勝ちが全て?引退してわかった、スポーツの本質(元プロテニスプレイヤー吉冨愛子)

 

発信への苦手意識を乗り越えて

2020年3月末までプロテニスプレーヤーとして活動していました。吉冨愛子です。

実は、私は自分の気持ちやストーリーを発信することが苦手でした。私なんかが発信していいものか、自分が発信したことに対して否定されたり馬鹿にされたら嫌だなという思いがあったからです。

しかし、ある方から「求めている人は必ずいる」という言葉をいただいたとき、自分が発することで誰か1人でも勇気づけることができたり、楽しい気持ちになったり、まだまだ頑張れるぞ!という気持ちになってくれたら嬉しいなと思うようになりました。そんな思いで私がこれまで感じてきたこと、そして今感じていることを伝えられたらなと思います。

 

スポーツの本質を忘れていた現役時代

現役選手時代は、とにかく勝つか負けるかばかりを気にしていました。当たり前ですよね。遊びではなく、プロとしてコートに立っていたわけですから。スポーツ選手は、常に勝利を目指して戦うものという考えに支配されていました。

ただ、私の場合は勝ち負けに左右されすぎました。勝ちが正解、負けは不正解。

写真:本人提供

その二択しかないという固執した考え方にいつしか陥っていました。

もちろん好きで始めたテニス。幼少期からプロになりたくて、自分の意志で目指してなったプロテニスプレーヤーです。しかし、自分が思い描いていた戦績、ランキングに届かないことが「悪」と考えるうちに、自分が好きではなくなり、テニスも心から好きと言えなくなった時期もありました。誰のためのなんのためのテニス?当時の私は主語が自分ではなくなっていたように思えます。

 

勝ち負け以外に伝えられるものがある

引退してからわかったこと。それは、自分の価値はテニスでの勝ち負け、戦績、ランキングだけでは測れないということです。

勝ち負けだけに左右されていた時は、ファンの方々からの言葉も自分の中にスッと入ってこなかった。勝負から離れて冷静になった今、ファンの方々からの言葉は勝ち負けに関することではなく、

「試合中の審判やボールボーイに対する態度が素敵でした」

「試合中の所作が好きでした」

「〇〇大会の時の〇〇戦で苦しい状況から巻き返した時には勇気をもらいました」

など、プレー中の姿勢に対するコメントが非常に多いことに気がつきました。勝利に向かって全力を尽くす姿が、自然とファンの方々の心に何かを訴えかけていたようでした。

 

「スポーツ選手」でありながら、スポーツの本質を忘れていたんだ。そのことに気づいたとき、

「自分の掲げていた目標には届かなかったけれど頑張ってきてよかった」

「スポーツマンらしくコートで振舞ってきて良かった」

と心から思えました。自分がコートに立って全力を尽くすことで誰かを楽しませたり、勇気付けられたりできたんだ。こう実感できたことは私にとってかけがえのない財産になっています。

もし、私と同じように勝ち負けに囚われて苦しんでいる人がいたら、自分が頑張っている姿を見て、頑張ろうと思う人が周りにいるということ。勝ち負けだけでは測れない、一人の人間としての自分を見てくれている人がいるということをぜひ忘れないでほしいなと思います。

 

■プロフィール

吉冨 愛子(よしとみ あいこ)

1993年9月生まれ、愛知県名古屋市出身。

椙山女学園高等学校在学時にインターハイ優勝。早稲田大学スポーツ科学部在学時にインカレ優勝、ユニバーシアード大会銅メダル獲得。大学卒業後プロ転向し、グランドスラム出場を目指し海外を転戦する生活を主に活動、国内大会である全日本選手権ではベスト8が最高戦績。プロ生活を4年間送り、引退後現在はテニスの指導やイベント活動を行なっている。

Twitter:@YoshitomiAiko
Instagram:@aiko_ciaobella

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