“カヌーはただの珍しい競技じゃない” 羽根田卓也選手が貫いてきた競技の魅力の届け方

羽根田卓也選手の写真

北京・ロンドン・リオデジャネイロと3度のオリンピック出場経験を持つ羽根田卓也選手。2016年のリオデジャネイロ五輪では、カヌー・スラロームのカナディアンシングル銅メダルを獲得しています。

メダル獲得後は様々なメディア・露出方法で、カヌー競技の魅力を発信し続け、さらには自身のスポンサー獲得にもつなげている羽根田選手に、SNSやテレビでの発信における信念やコツをお伺いしました。

多くの有名アスリートのプロデュースを手がけてきた、しげるちゃんの対談シリーズ第三弾です。

(聞き手:しげるちゃん/文:横畠花歩)

 

羽根田卓也選手としげるちゃんの写真

右:羽根田 卓也(はねだ たくや)

カヌー・スラローム東京五輪代表内定。北京・ロンドン・リオデジャネイロ五輪に日本代表として出場。リオデジャネイロ五輪では銅メダルを獲得。自粛期間中にSNSで公開したユニークな練習風景が話題に。

 

左:しげるちゃん

商品プロデューサー/インタビュアーとして活躍。CS局の旅番組にも多数出演、海外のファッション・流行などをナビゲートしている。元男子サッカー日本代表長谷部誠選手の著書『心を整える。』のプロデュースも手がけた。

 

幼い頃から、人と違う道を選ぶことに誇りを感じていた

羽根田卓也選手としげるちゃんの写真

しげるちゃん
今日は、よろしくお願いします。2016年のリオデジャネイロオリンピックで日本人初の銅メダルを獲ったことがきっかけで、羽根田選手を知った方々も多いと思うけど、カヌーは子供の頃に始めたの?

たしか、お父様がカヌー競技をされていたとかの記事を読んだ事があったけど?

羽根田選手
そうですね。父が選手だったこと、自分の出身地の周辺でカヌーが盛んだったことがきっかけです。
自然が豊かな地域に住んでいたのね。
池でやるカヌー、スラローム以外のカヌーが盛んな地域だったんです。自宅付近の矢作川を拠点に、地域のコミュニティが築かれていて、競技に取り組むには最適な環境でした。
羽根田選手の子供の頃は、きっとサッカーや野球をする友達が多かったと思うのだけど、お友達と違うスポーツをしていることが嫌になったことはないのかな?
周囲の友人と比べて、嫌だと思うことはなかったですね。どちらかと言えば、人と違うことをしていることを誇らしく感じて、劣等感は抱かなかったです。
高校までは日本で過ごして、そのあとは単身でいきなりスロバキアに渡ったんだよね?なぜスロバキアを選んだの?
スロバキアはカヌーの強豪国なんです。中でも特に、スラローム*が強くて。

世界チャンプやスロバキア代表選手がいる環境で練習をできること、日本にはない人工コースがあったこと、そして物価が安いという点で決めました。

*250〜400mのコース上に吊るされたゲートを通過するタイムを競う種目。

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ちなみにスロバキアでの使用言語は英語なのかしら?言語の壁はなかった?
公用語は、ロシア語に近い発音のスロバキア語です。一般高校生の英語レベルで行ったんですけど、コーチと僕だけ英語を使っていたんですよね。

でも、せっかくスロバキアにいるのに、英語で完結してしまってはもったいないと思って、スロバキア語を覚えました。

あらっ、かっこいい!(笑)スロバキアにはどれくらい住んでたの?日本との環境の違いで困ったこととかはあった?
18歳から10年以上、スロバキアを拠点にしてました。環境というか、日本食にこだわりがある人は、スロバキアはNGですね。

外食をしようにも野菜や肉が極端に少なくて、豆料理単品だったり、文化として晩御飯を食べない人もいたり。

それはまた、極端に環境が変わったね~。日持ちする食材とかは、日本から送ってもらったりしたのかな?
一時帰国の際に調味料を購入してましたね。現地ではなるべく野菜や肉を使って自炊してました。

高校生まではコーチも不在だったから、自分でやるということには慣れていて。身の回りのことを含め、世界で戦うための環境に順応するいいきっかけになったと思います。

 

リオ五輪から伝え続けてきた“競技のリアルな手触り”

羽根田卓也選手の写真

しげるちゃん
しげるたちにとっては、ほぼ触れる機会のないカヌー競技だけど、その魅力を伝えるとしたら1番のポイントは何だろうか?
羽根田選手
荒々しくてダイナミックではあるけれど、水の流れを操る繊細な高い技術力を求められる点ですかね。
水流の迫力は、テレビ越しでも伝わってくる!怖いって感じたことはない?
ありますよ!実は僕、最初は恐怖心からカヌーをやりたくなかったんですよね。
羽根田選手にも“恐怖心”があるなんて…(笑)。

羽根田選手の注目度をグンと引き上げるきっかけはリオ五輪だったと思うけど、個人の知名度が上がることで、カヌー競技の注目度にどうやって貢献するか、考えたりはした?

