脳内散歩が快眠の鍵?遠征先でよく眠るために、出発前にできること

ホテルの部屋の写真

こんにちは。ヒラノマリです。

『スポーツ×睡眠』をテーマにした連載。4回目は「アスリートのための遠征時の睡眠」をテーマに、実際に私が選手の皆さんに実践していただいているメソッドをご紹介します。

 

そもそも、なんで環境が変わると眠れないの?

警戒モードの脳が影響

「枕が変わると眠れない」「環境が変わると眠れない」というのは、アスリートからビジネスマンまで、多くの皆さんが抱える睡眠に関するお悩みのひとつです。この課題には、脳機能がかかわっており、そのメカニズムを理解することで、遠征時でもぐっすり眠るための対策をすることができます。

アメリカのブラウン大学の研究では、若く健康な男女を集め、彼らに2度、宿泊施設に泊まってもらい、脳の微小な磁場の変化を専用の装置で測定。右脳と左脳での活動の違いを比べたものがあります。

その結果、1度目の宿泊では、ノンレム睡眠時に右脳よりも左脳が活発に動いていて、いわば「脳が半分起きている状態」であるということがわかりました。(※1)左脳は外部からの状況の変化に反応を示す部位で、慣れない環境に脳が警戒モードになり、覚醒していたのです。

しかし、1週間後に再度、同じ宿泊施設に泊まってもらったところ、右脳と左脳とで大きな変化は見られませんでした。これは2度目の宿泊ということで、脳が環境に慣れて、通常通り睡眠がとれたと考えられます。

この睡眠中に脳の片方だけが活動を続ける現象は、クジラやイルカ、渡り鳥にも見られ、外的から身を守るために、脳を半分ずつ休ませる『半球睡眠』という眠り方です。つまり、人間も慣れない環境下では、危険を回避するためにクジラやイルカと同じシステムを働かせているのです。

 

移動ストレスも睡眠に影響

また、環境の変化のほかに、長時間の移動が睡眠リズムを乱したり、寝つきを悪くしてしまうことも。その黒幕となるのは、自律神経の疲弊です。

新幹線などでの移動中に列車同士がすれ違うときや、トンネルの出入りによって急激な気圧の変化が生じ、これが自律神経にストレスを与えて交感神経を優位にしてしまうのです。移動中の過ごし方を工夫することが、自律神経の疲弊を軽減して、睡眠の質を上げることにもつながります。

(移動中の睡眠については、2020年10月6日に開催するB&オンラインセミナーでも解説します。詳しくはこちらから!)

 

お悩み別!遠征先での快眠メソッド

お悩み①:枕やマットレスが変わると眠れない

もちろん、いつもお使いの枕やマットレスを遠征先に持っていけるならそれがベストですが、なかなかそうはいきませんよね。そこで、前述の睡眠環境が変わると眠れなくなる脳機能のメカニズムを応用したメソッドをご紹介します。

 

■事前に泊まる宿泊先を脳内散歩する

先程の研究でも2回目の宿泊では右脳と左脳とで大きな変化が見られず、脳の警戒モードが解かれています。つまり、初めての宿泊の場合でも「前に泊まったことがあるような感覚」をつくり出してしまえば、左脳への刺激を最小限に抑えて、通常に近い睡眠をとることができるのです。

その対策としておすすめなのが、実際に泊まる数日~1週間ほど前から、宿泊するホテルのホームページを見ながら脳内散歩をすること。

今は多くのホテルのホームページに、客室の写真やアメニティの写真が掲載されています。まず、ホテルの外観を見てからエントランスに入り、自分の泊まる客室に入って、どういうアメニティや家具が置いてあるのか、窓からどんな景色が見えるのかなどを細かくチェックして、事前に脳を宿泊場所の環境に慣れさせるのです。

ホテルの部屋の写真

このとき、できるだけ細かくチェックするのがポイント。1日の行動と照らし合わせながら、まわりの景色を確認したり、食事場所となるレストランなどの写真などもチェックしておくと、より脳を慣れさせることができます。

旅行に行った際は、客室のドアを開けた瞬間の感動が大切かもしれませんが、遠征時にはその感動が脳への刺激となり、寝つきが悪くなってしまう原因になります。遠征時には割り切って、前に泊まったことがあるような感覚をつくることに注力しましょう。

