ヴィーガンアスリートの食習慣と体への影響。村田英理子さん×一ノ瀬メイさん

食生活のスタイルのひとつとして、最近よく耳にする「ヴィーガン」。一般的には肉・魚・乳製品などの動物性食品を摂らず、「完全菜食主義」の人たちがヴィーガンと呼ばれています。

今回B&では、『GOOD HABIT 心はずむ毎日の、うれしい食習慣』著者・アスリートフードマイスター1級の資格を持つ村田英理子さんが、現役競泳選手でありヴィーガンアスリートである一ノ瀬メイさんの食習慣を深掘り。おふたりのトークイベントの様子をお届けします。

 

■ゲストプロフィール

一ノ瀬 メイ(いちのせ めい)

水泳選手。1997年京都府生まれ。オーストラリアのサンシャインコースト在住。先天性右前腕欠損。2016年リオ・パラリンピックでは日本代表として8種目に出場。2020年、コロナ禍による自粛期間中にヴィーガン生活をスタート。現在は得意種目の100mバタフライと200m個人メドレーを含む6つの日本記録を所持。「障害」についての発信も精力的に行い、高校時代には全国英語スピーチコンテストで優勝している。

Instagram:@mei_ichinose
Twitter:@mei_ichinosse

 

■講師プロフィール

村田 英理子(むらた えりこ)

アスリートフードマイスター1級。ラグビー選手の夫を食事でサポートするなか、食事や栄養の情報を発信していたInstagramが人気を集める。無理なく続けやすい食習慣の考え方が共感を呼び、『GOOD HABIT 心はずむ毎日の、うれしい食習慣』(山川出版)を2021年1月に上梓。

Instagram:@athlete.food_eriko.murata
Twitter:@erikome1104

 

■村田さんのインタビュー記事はこちら

 

思い立ったその日から「お肉、やめます」

村田さん
今日はよろしくお願いします。ヴィーガンアスリートについて、私も興味津々です!メイさんは、いつからヴィーガン食をはじめたんですか?

一ノ瀬さん
コロナ禍の自粛中に勉強をはじめたので、ちょうど1年が経ったところです。

メイさんにとって「ヴィーガンの定義」とはなんでしょうか。

よく聞かれるのですが、“可能な限り犠牲のない生き方”とお答えしています。

村田さん
なぜヴィーガンをはじめようと思ったのか教えてください。

一ノ瀬さん
自粛期間中に、『ゲームチェンジャー: スポーツ栄養学の真実』というドキュメンタリー映画を観たことで、プラントベース(植物由来)の食事がアスリートの肉体に与える影響を知り、興味を持ちはじめました。

怪我から復帰するアスリートが、植物由来の食事を取り入れた際の経過を追ったものですね。

そうです。それを観て「わたしもやってみよう」と思い立ち、可能な限り植物性のものを摂る食生活を2ヶ月間続けました。でも、チームの栄養士に「特に強いこだわりがないなら、お肉も食べた方がいいのでは」と言われて、一旦やめたんですよね。

完全なヴィーガン食の前に、お試し期間もあったんですね。ちなみに、最初は何からはじめたんですか?

肉と魚は食べるのをやめました。すぐに対応ができなかった調味料には動物性のものが含まれるのもオッケーにして、外食のとき、例えばピザ生地に乳製品が含まれていることも許容範囲にしました。

栄養士さんから止められたあとに、完全なヴィーガン食に切り替えたきっかけは何ですか?

オーストラリアがロックダウンしたとき、水泳以外の世界にも意識を向けようと新しい分野の勉強をはじめたんです。そのなかで、環境問題についてのドキュメンタリー映画『Cowspiracy: サステイナビリティ(持続可能性)の秘密』を観て、畜産が気候変動や自然環境に与える問題について考えたことがきっかけです。

お肉を食べる量を減らすことで、環境に貢献できるのであれば「やらない理由はない」と思ってはじめました。

今までの価値観に、相当なインパクトを与える作品だったんですね。お試し期間と同じように、段階を踏んでスタートされたんでしょうか。

その時は、やめようと思った瞬間から完全なるヴィーガン食に切り替えました。

 

ヴィーガン食に切り替えて感じた体の変化

村田さん
アスリートとして、ヴィーガン食をはじめるときに動物性のものを全くなくすことへの不安はなかったんですか?

一ノ瀬さん
ロックダウン中だったので食事にも勉強にも時間をかけることができたし、「失うものはないな」と思ってました。

オフ期間は、新しい食習慣を試してみるのにいい機会ですね。

もともとお肉があまり得意ではなかったので、切り替えは自然とできました。実際にやってみると、いい変化がたくさんありました。

ヴィーガン食に切り替えて、体にはどんな変化がありましたか?

体脂肪率が下がって、大会前のベストだと思っていた体よりもさらに締まりました。夏には練習拠点やジムがクローズし、ウエイトトレーニングもできずに筋肉量が一時的に下がったんですが、再開したらちゃんと回復しました。

アスリートの世界って、“体重や体脂肪が減る=競技にいい影響が出る”わけではないと思うんですけど、パフォーマンスへの影響はどうですか?

