今考えたい脂質。制限しすぎは悪影響も。スポーツ女子の脂質改革

バターやオリーブオイルの写真

ダイエット・減量・ボディメイクなど、様々な目的でからだを絞りたい人にとって、今まで悪者扱いをされてきた脂質。脂質=脂肪になりやすいというイメージが多いですが、正しい役割と活用方法を知ることで、スポーツ女子のエネルギー源として大きな味方になります。

スポーツ栄養士の佐藤彩香さんに、これからの脂質との向き合い方を伺いました。

脂質の役割を正しく理解しよう

油、脂質と聞くと「太りそう」「からだに悪そう」「ニキビができそう」というイメージがありますが、体内に入るとからだを動かすエネルギー源としても活躍します。

脳は水分を除くと約60%が脂質で出来ていますし、からだの細胞の細胞膜、各種ホルモンの原料になるなど、私たちの健康と美容にとって、大変重要な働きを持っています。

 

脂質の働きを整理

・エネルギー源

・ホルモン、細胞膜、核膜を構成

・皮下脂肪として、臓器を保護したり、からだを寒冷から守る

・脂溶性ビタミン(ビタミンADEK)の吸収を促す

これほどに人間にとって欠かせない栄養素であるにもかかわらず、なぜ悪いイメージが先走ってしまっているのでしょうか。

それは、脂肪を摂ると、体脂肪になるのではないかと思っていることが多いからだと考えます。たしかに摂りすぎた脂質は、体脂肪を増加する原因にはなります。ただ油、脂質=体脂肪とは思わないでください。上記に述べたように様々な働きがあるのです。

脂質の役割の図
 

油の種類

ここで一度、油の種類についておさらいしていきましょう。脂肪酸は分類方法によって、「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の大きく2つに分けられます。

飽和脂肪酸は、一般的に肉や乳製品に多く含まれる酸化しにくい油で、からだにとって重要なエネルギー源です。飽和脂肪酸は、結合する炭素の長さによって、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸に分類されます。不足すると血管がもろくなるリスクなどあります、制限しすぎはよくありません。

仮に、摂り過ぎるとLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪を増やし、心筋梗塞、肥満、糖尿病を招く危険性があります。

最近では、ココナッツオイルやMCTオイルなど、長鎖に比べ消化吸収が早く、すぐにエネルギーとして使われ、からだに蓄積されにくいと言われている中鎖脂肪酸にも注目が集まっています。

不飽和脂肪酸はエネルギー源でもあり、からだの各種細胞膜の重要な構成成分です。一価不飽和脂肪酸(オメガ9系)、多価不飽和脂肪酸(オメガ6系、オメガ3系)と分けることができます。一般的に飽和脂肪酸に比べ酸化しやすく、特に多価不飽和脂肪酸は加熱調理には向いていません。

・オメガ9系は、オリーブオイル、アルガンオイルなど

・オメガ6系は、コーン油、ごま油など

・オメガ3系は、亜麻仁油、えごま油、魚油など

に分けることができます。この中でどんな油を摂っていったらよいのか。

これはシンプルにからだで合成しにくい油を意識することです。つまり、多価不飽和脂肪酸(オメガ6系、オメガ3系)を意識すること。

合成できない油を制限してしまうことはとても危険です。オメガ6系のコーン油、ごま油などは結構手軽に摂れてしまう油なので、オメガ3系の亜麻仁油、えごま油、魚油をより意識してほしいです。

詳しくは下記からご覧ください。飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸とは違い、人工的に作られたもう一つの油であるトランス脂肪酸のことも載っています。

エネルギー源としての脂質

脂質はエネルギー源にもなるとお話ししましたが、糖質とはどのような違いがあるのでしょうか。日本人は、食事全体のエネルギーの半分以上を糖質で摂っている人がほとんどですが、最近はケトジェニックと言われる、主なエネルギー源を脂質で補うような食事に変えている方もいます。どちらが良い悪いではなく、しっかりメカニズムを分かっておくことが大事です。

脂質と糖質がエネルギー源を発生する過程で大きな差は、

・エネルギー源になるスピード

・1gで発生するエネルギー量

になります。エネルギー源になるスピードは糖質の方が圧倒的に早いです。糖質がマッチのように一気に燃えるのに対して、脂質は木炭のようにゆっくり長く燃えるようなイメージ。

また糖質は1gあたり4kcalを生み出すのに対して、脂質は1gあたり9kcalとなります。そのため脂質は爆発的なエネルギーは期待できませんが、1gで9kcalと糖質の倍以上のエネルギーを生み出しますので、長時間の運動時のエネルギー源としては高い効果が期待できます。長時間動き続けるようなスポーツをされている方は、脂質とうまく付き合っていくのも大事になります。

 

「ケトジェニック」とは?

