、これから長く身を置く世界だからこそ、スタートする意味で正式な資格を今は取りたいなと。

ー最後に、岩崎さんの考えるいい指導者とは?

自分が求められていることを、把握する能力に長けている人。想像力を働かせて、人の気持ちを理解できる人ですかね。そのためにも、引き続き自分自身をアップデートしていきたいです。

 

■プロフィール

岩崎 志保(いわざき しほ)

2016年よりAdidas Runners Tokyoの初代キャプテンに就任し、コミュニティリーダーとして活躍する傍ら、現在はピラティスインストラクターとしても活動中。ELLE girl UNIの一員であり、ファッションモデルとしてのキャリアも充実しているなど、幅広いジャンルで影響力を持つ。

Instagramアカウント:@shihoiwazaki

ELLE girl UNIのHPはこちら

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