隠れ貧血に要注意。吸収率を高める鉄分の取り方

鉄の写真

いつも通りの生活をしているのに、疲れがなかなかとれない、倦怠感が残る、最近風邪をひきやすくなった…という人、実は「隠れ貧血」の可能性も。

隠れ貧血を予防するためには、日頃から鉄を上手に摂取することが大切です。今回は貧血・隠れ貧血の基準と、上手な鉄の摂取方法をお伝えします。

 

鉄の役割って?酸素運搬や代謝促進に貢献

鉄は、人の生理機能を正常化するために必要不可欠な物質です。体内での酸素運搬の他に、ブドウ糖からエネルギーを生産したり、活性酸素から体を守ったりする作用があります。そのため、不足すると疲労・倦怠感、免疫力の低下、作業効率の低下といった様々な不調が生じます(※1,2)。

鉄は体内において、約70%が血液中のヘモグロビンの成分、残りの約30%は肝臓等に貯蔵鉄として貯留されています。

 

「貧血」かどうかは、ヘモグロビン濃度によって決まる

いわゆる「貧血」は、血液中のヘモグロビン濃度によって定義されています。ヘモグロビン濃度(Hb)が12 g/dl(男性の場合は13 g/dl)を切ると、「鉄欠乏性貧血」と診断されます。世界保健機関(WHO)は、世界的な栄養素欠乏症のトップに鉄欠乏症を挙げており、世界中でおよそ20億人が鉄欠乏性貧血であると発信しています。

日本もその例外ではなく、50歳未満の日本人女性の22.3%はヘモグロビン値が12g/dl未満、その25.2%は10g/dl未満と重度の貧血です(※3)。

貧血についてのデータ

 

「隠れ貧血」とは、ヘモグロビン濃度が正常でも起こる「潜在性鉄欠乏症」

しかし、このような定義上の貧血以上に注意すべきは、ヘモグロビンの値は正常範囲であっても、からだは鉄分が欠乏した状態である「潜在性鉄欠乏症」、いわゆる「隠れ貧血」です。

潜在性鉄欠乏症とは、体内の貯蔵鉄が不足することで、様々な症状が現れる状態です。つまり、定義としての貧血ではないが、血中の貯蔵鉄不足による不調がからだに表れてしまう状態です。

 

「隠れ貧血」の指標はフェリチンの濃度

鉄が十分に体内に貯蔵されているかは、血清のフェリチン濃度で分かります。フェリチンは、鉄貯蔵量を反映するタンパク質で、血液中の鉄分量が不足すると、貯蔵していた鉄を血液に放出して、血液中の鉄分の量を保つ働きがあります。つまり、血清フェリチンは貯蔵鉄の量を反映するため、鉄欠乏の指標となるのです。

ヘモグロビン(g/dL) 血清フェリチン(ng/mL)
鉄欠乏性貧血 <12 <12
潜在性鉄欠乏症 ≧12 <12
正常 ≧12 ≧12

鉄欠乏になる前に、効率的に鉄分を摂取することで、貧血や隠れ貧血は防ぐことができます。それは、鉄含有量の多い食物を摂取することです。ただし、食べ物によって吸収率が異なるので、効率よく摂取する方法を考えていきましょう。

 

スポーツをする人には特に重要。鉄を上手に摂取しよう

運動によって体内の鉄はどんどん不足していく

血中の鉄分量が減少すると、体内の貯蔵鉄から不足分が補われます。したがって、貯蔵鉄が不足(隠れ貧血)し、貯蔵鉄から血液へ鉄を補充することができなくなると、血中の鉄も不足してしまい、貧血に至ります。

中でも、ジョギングや競泳といった激しい運動を定期的に実施する人の多くが、体内の鉄分量が基準値のボーダーラインもしくは基準値以下、という報告があるので注意が必要です(※4〜7)。

根拠として、運動中の足底で赤血球が破裂、運動後の消化管失血、赤血球の代謝周期の加速が挙げられています(※8)。このことから、定期的に激しい運動を実施する人の鉄必要量は、30%増加すると考えられています(※9)。

 

