最高のパートナーの見つけ方。ビーチテニスペアが信じた直感
左:本間江梨選手 右:大塚絵梨奈選手
大きな目標に向かうとき、一緒に進むパートナーは達成の行方を左右する重要な存在です。ビーチテニスの本間江梨選手と大塚絵梨奈選手は、ともに国内ランキング1位の実績をもつトッププレイヤー。今までは対戦相手として向き合ってきたその二人が、2019年に正式にペアを組み、ダブルスで世界を目指すことを決意。ただ強いだけじゃダメだった、2人のパートナー選びの価値観を伺いました。
初めて組んだときから、絶対に強くなれると思っていた
お二人とも他競技からの転向でビーチテニスと出会ったそうですが、それぞれ競技歴はどれくらいですか?
6年目です。6歳の時からバレーボールを始め、高校卒業後には実業団でプレーしました。その後ビーチバレーに転向し、たまたま練習場所の近くでやっていたビーチテニスを試しにプレーしてみたことがきっかけですね。
“春高バレー”でMVPにも選出されるなど、輝かしいバレーボール選手時代を過ごしてきた本間江梨選手。
私は3年目です。10歳でテニスを始めてから、大学卒業まで12年間続けました。社会人になり、何か新しいことをしたいなと思っていたときに、たまたま海で出会ったのがビーチテニスでした。
ビーチテニスは狭い世界なんですけど、今年になるまであまり大塚と会うことはなかったですね。2019年の国別対抗戦で、大塚が日本代表として出場する際に私もサポートとして同行したんですが、そこで初めてペアを組んだのかな。
その時、絶対強くなれるって思ったんですよね。元々周囲からも「2人なら世界に通用するから、ぜひ組んでほしい」と言われ続けていたんです。ただお互いに違うペアがいましたし、本間も第一線から退いて育成に回っていた時期もありました。いろんなタイミングがかみ合ったのが今年ですね。
大学時代、テニスの全日本学生選手権で女子ダブルスベスト8入賞の実績を持つ大塚絵梨奈選手。
絶対に強くなれるという感覚ってどこでわかるんですか?
ん~、表現できないな・・・。どうなの?あんまり聞いたことないけど。
なんですかね(笑)。当然、本間の身体能力が大きな武器になるとは思っていました。国内の試合では、ボールをコントロールしてゲームを作っていけば、ある程度は勝てるんですけど、世界で戦うにはスマッシュとかの強いボールがないと勝てないと痛感していましたから。
中学時代にはバレーでベストレシーブ賞も受賞。攻守ともに心強いプレーを見せてくれる。
ビーチテニスの純粋なうまさなら、大塚のほうが上だとは思うんですよね。彼女はずっとテニスをしてきた人間で、私はテニスを知らない人間なので。「何なの?」って私に思うこともあるはず。
ありますね(笑)。もう、本当に概念が覆されます。わけわからない動きをするんです。
私の動きっておかしいらしいんですよね。それは始めた頃からずっと言われ続けています。
最初はしましたよ。打ち方ひとつ、動き方ひとつ。でも「冗談じゃねえ無理!」って、もう精神崩壊(笑)。だから自分が今持っているものを活かすようにしようと思ったんです。みんながテニスの概念で戦っていたら抜け出せない。「なんじゃそりゃ」っていうのが多いほど、世界で戦う武器が増えると考えています。そのスタイルでトップに立てば、それが正解になるので。
その違いを私は面白いと感じていました。「そんな動きするんだ」って。最初は合わせられなくて、ただただ戸惑っていましたけど、なぜかハマったんですよね。
そんなに密にコミュニケーションを取ったわけではないんですが、普通にハマってストレート勝ちしたよね。
絶対的な信頼は、互いの尊敬から生まれる
どちらかというと、大塚さんが本間さんの動きに合わせてるんですか?
うん。合わせて、合わせられる。本間は自分勝手キャラに見えるんですけど意外に・・・。
鵠沼海岸のサーフビレッジ前で練習することが多いそう。
たしかに私のほうが感情的になりやすいかもしれないですね。自分のプレーがうまくいかないときは特に。出さないようにはしているけど、分かる人には分かると思います。
私より9つも下ですからね。かわいくてしょうがないんですよ。「どうしたの、そんなに怒っちゃって」って感じ(笑)。
一緒に感情的になったりしないんですね。パートナーとの信頼関係ってどうやって築いていくんですか?
