知識0でスペインへ。フットサル女子日本代表・吉林千景の語学習得術
スペイン語が全く話せない状況で単身スペインに渡り、現地の1部リーグで1年半プレーをしていたプロフットサル選手の吉林千景さんは、日本で2年過ごした後、再度スペインに渡るときにもその語学力は衰えておらず、むしろ上達したように感じたそうです。彼女の語学力習得の過程を紐解いていくと、脳科学や進化論にまで発展。語学=文系のイメージがありますが、語学力向上の鍵は非常にロジカルなようです。
このロジックを誰もが実践できるようにしたのが、「習慣化」のメソッド。このメソッドを提唱する、初心者の女性向け英会話スクール「bわたしの英会話」を運営する株式会社by ZOO代表の大山俊輔さんが、吉林さんのスペイン語習得のキーポイントを分析します。
生活から日本語が消えた日
―吉林さんの経歴を教えてください。
吉林:スペインフットサル女子リーグ1部のJimbee Roldán F.S.Fでプレーしています。高校3年生の途中で、サッカーからフットサルに転向して、大学生の頃にスペインのチームに1年半加入していました。帰国後は、大学を卒業するまで東京のクラブでプレーし、2018年の1月から現在のチームに所属しています。
大山:なぜフットサルに転向したんですか?
吉林:高3の頃、どうしても行きたい大学があって大学受験に専念したかったんです。フットサルなら、サッカーよりもきつくなさそうだし、勉強とも両立しやすそうだと思ったんですが・・・・。
大山:実際はそうでもなかった?
吉林:はい、想像以上に強いチームで練習も厳しかったです(笑)でも始めて見ると、サッカーよりも狭いコートのなか、少ない人数でやるフットサルは一瞬も気が抜けない緊張感があって、そこにはまってしまったんです。交代も自由なので、一度コートを出てもまたプレーに戻れますし、ベンチメンバーを含めて一体感をより強く感じられました。
―吉林さんは、大学2年生の時にスペインに渡ったんですよね。
吉林:はい。スペインで行われたセレクションに参加して、そこで声をかけてくれたチームに加入しました。最初は、海外でフットサルができるということで頭がいっぱいで、言葉の壁なんて全く考えていなかったですね。渡航が正式に決まってから「あ、そういえばスペイン語喋れないじゃん!」って(笑)。
大山:それから出発までに勉強はしたんですか?
吉林:全く。もう開き直ってしまって、スペイン語のスキルはゼロのままスペインのアリカンテという地域に渡りました。チームが語学学校を用意してくれていたので、月曜から金曜日まで毎日そこで勉強していました。
大山:それはなかなかないケースですよね。英語は義務教育と高校を通じて、ある程度の単語を知っている人が多いですから、どんなに英語が苦手という人でもゼロということはあまりないんですよ。
吉林:だから、最初はチームメイトが何を話しているかもわからなかったですよ。毎日9時から12時くらいまで学校に行って、少し休んでから19時の練習まで自習をする生活を1か月くらい続けて、ようやく戦術の話が理解できるようになりました。2か月くらいでマンツーマンの会話では困らないくらいになっていたかな。
大山:上達のペースがすごく早いですね。多分、最初に単語をたくさん覚えたのではないですか。
吉林:そうですね、単語は最初にたくさん詰め込みました。語学学校がすごいスパルタで、宿題もたくさん出たんですよ。教科書自体がスペイン語で書かれているし、クラスメイトもいろんな国から来ているのでスペイン語で会話するしかなくて。そのうちに自然と単語量は増えました。
小脳を使って話せ。脳科学から考える言語能力
―単語量を増やすことは、やはり大事なんですね。
大山:そうですね。英語でもよく、「リスニングを勉強しています」という人がいますけど、わからない単語は聞きとれないので、まずは単語量が大事です。
吉林:でも不思議なことに、文法を説明しろと言われてもできないんですよね。会話は通じているし、読み書きもできるんですが。
大山:その感覚はネイティブに近いのかもしれませんね。誰しも、母国語を説明するのが一番難しいんですよ。日本人に副詞と形容詞の違いを説明しろと言っても、すぐにできる人って案外少ないと思う。でも語学を話せるようになろうと思ったら、それくらいのほうがいいんです。
吉林:そうなんですか?文法をわかっていたほうが、もっと話せるような気がします。