ヘム鉄と非ヘム鉄の選び方が重要

鉄分には、ヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があります。ヘム鉄は赤身肉や魚に多く含まれ、非ヘム鉄は緑黄色野菜や海藻、あさりに多く含まれています。吸収率は、ヘム鉄は15〜37%(※10)、非ヘム鉄は2〜5%と大きく異なります(※11)。したがって、積極的にヘム鉄を摂取することが、貧血の予防策として賢明です。1日あたりの鉄の食事摂取基準値は、成人女性で6.5mg(男性7.5mg)です。

ヘム鉄、非ヘム鉄を含む食品の図

文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」より、小数点第2位を四捨五入して算出(※12)

非ヘム鉄の吸収率は低いだけでなく、一緒に摂取する食物の影響も受けます。コーヒー、緑茶、紅茶などに含まれるタンニンやフィチン酸は、非ヘム鉄の吸収を阻害する因子で、吸収率を50%も減らす事が報告されています(※13)。一方で、ビタミンCは吸収を促進する因子です(※14,15)。非ヘム鉄を摂取する際には、一緒に食べる物にも留意しましょう。

 

■参考文献

1) Haas JD, Brownlie T 4th. Iron deficiency and reduced work capacity: a critical review of the research to determine a causal relationship. J Nutr.2001,131,691S-6S.

2) Bhaskaram P. Immunobiology of mild micronutrient deficiencies. Br J Nutr.2001,85,S75-80.

3) KUSUMI Eiji et al. Prevalence of Anemia among Healthy Women in 2 Metropolitan Areas of Japan. International journal of hematology.2006,84,217-219.

4) Lampe JW, Slavin JL, Apple FS. Iron status of active women and the effect of running a marathon on bowel function and gastrointestinal blood loss. Int J Sports Med.1991,12,173-9.

5) Clarkson PM and Haymes EM. Exercise and mineral status of athletes: calcium, magnesium, phosphorus, and iron. Med Sci Sports Exerc. 1995,27,831-43.

6) Fogelholm M. Inadequate iron status in athletes: An exaggerated problem? Sports Nutrition: Minerals and Electrolytes. Boca Raton: CRC Press. 1995,81-95.

7) Beard J and Tobin B. Iron status and exercise. Am J Clin Nutr. 2000,72,594S-7S.

8) Hershko C, Skikne B. Pathogenesis and management of iron deficiency anemia: emerging role of celiac disease, helicobacter pylori, and autoimmune gastritis. Semin Hematol. 2009, 46, 339-350.

9) Institute of Medicine. Food and Nutrition Board. Dietary Reference Intakes for Vitamin A, Vitamin K, Arsenic, Boron, Chromium, Copper, Iodine, Iron, Manganese, Molybdenum, Nickel, Silicon, Vanadium and Zinc. Washington, DC. National Academy Press. 2001.

10) Björn-Rasmussen E et al. Food Iron Absorption in Man APPLICATIONS OF THE TWO-POOL EXTRINSIC TAG METHOD TO MEASURE HEME AND NONHEME IRON ABSORPTION FROM THE WHOLE DIET, J. CLIN. INVEST. 1974,531,247-255.

11) Layrisse M., Martãnez-Torres C, Cook JD, Walker R., Finch CA., Iron fortification of food: its measurement by the extrinsic tag method. Blood.1973,413, 333-352.

12) 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト

13) Food and Nutrition Board, Institute of Medicine. Iron. Dietary Reference Intakes for Vitamin A, Vitamin K, Boron, Chromium, Copper, Iodine, Iron, Manganese, Molybdenum, Nickel, Silicon, Vanadium, and Zinc. Washington, D.C. National Academy Press. 2001, 290-393.

14) Villarroel P, Flores S, Pizarro F, de Romaña DL, and Arredondo M., Effect of dietary protein on heme iron uptake by Caco-2 cells, EUR. J. NUTR. 2011, 50, 637-643.

15) Johnston CS. Vitamin C. In: Erdman JWJ, Macdonald IA, Zeisel SH, eds. Present Knowledge in Nutrition. 10th ed. Ames. Wiley-Blackwell. 2012, 248-260.

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