自分で切り拓く新たな競技環境。レスリング・中村未優のチャレンジ

中村未優さんの写真

5歳から兄と共にレスリングをはじめ、全国中学生選手権大会で優勝を飾ったあと、高校時代にはインターハイやジュニア世界選手権などで4冠を達成した中村未優選手。昨年は、世界ランキング上位選手達に勝利し、シニアの国際大会でも優勝しています。

現在、大学4年生の中村選手は、学業と両立しながらオリンピックの金メダル獲得を目指しています。大学生のレスリング選手は通常、大学の「運動部」に所属して競技活動を行いますが、中村選手は独自の環境を構築してオリンピックを目指しています。

大学進学後に競技環境を変えた理由、課題に対峙したときの対処法を伺いました。

(聞き手・構成:小田菜南子/ 文:横畠花歩)

 

幼少期から魅せられ続けてきたレスリングを続けるために、独自の競技環境を構築

ー中村選手がレスリングに出会ったきっかけを教えてください。

中村選手
5歳の時に通っていたスイミングスクールで、友達に誘われたことがきっかけで、兄と一緒にレスリングをはじめました。負けず嫌いな性格も手伝って、競技の面白さにどんどん引き込まれていきました。

 

ー大学4年生である現在まで、競技を続けられてきたんですね。

そうですね。中学・高校とレスリング一色で、大学も部活動推薦という形で入学をさせてもらいました。ただ、現在は大学のレスリング部に所属をしておらず、スポンサーやクラブ、強豪の選手が所属する高校や大学等の協力を得ながらトレーニング環境を構築しています。

 

ー部活動に所属せずに独自の練習環境を選んだ理由はなんですか?

1年目は大学のレスリング部に所属して練習に参加してたんですけど、圧倒的に女子部員の数が少なかったんです。そんななかで男子に合わせたメニューをこなし、男子を相手に組み合いをするなどといった練習が続いていました。

2020年東京オリンピック代表選考会に向けて、限られた時間でパフォーマンスを引き上げるためのプログラムを組めない環境のなかで、オリンピックを目指すという夢が実現できるのかという不安が常にありました。

中村未優さんの写真

 写真提供:保高 幸子(フォトグラファー)

 

ー体力的にも精神的にも、ハードな環境ですね。

オリンピックを目指すために、もっとパフォーマンス向上にフォーカスしたいと思っても、それを言いにくい雰囲気もあり、違和感をずっと感じていました。

1年間は部に所属していましたが、短期的な目標であるオリンピックのことを考えた時に、ベストな環境を創るために退部するという選択をしました。

 

 

 

ー現在はどのような場所で練習を行っているのでしょうか?

 今は、アスリートの育成やコーチングを中心に事業を展開している「Sports Design Lab」に所属しています。パフォーマンス向上に加え、トップコーチや科学者からキャリア形成に向けた支援もいただいています。

通常のトレーニングは、マンツーマンの練習を行っています。コーチには大学入学当初から見てもらってはいたのですが、2年生から現在に至るまでは二人三脚での練習に切り替え、目標達成に向けて、一番可能性を高めることができるプログラムをつくって活動しています。

 

 

女子アスリートとして、女性コーチの必要性を考える

ー大学での練習環境に関して、女子が圧倒的に少なかったとおっしゃってましたが、指導者はどうなんでしょう?

中村選手
女性のコーチは、大学のレスリング部に限らず少ないです。会場で出会うコーチ陣も、やはり同性は少ない印象ですね。高校時代に感じたのは、レスリング競技においての女子は、メインではなく男子のサブ的なポジションであるということ。あまりいい表現ではない気もするんですけど、そう思ってしまったことは事実です。
 

 

 

ーコーチに関して、やはり女性のほうが良いなと思う面はありますか?

コーチングの対象や場にもよりますが、そう思うことはあります。スキル面についてだけではなく、心理的な部分やコンディショニングについて、月経周期などの女性特有の課題のことについてや、人間関係においてまで、同性のほうが共感できる部分が多いのは事実ですよね。
 

中村未優さんの写真 

ー体重で階級が変わる競技ですが、成長期を迎える局面では苦痛になる場合もあるのではないでしょうか?