では今よく聞くケトジェニックとは、どんなものなのでしょうか。

ケトジェニック食は、糖質を1日のカロリー摂取量の5%未満に抑えるものです。これは、ほとんどの穀物、果物、でんぷん質の野菜などを絶つことになります。 それらのエネルギーの代わりとなるのが、脂質です。脂質からつくられる、ケトン体と呼ばれる物質が、エネルギーの代替として使われます。そのため、ケトジェニックを目指す場合、糖質を控える代わりに脂質を多く摂る生活にシフトしていくことになります。

ケトジェニック食は、脳の炎症軽減を助け、脳卒中の回復に対する抗炎症効果や、特定のてんかん発作など治療にも使われるという論文もあります。

ただ、そうした利点の多くが、マウスの研究でしか認められておらず、人間のからだにどのような変化を与えるのかは、まだわからない部分が多いと私は考えています。

今は糖質制限が、運動パフォーマンスにどう影響するのかという研究も進み、データの蓄積もあるようですが、それも数がまだ少ないため、これからも慎重に研究経過を見ていく必要があります。

脂質量を増やす際の注意点

最近ではダイエット方法の一貫として、糖質量を減らす代わりに、脂質量を増やす方法も提唱されています。これは、脂質が血糖値を上げにくいという点に着目したものです。さらに、糖質よりも脂質は腹持ちしやすいため、食後の満足度も高く、挑戦しやすい食事法とされています。たしかに脂質にはそうした側面もありますが、安易に始めると失敗することも多いため、少し注意が必要です。

脂質を増やすのであれば、その分エネルギー減となる栄養素を少し減らしていかないとエネルギー過多となります。たんぱく質を減らすと筋肉も落ちてしまうので、食事全体のなかから糖質量をしっかり控えていきましょう。

しかし、どれだけ糖質を控えればいいか、という問いには正解がありません。これは、食後血糖値の上がり方やその人の1日の活動量にも左右されるからです。一般的に全体のエネルギー比率なら糖質:脂質:たんぱく質=6:2.5:1.5あたりで考えることが多いので、例えば、糖質を1日のカロリー摂取量の5%未満に考えるケトジェニックのやり方では、かなりの糖質制限になります。また、そのうえでのガイドラインが日本にはないので、個人差が多く、曖昧なことも多いです。

 

からだと対話しながら、自分に合う脂質量を見つけて

極端に糖質をカットするのではなく、まずは一食ずつ糖質の量を制限していき、眠くなり具合、お腹の空き具合、運動時のスタミナなどという点で一定期間観察してみて、自分にあう量を探していく必要があります。また、これからの研究が進んでいくことで、わかることが多いのかと思います。

これは私の一意見ですが、SNSなどで見る高脂質食の食事方法は、結構極端なものも多く、逆に体調をおかしくするケースも多く見ています。

油の質を見ながら、徐々に行っていくことが自分にあう方法をみつけていく機会になるのではないでしょうか。

脂質のポイントの図

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■プロフィール
佐藤彩香さんのプロフィール写真

佐藤 彩香(さとう あやか)

企業や保育園で栄養カウンセリング、献立作成、栄養計算、店舗運営を経験し、その後独立。健康を土台とした実践型の栄養サポートを行い、プロアスリート~スポーツキッズ、ダイエット希望の方など累計5,000人を超える人々と関わる。現在はパーソナル栄養サポート、セミナー講師、ライター活動、レシピ開発なども行いながら、「あなたのかかりつけ栄養士」として活動している。

佐藤 彩香 OFFICIAL BLOG「三度の食事は三回のチャンス」を見る

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