これは過信かもしれないけど、それなりに私のことを尊敬してくれてると思ってるんですよ。競技レベルは彼女のほうが上だけど、経験値の部分では私のほうが少し先輩。だから「どんとこい」っていう気持ちでいられます。「お前のミスくらいすぐ取り返してやるから、好き勝手やっていいよ」という気持ちを初めて感じた相手なんです。
その安心感があるので、自分のプレーにも集中できますね。絶対に決めてくれるっていう信頼もありますし。
ミスショットの際の「ナイストライ」という掛け声も印象的でした。
これは自己流でやっている声がけですね。ミスしようとする人なんていないじゃないですか。取ろうとしたり、決めようと思ったりした結果なので、その前にはトライがある。それが素晴らしいことですよね。
コースを狙ったボールがアウトになったり、ポイントを狙いに真ん中に打ったボールが返されたりしても、その過程を評価してもらえると、のびのびプレーができます。
働きながら世界を目指す。“E2”はそのロールモデルに
ペア名を“E2”と名付け、世界を目指すお二人ですが、ビーチテニスを盛り上げたいという思いもありますか?
そうですね。その二つは同じ延長線上にあると思っています。世界を目指せるという道筋を見せることが、競技の普及に一番つながるはずなので。
ビーチテニスは誰でもすぐに始められる競技。どんなレベルでもエントリーできて、同じ大会で戦える。だからこそ、趣味で続ける道と、世界を目指す道をはっきり分けることも競技の発展には必要です。
そうですね。その二つは同じ延長線上にあると思っています。世界を目指せるという道筋を見せることが、競技の普及に一番つながるはずなので。
砂浜につくられたコート。世界トップクラスのプレーを身近に見られるのも、ビーチテニスの魅力。
アスリートと愛好家の線引きを明確にしていくということですか?
もちろん裾野を広げていくことも大事です。天気がいいなーって海に来た人が、ふらふらっと練習に混じりやすい空気もつくっていきたい。でも競技の未来を考えると、トップクラスの選手の試合をお金を払って見にいくという状況を作らないといけないんですよね。
私も最初は、なんとなくからだを動かしたいというくらいの気持ちでやっていたんです。世界を目指す!なんて気持ちが生まれたのは、本間の影響。日本トップだった本間と大会で対戦して、圧倒的に強い姿を見たことがきっかけでしたね。
そんな自分たちを見てビーチテニスを始めた人たちが、競技を続けられる環境もつくっていかないといけない。私たちは2人とも働きながらビーチテニスをしているので、仕事をしながら世界を目指すロールモデルになりたいですね。
仕事とビーチテニスの毎日で、プライベートの時間がないのでは?と尋ねると、「好きなことをしているので、気にならない」という2人。
世界を獲ることについて、2人で海を見ながら真面目に語ったりもするんです。そんな選手とダブルスとしての相性も合うことはなかなかないと思います。本間江梨と組みたい。ずっと思い描いていたことだったので、わくわくしています。
ストーリーが見えているので、実現するんですよ。やってきた人がいないから、いくらでも道は切り開けるんです。
左:本間 江梨(ほんま えり)
1981年生まれ。小学生からバレーボールを始め、中学生時代から世代別代表に選出。春の高校バレー準優勝を飾り、MVPを受賞するとVリーグイトーヨーカドーに所属。2001年にはイタリアのチームセリエAモデナに移籍し、日本人ながら全試合に出場。ヨーロッパ選手権優勝に貢献し、個人としてもMVPを獲得した。一度はビーチバレーに転向するも、帰国後に出会ったビーチテニスにのめり込んだ。
国内ランキング最高位 1位(2015年ー2016年)
世界ランキング最高位 18位(2016年)
2017年には育成のため第一線を退いたが、2019年から現役に復帰した。
右:大塚 絵梨奈(おおつか えりな)
1990年生まれ。10歳から硬式テニスを始め、筑波大学在学時には全日本学生選手権女子ダブルスベスト8入賞を果たす。その後大学院へ進学し、スポーツバイオメカニクスについて学んだ後、2015年にゴールドウインに入社。現在はスピード事業部に所属し、水着を中心とした商品企画を担当している。
2016年に本格的にビーチテニスを始め、会社員とプレーヤーの二足のわらじでトレーニングを積み、ツアー参戦1年目にして国内ランキング5位を達成。2年目の昨年は、全日本選手権女子ダブルス優勝、国内ランキング1位を達成した。
国内ランキング最高位 1位(2019年9月)
世界ランキング最高位 28位(2019年2月)
■主な戦績
2018 第6回全日本ビーチテニス選手権女子ダブルス優勝
2018年度 ITF国際ビーチテニス大会優勝6回
2019 ITF World Beach Tennis Championships Best32(世界選手権)
2019 ITF World Team Beach Tennis Championships 12位(世界国別対抗戦)