ずっと、個人の注目度を競技への関心に変換が可能か、ということを考えてメディアに出ています。

オリンピックの後にメディアに出るときは、カヌー競技を取り上げてもらうことが条件でした。逆に取り上げてもらえるように交渉をしたりもしましたね。

積極的にメディアに出たことで、競技への関心に対しての手応えはあった?それって戦略的に狙ったことだったのかな?
戦略とか、そんなに深くは考えてないですけど(笑)

自分ができる範囲でのメディア露出をしていますが、僕はカヌーという競技、そして競技者を尊敬してほしいんです。僕の発信を通して、競技のリアルな手触りを伝えたいと思います。

ステキな言葉だね!ところで、羽根田選手にスポンサーがつき始めたのは、いつ頃から?
2013年からミキハウスに所属しています。それまでは父や、地元の後援会の支援を受けて競技を続けていました。
北京から3回連続でオリンピックに出場して、ロンドンでは入賞、リオでは銅メダルを獲られてるよね。結果を残すことで、スポンサーが増えてきた感じなのかな?
リオオリンピックまではミキハウスのみスポンサーを受けていて、それ以降は自分で自分を売り込みましたね。
いろんな企業さんから連絡をもらったり、話す機会があったと思うんだけど、スポンサーを受けるにあたっての判断基準はあった?
自分がやってきたことを認めてもらえてることですかね。今まで、選手として応援していただいたことに対して、お返しができているという感触がなく、後ろめたさすら感じてたんです。

でも、今は成し遂げたことを評価してもらっているようで、それが本当に嬉しいです。

諦めずに努力をし続けた結果の『メダル獲得』は本当に素晴らしいこと。でも、五輪は4年に1回という長いスパンの中、羽根田選手にとって、人気を保ち続けるという秘訣は何だろう?
カヌーをただの珍しい競技としてではなく、結果を出すことが大変だということをわかってほしいなと思って発信を続けてきました。

そのことが競技者への理解や尊敬につながると思うので。SNSというツールを通して、僕が伝えたい点を皆さんに受け取ってもらえているのかなと思います。

 

価値を自分で生み出す時代へ。羽根田卓也のSNS活用術とは

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しげるちゃん
ちなみに、カヌーって現役続行できる年齢はどのくらい?
羽根田選手
30歳後半までですかね。40歳を超えて現役の選手はなかなかいないです。
羽根田選手は、まだまだいけるってことだね!東京五輪は延期になってしまったけど、メンタル面では、どう切り替えたりしたの?
延期の発表の時点で覚悟はしていたので、動揺などは特にないですね。こういうこともあるだろう、と。

過去にはモスクワで選手たちのボイコットもあったし、スロバキアで学んだのは、青写真通りに未来は実現しないということ。オリンピックが1年延期したくらいで、揺らぐものはないです。

カヌーの練習やトレーニングを小学校から初めて今に至るまで、こんなに練習しなかったのは初めてじゃない?精神的な成長とか、何か自身の発見はあった?
今回、競技史上初というほどにカヌーと離れたんですが、大会がない状態は、実質オフシーズンなんです。

カヌーに乗れないからこそできる何かを自分で探して、見つけてやるようにしていました。何ができなくてどうしようではなくて、何ができるかということを常に意識して過ごしています。

インスタグラムでアップしていたお風呂でのトレーニング、あれは本当にやっていたの?
やってますよ!

羽根田卓也選手の写真

羽根田選手は自粛期間中、トレーニング以外の時間をどうやって過ごしていたの?
本を読んだりお茶を立てたり、家にいることは苦ではなくて、ストレスも特に感じることなく過ごしてました。
そうそう、お茶を立ててるインスタを見て、意外に思って、聞きたかったの~~!
僕、日本文化が好きなんです。もともと歴史小説を好んで読んでいて、寺社仏閣や日本の文化に触れることも好きで。

読む・知る時間ができたことで、それらをもっと深く知ろうと思える機会でしたよ。

なるほど、納得!だから日本文化に関する発信も多いんだ。最後に、読者の方々へ『アスリートの自分の魅せ方』についてのアドバイスを貰えますか?
今はいろんな発信方法が選べる時代ですよね。SNSを通して使う言葉・方法には、人間性が出ると僕は思っています。

常日頃、律したり学んだり、茶道や歴史もそうなんですが、僕はすべてを勉強だと思って日々を過ごしています。その積み重ねが自分を作り上げ、言動で価値や生き方が変わってくる。

どう発信するかではなく、発信する自分がどうあるべきか・どういう信念を持っているかという点を意識するべきなのかなって思います。

 

■プロフィール

羽根田 卓也(はねだ たくや)

愛知県豊田市出身。カヌースラローム日本代表。ミキハウス所属。高校卒業後にスロバキアに単身で渡り、10年以上に渡って強化を図る。北京五輪14位、2度目のオリンピック出場となったロンドン五輪では7位に入賞。リオデジャネイロ五輪では銅メダルを獲得し、アジア初のカヌー競技でのメダル獲得となった。

Instagram:@takuya_haneda
Twitter:@Takuya_Haneda

 

しげるちゃん

商品プロデューサー/インタビュアーとして活躍。芸能人やタレント、モデル、スポーツ選手など、様々な業界の著名人との交流が深く、自身がプロデュースするアイテムは、そんな多くの著名人が愛用することで知られ、メディアやSNSでも話題に上がる。また、CS局の旅番組にも多数出演、海外のファッション・流行などをナビゲートしている。

Instagram:@shigeru39

 

撮影協力:ASICS Sports Complex TOKYO BAY

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