それが、食生活を変える前よりも1秒以上タイムが縮まったんです。後半の持久力と疲労の回復スピードがアップし、心拍が上がった後の息苦しさが軽減したように感じます。

データを見せてもらいましたが、有酸素的な運動能力の向上が顕著に見られますね。

世界的にみていくとヴィーガンアスリートも増えていて、筋肉ムキムキの選手もたくさんいるんですよ。

海外だと日本と比較してヴィーガンメニューの選択肢が多そうですね。

オーストラリアのレストランにはほぼヴィーガンメニューがありますし、外食で不便さを感じたことはないですね。

海外に出て改めて思いましたけど、日本食文化ってペスカタリアン(魚・卵や乳製品・植物性食品を食べる)に近いので、ヴィーガンへのハードルもそんなに高くないんじゃないかなって思います。

ちなみに、食生活をガラッと変えたことへのストレスはなかったですか?

なかったです。お腹がいっぱいでも体重が増えないことで心のストレスは減ったし、見た目には丸かった顔がシャープになりました(笑)。

 

ヴィーガンアスリートのリアルな食生活

村田さん
続いて、メイさんの食生活について教えてください。必要なタンパク源は何から摂ってるんですか?

一ノ瀬さん
1丁あたりのタンパク質量がわかりやすいので、豆腐をメインに摂っていました。最初のころは豆腐ばかりでしたね(笑)。

毎日お豆腐はバリエーションが限られそうです。基本は豆メインということですね。

今は、豆腐+レンズ豆やヒヨコ豆がメインです。菜食栄養学の勉強を通して、できる限り食べるものを制限するのではなく「上乗せの考え方」をするようになりました。

白米に玄米・穀物を加えたり、補給食ではバナナだけじゃなくナッツも摂るなど、1日をかけていろいろなものからタンパク質を摂るようにしています。

村田さん
お料理で使用する食材なども増えましたか?

一ノ瀬さん
増えました!ヴィーガンをはじめて、新しい食材に出会う機会が増えたこともよかったことのひとつで、毎日楽しみながら料理しています。

実は私も、今日に備えて3日間ヴィーガン生活をやってみたんですが、スーパーでは今まで見えなかった食材が目に入ってきました。思った以上に動物性のものが多いことには驚きましたね。

ポテチやグミ、白砂糖(牛の骨の灰を使用して濾過しているため)をはじめ、本当にいろんなものに動物性のものが使われていますよね。

ただ、シンプルな素材で組み合わせを工夫するのが楽しかったです。でも、ヴィーガン製品のラインナップを確認すると高価な印象があって、経済的な余裕も必要かな…。

みんな、「ヴィーガン食にすると高い」って言いますね。でも、私はお肉をお豆腐や豆に切り替えることで食費はだいぶ抑えられています。

ヴィーガン食のはじめの一歩、という感じで特別に作られているものや代替肉はどうしても高価なんですが、高くておしゃれなヴィーガン製品がすべてじゃないので、工夫次第です。

タンパク源のメインである、レンズ豆やヒヨコ豆の食べかた、他にもオススメの食材があれば教えてください。

レンズ豆はひき肉の代わりとして使ってますね、パスタのボロネーゼソースにしたりとか。野菜の甘みを活かすことで、豊かな風味のソースができあがります。キヌアはサラダやスープとしてよく食べる定番メニュー。サツマイモをフムスにしたり…小豆とドライデーツを1:1で炊いたあんこは作り置きにオススメです。

村田さん
今お伺いしてるだけでも、実際にやってみたいと思うレシピがたくさん!最後に、メイさんにとってのGOOD HABITを教えてください。

一ノ瀬さん
「答えは自分の中に見つける」ことです。今は情報があふれているけど、今日の自分が何を求めているのか、しっかり体と向き合って正直でいることを大切にしていきたいですね。

 

参加者からの質問タイム

Q.周囲から「お肉を食べたほうがよい」など善意のアドバイスをもらうことがあります。メイさんもそういう経験はありますか?

一ノ瀬さん
「タンパク質やカルシウムは足りるの?」とかよく聞かれます。でも、知識があれば身は守れるので大丈夫ですよ。考えを押しつけずに、聞かれたら答えるという姿勢で、行動で示しています。

Q.ヴィーガンをはじめて「昼寝が減った」というアスリートがいたのですが、メイさんは睡眠の変化はありましたか?

消化にエネルギーを使う負荷が減ったためか、ご飯を食べたあとの眠気は減りました。でももともと寝るのが大好きなので、昼寝がなくなったということはないです(笑)。

Q.プロテインやビタミン剤のサプリなどは摂ってますか?

ドーピングのリスクもあるので、サプリは摂っていません。土つきのオーガニック野菜を皮ごと食べたり、ニュートリショナルイースト(ビタミンB群が豊富に含まれる)で補填しています。プロテインも、最近は体が必要としていない感覚があるので摂っていません。ヴィーガン用のプロテインも多いので、きっかけとしてはじめてみるのは良いと思います!

 

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