女子ラグビー青木蘭「アスリート自身が積極的に発信を」SNS復活の理由

青木蘭さんの写真

#女子ラグビーについて語ろう そんなハッシュタグが生まれたのは、男子ラグビー日本代表への熱狂が冷めやらぬ、2019年10月23日。仕掛け人は青木蘭さん。横河武蔵野アルテミ・スターズでプレーする23歳の女子ラグビー選手です。男子ラグビーが日本を盛り上げるなか、彼女が考えていたことは。

女子アスリートからの発信を増やしたい

ー#女子ラグビーについて語ろう を呼びかけたきっかけは何ですか?

青木さん
ラグビーの男子日本代表があんなに注目されているなかで、「女子ラグビーが何をしているのか全くわからない」と男性のラグビー関係者に言われたのがきっかけでした。

ちょうど母校の慶應義塾大学で女子ラグビーチームを創設して、今後どのように広めていくべきかを考えていたところだったのですが、そもそもラグビー界のなかでも女子ラグビーについて知られていないということに衝撃を受けました。まずはプレーヤーである私から発信をしていくことに意味があると考えて、あのハッシュタグをつくりました。



青木蘭さんの写真

屈託のない笑顔がかわいらしい青木蘭さん

ー反応はいかがでしたか?

予想以上に男性からのコメントが多かったですね。男子と同じサイズのボール、同じ広さのフィールドなんだよ、っていう豆知識やルールを、ハッシュタグをつけて発信してくれる方が多くて嬉しかったです。

今後女子ラグビー関係者や選手たちが情報発信のツールとしてSNSを活用していくなかで、女子ラグビーを表現するための共通のハッシュタグを使えば、興味をもった方が検索しやすい環境を作ることができます。

現状は、女子選手たちよりもチーム関係、ファンの方々のつぶやきが多いです。今後選手たちが自分の日常、ラグビーのことを共有できるツールとして浸透できればと思っています。



ー今後に期待する動きはありますか?

今後は選手たちからも、試合日程、会場、練習試合、どんな選手たちがいるのか、日本代表の実績など、ラグビーに関することはもちろん、自分の日常や、自己表現の場としても、情報を発信するという文化が浸透すればもっといろいろな方々に「女子ラグビー」を知ってもらえるチャンスができるのではないかと思っています。


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高校生で親元を離れ、島根へラグビー進学を決断

―青木さん個人としては、女子ラグビーの課題はどこにあると考えていますか?

ラグビーを続けられる環境というものが他競技と比べてもまだまだ少ないことが大きな課題の一つだと思っています。


ー青木さんは女子ラグビー部がある高校を探して、島根に進学されましたよね。

はい、地元の神奈川県では見つけることができなくて。四六時中ラグビーのことを考える環境に身を置こうと、思い切って島根県の石見智翠館高校に行きました。難しい判断を親も子もしないといけない局面でしたが、幸い私は親の理解があって、快く送り出してもらいました。

女子は節目節目で選択を迫られます。辞めるか、辞めないのか。辞めないと決めたら、今度は険しい道のりが待っている。男子ラグビーだったら部活も多いし、進路と競技の両立ができるじゃないですか。女子は道なき道を進むことになる。

でも本来は、それぞれの将来の夢とか、勉強とか、学生としての生活とラグビーが一緒にできる環境をもっと作ることができれば、競技を続けやすくなると考えています。慶應義塾大学に在学中に「IRIS神奈川」という女子ラグビーチームを立ち上げたのも、そんな思いからです。



女子ラグビーの未来を変える、使命感を感じる

ー今はSNSでも積極的に発信をされていますが、一度Twitterのアカウントを閉じたこともあったようですね。

青木さん
中学生のころからSNSを始め、ありがたいことにたくさんの方々にフォローしていただきました。一時期、進学の節目にSNSから離れる期間がありましたが、社会人という立場で競技をするにあたり、もう一度女子ラグビーを広めようと思い今年の9月から再始動しました。


ーもう一度復活するには、覚悟もあったのではないですか?