大山:文法の知識ももちろん大切なんですが、多分吉林さんはスペイン語しか話せない状況のなかで反射的にスペイン語が出てくるという状態だったと思うんですよ。
吉林:たしかに、生活の中から一気に日本語が消えました。英語は多少わかりましたが、スペインの人ってあまり英語を話してくれなくて。チームでも学校でも、必然的にスペイン語しか使えない状況でした。
大山:“反射”というのは、語学習得の中ではすごく大事です。脳の話になっちゃうんですけど、人間は無意識的な活動をしているときは小脳を使っており、母国語を話しているときにも同様の動きがみられるという研究結果もあります。
これは実はスポーツをしているときと同じなんです。考えなくても反射的にからだが動く状態ですね。逆に、考えながら言葉を話している時に使われる部分は前頭葉。これは人間にしかない部分だと言われています。嘘をつく時にもここが働きます。頭で考えながら話す、つまり前頭葉を使いながら語学を話しているうちは、いつまで経ってもいわゆる“ペラペラしゃべれる”状態にはならないんです。
吉林:考える部分を使わない方がいいなんて意外ですね。
大山:本能的に話せるようになる、と言うとイメージが湧きやすいでしょうか。
―吉林さんがスペイン語を話している時に脳をスキャンしたら、小脳が働いているかもしれないですね。
大山:そうかもしれないです。そしてきっとフットサルのときも同様だと思います。からだに染み付いた動きをするときって、いちいち考えなくてもからだが先に動きますよね。吉林さんは、すごく理想的な環境で語学を習得されましたね。
吉林:そうだったんですね。そのときは必死だったので、何も意識していませんでした。ただ、せっかくスペイン語を勉強しに来ているので、日本人の留学生たちとはあまり話さないようにしようとは考えていました。
大山:そうするべきですね。楽な環境に習慣化されてしまうと、戻れなくなりますから。
吉林:でも不思議なのは、日本に帰国してから再度スペインに渡ったとき、2年のブランクがあったんですが、そのときのほうがスペイン語をうまく話せたんですよ。
大山:日本にいる間、スペイン語の勉強は続けていましたか?
吉林:たまに元チームメイトとメールをしたり、スペインのフットサルニュースや選手の動画を見るくらいでした。大学時代のときよりも、自然に言葉が出るようになってきて。
大山:膨大な量のスペイン語に触れる環境から離れて、頭の中が整理されたのかもしれないですね。
吉林:それはそうかもしれないです。会話に必要な単語や文法だけ残った感覚があります。
大山:もしかしたら特別な才能を持っているのかもしれないですが(笑)。でも自転車の乗り方を覚えるのと同じで、一度からだで覚えたことは忘れないということじゃないでしょうか。スペイン語を勉強するときはよく書いたり、読んだりしていましたか?
吉林:はい、とにかく書いてました。単語のノートも作りましたね。まず出てきた単語はすべてノートに書いて、わからないものだけ日本語を書くという方法でした。あとは授業でもよく文章を読むというのが多かったですね。
大山:古典的な方法に見えますが、書く・話すという運動性のあるやり方が一番覚えるんですよ。今って学習系のアプリがたくさんありますけど、見るだけで覚えた知識ってすぐに忘れやすい。ことごとく理想的な方法を実践されていましたね。
―フットサルの戦術も、ノートを作って覚えていたそうですね。
吉林:はい、ノートをつくるのが好きみたいで(笑)フットサルって、サッカーに比べてチームの決まりがすごく多くて、戦術のパターンも多いんですよね。サッカーから転向してすぐの頃は慣れなくて、ノートを作って覚えていました。
大山:なるほどね。吉林さん、カンニングしたことあります?
吉林:えっ!ないです。
大山:カンニングペーパーって、昔よく学生が試験のために用意してましたけど、実はカンニングペーパーをつくる作業が一番勉強になっているんですよ。大事なことを抜き出して紙に書くので、ずるしているようで一番身に付くという(笑)
吉林:たしかに今思えば学生時代、テスト勉強でもよくノートを作っていましたね。特に力を入れてない科目は、とりあえず教科書を丸写ししてみたり。それでもそこそこ点数取れてました。
大山:書くという勉強方法は、非効率に見えて一番効率がいい方法だと思います。よく赤い下敷きで単語を隠して覚える方法もありますけど、テストが終わるとすぐに忘れがちで定着しないんですよ。
[PR]本記事は「bわたしの英会話」とのタイアップ記事です。
■後編へ続く