 

■普段使っているパジャマ、ピローケースを持参して触覚からアプローチする 

就寝中の女性の写真

こちらも普段と同じ感覚をつくるための対策法です。枕やマットレスは遠征に持っていきにくいですが、普段使っているパジャマやピローケースなら持ち運びもしやすく、「いつもと同じ肌触り」という肌の触覚から普段と同じ環境に近づけることができます。

また、肌触りのいい寝具は、副交感神経のスイッチを入れてくれるため、スムーズな入眠にもつながります。

 

■バスタオルで即席枕をつくる

枕が変わると眠れないというのも、前述の環境の変化が原因の場合と、宿泊所の枕が合わなくて眠れない場合があります。

もし後者の場合は、自分のからだに合う即席の枕をバスタオルで作って対策することができます。

タオルの写真

ホテルに置いてある枕は高さがあるものが多いので、バスタオルを折りたたんでお好みの高さのものを作りましょう。

このときのポイントは、宿泊先のマットレスがご自宅で使用されているものより硬い場合は、普段お使いの枕より少し高めにすること。ご自宅よりマットレスが柔らかい場合は、少し低めにバスタオル枕を設定すると、からだに合いやすくなります。

また、ご自宅で使っている枕をわざわざ持参したのに、宿泊先でしっくりこない場合は、マットレスといつもの枕との相性が悪い可能性があります。その場合は枕の下にフェイスタオルを敷き、高さを微調整するのがおすすめです。

 

お悩み②:お部屋の乾燥

ホテルに泊まると、朝起きたら喉がイガイガしているという経験はありませんか?実は、アスリートから相談を受ける遠征時の睡眠のお悩みでも多いのが、睡眠時の乾燥。ホテルは気密性が高い構造になっているので、自宅よりも乾燥しやすいのです。

しかし、質の良い睡眠をとるためには、50%前後の湿度が必要です。もちろん、加湿器をフロントで借りたり、携帯型の加湿器を持参する方法もありますが、今回はお部屋にあるもので簡単にできる方法をご紹介します。

 

■浴槽にお湯を溜めて、ドアを開けたままにしておく

シャワーの写真

熱めのお湯を湯船に溜めるという方法は、すでにご存知の方も多いかもしれませんが、お湯を溜める際、蛇口からお湯を出してはいませんか?実は蛇口からではなく、シャワーからお湯を出して溜めたほうが、蒸気が広がりやすいのでおすすめです。火傷に注意して、試してみてくださいね。

 

■濡れたタオルをベッドの横に干しておく

ポイントは、できるだけタオルの面積を広くして干すこと。タオルラックやハンガーなどを使って、タオルの面積を広くすることで、放出される湿気の量を増やすことができます。

ハンガーを引っ掛けられるように、S字フックをあらかじめ遠征用のバックに入れておくと便利です。もし干すスペースがない場合は、ベッドの近くに水を入れたコップを置いておくだけでも対策ができます。

コップの写真

 

いかがでしたでしょうか?移動で疲れているのに、宿泊先でなかなか眠れないのは、体力的にもかなり辛いもの。今回は、宿泊先で用意可能なもので実践できるメソッドをご紹介させていただきましたので、ぜひ試してみてくださいね!

 

◼︎プロフィール

ヒラノマリさんのプロフィール写真

ヒラノマリ

スリープトレーナー。自身も睡眠で悩んだ経験から睡眠学に興味を持つように。大学卒業後、某大手インテリア会社に入社。寝具担当として幅広い顧客に寝室全体のコンサルティングを行ってきた。2017年から、アスリート専門に睡眠指導を行う『スリープトレーナー』として活動をはじめる。ショールームでの販売経験を活かした具体的なアドバイスは、プロサッカー選手や五輪出場選手にも好評を得ている。 

Twitter:@sleeptrainer_m3
Instagram:@maririn__gram

 

◼︎参考文献

※1:Night Watch in One Brain Hemisphere during Sleep Associated with the First-Night Effect in Humans. Current Biology VOLUME 26, ISSUE 9, p.1190-1194, MAY 09, 2016

 

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