私はやっぱり人前に立って自分の思いを発信するのが好きなんだなって気づいたんです。女子ラグビーをみんなに知ってほしいという思いも強くなる一方でした。

選手として普段どんなトレーニングをしているのか、どんな食事をしているのか。オフの日は化粧して遊びに行ったり、そんな試合以外の一面を見て、共感してくださる方々がいるかもしれない。さらにそれをシェアしてくれる人がいるかもしれない。

SNSという二次元の世界での活動報告が、私の未来、女子ラグビーの未来に影響を与えることができるなら、やる価値があるって思えたんです。今のアカウントはまだ初めて2週間ほど(2019年11月2日時点)ですが、「おかえり」って感じで、意外と温かく受け入れてもらっています。



青木蘭さんの写真

三鷹にある練習場は、勤務場所のすぐ近く

ーSNSを通じて発見されることで、「美人アスリート」として取り上げられることも多いと思いますが、どのように感じていますか?

私としてはプレーで評価していただきたいと考えています。ラグビーへの姿勢に妥協や甘えがないことを実際にグラウンドに来て見ていただきたいと思います。そのきっかけとして取り上げていただけることはうれしいです。


ー客観的に自己分析されていますね。

自分自身を自分が応援したいと思うか、という視点はいつも持っています。それは、私が今チームのスポンサー企業である横河電機株式会社の社員であることも影響しているのかも。一メンバーでありながら、スポンサー側からの視点でもチームを見られる立場です。「横河武蔵野アルテミ・スターズは、応援したいと思うチームか」を常に考えています。自ずと自分の行動も省みるようになりますね。


ラグビーに灯った火を絶やさぬように

ーラグビー男子日本代表の盛り上がりを見て、正直悔しいという気持ちはありませんでしたか?

それはまったく!ラグビーが盛り上がっていることが嬉しいので、男子か女子かは関係ないです。自分が愛しているスポーツが、みんなの心に火を灯していく。そのことが心を激しく動かすんです。

マイナー競技だと思われていても、結果が伴えばこんなに状況は変わるんだともわかりました。今年のラグビーワールドカップ日本大会は、非常に面白く勉強になった大会でしたね。



ー今後の目標は見つかりましたか?

まだまだ世間的な認知度は低いですが、男子日本代表のワールドカップの活躍を機にラグビーへの注目が高まっているのも事実です。一人でも多くの人に、女子のラグビー選手たちが頑張っている姿を見てもらいたいなと感じています。

この素晴らしいスポーツと自分の夢をリンクできる環境を作りたい。このラグビーブームにのり、女子ラグビーだからこそ、表現できるラグビーがあり、その表現を選手として発信することが自分の役割です。



ラグビースクールなどの普及活動と選手生活、社会人の3つの立場で奮闘中

ーすでに始めている、発信とチーム作りという活動が両輪になっていきますね。

そうなっていければ。今小学校ではタグラグビーが体育の授業に導入されていますが、中学生になって続ける環境がなければそこで辞めてしまう。さらにタッチでもタグでもないラグビーに挑戦してくれるハードルはさらに高いと思うので、普及と環境づくりを焦る気持ちはあります。

SNSから共感の輪が広がっていったり、チームの存在に気づく人が増えたりすることで、少しでも興味を持っている人の受け皿をたくさん作りたいと考えています。



大学を卒業したばかりの女の子とは思えないほど、迷いがなく、力強い言葉でインタビューに答えてくれた青木さん。その考えと行動の一貫性に驚かされました。青木さんの活動は、女子ラグビー界だけでなく、女子スポーツ全体の発展に影響を与えていくはずです。

■プロフィール

青木 蘭(あおき らん)

1996年10月16日生まれ。横河武蔵野アルテミ・スターズ所属。

幼少期から兄弟の影響でラグビーを始め、中学卒業後は競技環境を求めて島根の高校に進学。慶應義塾大学在学中には、女子ラグビーチーム「IRIS(アイリス)神奈川」を創立し、現在も選手生活と競技の普及に奮闘中。

Twitter:@ranaoki5
Instagram:ran.aoki
IRIS神奈川 Twitter:@Keio_IRIS

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