例えば成長期には、発達の過程で体脂肪が増える時期を迎えます。それを単純に周囲から「太った」と言われてしまい、過剰に気にして食事を摂れなくなるケースや、目の前の試合に勝つために過酷な減量を行う選手が存在します。

本来であれば、成長期にしっかりとエネルギーをとることで筋肉量を増やし、長期的な視点でパフォーマンスを向上することもできるはずです。

女子と男子ではからだのつくりがそもそも違うのに、ウェイトコントロールについても男子を基準に指導されているケースが多く、過度な減量を強いられるなどコーチや保護者など、アスリートの周囲の知識不足を感じています。

 

 

レスリングのプロフェッショナルを目指して

ー現在はマンツーマンで指導を受けられているそうですが、垣根なくいろいろな場でトレーニングができる環境なんですか?

中村選手
今は強豪の女子選手が所属する高校や大学の練習に参加させてもらったり、世界トップレベルの選手とのトレーニング機会を組んでもらい、実戦的なトレーニングを行っています。

また、チームでの活動をしていないので、海外での試合やトレーニングなどを含め、私の課題解決に向けたプログラムを柔軟に組むことができています。海外の選手からプロフェッショナルとしての意識を強く感じるので、なかなか日本では得ることのできない気づきを得ています。

 

中村未優さんの写真 

ー自分で選択した結果が、良い方向に向かっている様子が伝わってきます。

結果としては間違っていなかったと思っています。ただ、前例がない自分の選択に対して、他人からの批判を過剰に気にした時期もありました。

狭い世界ですし、直接言われたこともあれば、回り回って耳に入ることもありました。これまで、大学生のレスリング選手にスポンサーが支援をしたり、専属のコーチがついているという前例もなかったんですよね。

言い訳のできない環境なので、思うような結果を得られない中で苦悩する時期もありましたが、ずっと相談してきた中高時代の恩師にも応援をしてもらっていたので、前向きになることができました。

一番近い友達とかの理解や応援もあったので、私は恵まれてるなと感謝しています。今は、このようなプロセスが力になっていると感じます。

 

 

 

ー環境を変えることで自身の練習環境を構築してきた中村選手ですが、目指している目標を教えてください。

あくまで現在の気持ちの話なんですけど、アスリートとしては、パリ五輪の金メダル獲得を目指しています。アスリートとして活動しながら、競技の普及や育成の活動も積極的に行っていく予定です。その後は、やはり女性コーチになりたいという気持ちがありますね。

ただ、いまの時代のコーチに求められる要素は多岐にわたるので、コーチングを学ぶ期間をしっかり持ちたいと思っています。コーチング研修への参加や、国内外の様々なフィールドで優秀なコーチのもとで経験を重ね、ネットワークを構築することに加え、語学のレベルも上げたいと考えています。

  

 

ーご自身の経験を踏まえてのアスリートとしてのキャリア形成は、後続の世代にも参考になると思います。

そうだといいですね。実際に女子レスリングの先輩たちの姿を見ていて、自分に重ねて考える機会というのは多かったので、今後は自分が誰かのロールモデルになる可能性があるということを意識して、これからのキャリアを描いていきたいです。
 

中村未優さんの写真

 写真提供:保高 幸子(フォトグラファー)

 

ー最後に、現在の自分の環境に悩んでいる女子たちにアドバイスをお願いします。

まだまだ私自身も道半ばなので、アドバイスをできる立場にはありませんが、日本においてはスポーツ以外の場においても、与えらえた環境の中で取り組むべきという価値観が強いように感じています。

このような部分は時代とともに変わりつつあると思いますが、これまでの活動を通して、アスリート自身がビジョンを明確にして、実現に向けて自ら環境を創るための行動をとることも一つの選択肢だと思っています。目指すものがあるなら、勇気と覚悟を持って一歩を踏み出してもらいたいと思っています。

 

 

 

■プロフィール

中村未優さんの写真

中村 未優(なかむら みゆう)

1998年生まれの女子レスリング選手。5歳から競技をはじめ、15年アジアカデット選手権、16年には世界ジュニア選手権にて優勝。18年からはレスリング2020強化アスリートとして選出。19年には世界ランキング上位選手達に勝利し、キエフ国際大会でシニア初優勝を果たしている。

Instagram:@mi__yu0713

 

RELATED

PICK UP

NEW