「人前で話すのは苦手だった」澤田由佳がスタッフを経て現役復帰を決意した理由(NECレッドロケッツ)
2023-24 V.LEAGUE DIVISION1 WOMEN チャンピオンとなり、創部以来初となる大会2連覇を果たしたNECレッドロケッツ。2024-25シーズンにも注目が集まる中、2023年に肩の怪我から一度引退した澤田由佳(さわだ・ゆか)選手が現役復帰を発表しました。
引退後は1年間「コンシェルジュ」として、小学生向けのキャリア教育やスポンサー企業の方々とのコミュニケーションなど、対外的にチームを知ってもらう活動を続けてきました。支える側として培った伝える力を、今後どのように活かしていきたいのでしょうか。復帰を決意した思いを伺いました。
痛みで眠れない日々が続き、選手引退を決意
ーバレーボールを始めたきっかけを教えてください。
小学生の頃、スポーツテストのボール投げで男の子よりも遠くに投げたことがあり、自分の肩が強いことに気付いたんです。その時に担任の先生から「何かスポーツをやってみたら?」と言われ、ちょうど上戸彩さん主演のドラマ『アタックNo.1』を見ていたので試しにバレーボールをやってみようと思いました。
他にもソフトボールと野球に興味があったのですが、当時その2つは男子チームしかなく、人見知りでシャイな性格もあって入るのは諦めました。ミニバスも見学には行ったものの、体力面でついていけなさそうだったので断念。そんな中、伯母がとある女子バレーチームのメンバー募集の記事を見つけてくれて、練習体験に参加したんです。いきなりサーブが入って、これは楽しいなと思ってバレーボールを始めました。
ーポジションは最初からセッターだったんですか?
最初はエースアタッカーでした。身長は今とあまり変わらなかった(現在158cm)ので、小学生にしては大きい方だったんです。
ー2022-23シーズン終了後に一度現役を引退されました。引退を決めた理由を教えていただけますか?
あまり公にはしていませんが、肩の怪我が理由としては大きいです。怪我によって日常生活のあらゆる場面で支障が出てしまい、ドライヤーを使うことも手をあげることもできず、夜は痛みで眠れない日もありました。そんな状況で競技を続けるのは厳しいなと思い決断した部分もあります。
ー引退について悩んでいた時期は長かったですか?
痛いという気持ちの方が勝ってしまったので、悩み抜いての決断というよりもキッパリ決めました。
「澤田に聞けばNECのことはわかる」を目指した1年間
ー現役引退を決めた後、チームスタッフとしてコンシェルジュになられた経緯を教えていただけますか?
私はNECレッドロケッツというチームが大好きで、その魅力を言葉で発信していきたいという思いがあったんです。今チームに在籍している選手を少しでもサポートすべく、マネジメントスタッフとしてコンシェルジュの役割を引き受けました。
この1年間は「澤田に聞けばNECのことはわかる」と思ってもらえるようになることを目標に、コンシェルジュの活動に取り組んできました。小学生向けのキャリア教育や、ロータリークラブでの経営者の方たちとの対話など、幅広い世代の方々と関わる機会をいただき、その中でNECやバレーボールの良さ、これまで自分が得た学びや大切にしてきた価値観などをお伝えできたと思います。
ーバレーやチームの良さはどのように伝えられていたのですか?
バレーは仲間がいてはじめて成り立つものです。思いやりがなければボールは繋がらないと思いますし、点が入った時にチームがひとつになる一体感を味わえるところが魅力です。
NECレッドロケッツの良さはチーム力なので、いかに仲間の存在が大切であるかを伝えていました。
ー世代によって、伝え方の工夫も必要だったと思います。
話す相手が誰であろうと、自分が伝えたいことの本質は変わらないと気づきました。小学生を対象としたキャリア教育の場では、自分の弱みを強みに変える重要性や、バレー人生を通して大切にしてきたことを伝えることが多かったです。他の世代の方にも、言い方は違えど同じ趣旨の話をしていました。
ー「弱みを強みに変えることが大切」と気づいた経緯やエピソードについて教えてください。
バレーの世界において、身長が低いというのは明らかに弱点なんです。私は158cmなので他の選手と比べても小さく、その弱みをどう強みに変えていくかを模索してきたバレー人生でした。特に重点的に取り組んできたことは、ボールの下に入るスピードを上げることや、リベロ並みのレシーブ力を身につけること。加えて、周りを見る力を鍛えることで、逆に身長の低さを活かして強みに変えてきました。
でも、NECレッドロケッツでプレーをするようになってから、外国人選手に上から打たれる場面が増え、そもそも打点の高さが違うことを思い知らされました。ですから私のような身長の低い選手にタッチを取られたり、シャットされたら精神的なダメージも大きいかなと思い、日々相手の癖を研究したり視野を鍛えたりしていました。
ー選手からスタッフに立場が変わり、あらためて感じたことはありますか?
地域の方々やファンの方の大切さを感じる場面が増えました。
選手の頃は、出待ちしてくれていたファンの方に「ありがとうございます」とお礼を言ったり、ファン感謝祭で交流したりする程度で、応援してくださっている方々と関わることがあまりなかったんです。でもスタッフになって皆さんと対話する機会が増えてからは、ファンの方々や地域の方々からすごく応援されていると身にしみて感じるようになりました。これは実際にコミュニケーションを重ねて、あらためてわかったことだと思います。
ースタッフとしての活動を通じて、新たな発見や変化はありましたか?
以前は人前で話すことに苦手意識がありましたが、この1年間で少しは克服できたと思います。キャリア教育などの場を通じて、自分の気持ちをしっかり相手に伝えられるようになったので、引き続きチームを良くするためにどんどん発信して、貢献していきたいです。
「もう一度、バレーで思いを表現していきたい」
ー現役復帰を考え始めたのはいつ頃ですか?
明確にこの時というのはありません。NECレッドロケッツの選手や周りのサポートしてくださっている方々の取り組む姿勢に心を動かされて、徐々に復帰を考えるようになりました。
肩の怪我もあったので、今後どこまでやれるかは未知数ですが、それでもこのチームでもう一度上を目指してやっていきたいですし、そのためには何でもやるという覚悟でいます。
ー現役復帰するにあたり、どんな選手になっていきたいですか?
復帰を決断した大きな理由のひとつに、「誰かの心を動かせる選手になりたい」という強い思いがありました。コンシェルジュとしての活動を経て、伝える力にも自信がついたので、今後はスタッフ時代に培った経験を活かしつつ、たくさんの方々に応援してもらえる選手になりたいと思います。