パリ五輪新種目ブレイキン。40歳を迎えたAYUMIが「人前が苦手」なのにダンスバトルする理由

今年2024年夏に開催されるパリオリンピックに、追加種目として初採用されたブレイキン。ブレイクダンスとも呼ばれるストリートダンスの一つであり、1vs1や2vs2、チームバトル形式など、音楽に合わせながら即興でアクロバティックなダンスを披露し合う競技です。

今回はブレイキンの国内における第一人者、AYUMIこと福島あゆみさんにインタビューしました。ブレイキンを始めたきっかけから、緊張やストレスとの向き合い方、40歳にして第一線で活躍し続ける秘訣、ダンスの魅力まで、たっぷりと語っていただきます。

ブレイキンを始めたきっかけ

ーまずは、AYUMIさんのダンス歴から教えてください。

ブレイキンは、カナダに留学していた21歳から本格的に始めました。当時、言葉の壁にぶち当たっていて、人前で話すことが苦手な性格を克服したい、もっと成長したいと思っていた時期だったんです。

ただ、そのために何をしたらいいかわからずにいたのですが、一時帰国の際に私より先にブレイキンを始めていた姉の大会を見に行きました。それまで姉から影響を受けることは特になかったのですが、自分を変えたいと思っていたところに、タイミングよく出会えたのがブレイキンだったので、やってみようと思い始めたのがきっかけです。

ーいきなりブレイキンというのはハードルが高い印象もあります。

元々、小さい頃からストリートカルチャーに興味があったんです。スケートボードにチャレンジした時期がありましたし、 中3の頃はヒップホップをやっていたので、ダンス自体は身近な存在でした。

とは言え、ブレイキンはヒップホップとは全然違うジャンルです。始めるにあたって不安もありましたが、姉の先輩をはじめ、周囲でブレイキンをやっている人がみんないい方たちでした。そういった方々の存在に背中を押された部分もあると思います。

ー留学による心境の変化がなければ、ブレイキンに辿り着かなかったかもしれないですね。留学の動機を教えてください。

父が洋楽や洋画が好きで、小学校の頃から休日は家の中で英語の曲が流れているのが当たり前の環境でした。そこから海外に興味が湧き、中学の頃に具体的に留学したいと思うようになったのですが、海外や留学とは無縁の家庭だったので、高校までずっとモヤモヤした時期が続いていたんです。

そんな時にお世話になっている方から、「自分の道は自分で決められるよ」と教わり、自分の力で留学しようと心に決めて、アルバイトを始めました。思い立って行動してから、留学するまで早かったですね。


写真提供:一般社団法人BODY CARNIVAL

「ずっと好きでいられる」明確な理由

ー運命的な出会いとなったブレイキンの魅力とは何でしょうか。

自由に表現できることです。それと、ダンスにはゴールがない、完璧がないことですね。自分のやりたいダンスに近づいてきてはいますが、求めることが常にアップデートされていきます。昨年夏にヨーロッパに行った時も、インスピレーションを感じたというか、「もっとこうしたい」「私も何か取り組みたい」という気持ちがすごく芽生えたんです。一方で掲げた目標をなかなか達成できない難しさも、ブレイキンの魅力の一つですね。私がずっと好きでいられる理由だと思います。

また、異なる文化に触れられることも大きいです。ブレイキンを通じてたくさんの国に行くことが増えました。そこで文化の違いに驚き、新しく発見することもあり、私って器が小さいなと思わせられる機会にもたくさん遭遇しました。ダンス以外でも自分の足りない部分が数多くあることに気づかされるんです。それが学びになり、新しく知ることで喜びにつながっています。

ー「自分の器が小さい」と思われた具体的なエピソードを教えてください。

外国の方々は私と比べ物にならないほど、自然体な人が多いんです。自分が違うと思ったらそれをはっきり発言できるし、楽しむ時は最大限に楽しんでいます。それでいて周りの方への気遣いも素晴らしい。自分を大切にしているので、周囲を気にせず堂々としているようにも見えます。

留学する時から私には「自分ファースト」が足りないと感じていました。カナダに移って、頑張って育もうという気持ちもありましたが、帰国すると自分は日本人であるが故に、周囲への同調をつい意識してしまいます。

ですが、私ももう40歳です。人生の折り返しに入っているので、自分のことをしっかり考えたうえで進んで行きたいと思っています。もちろん、周囲の人や環境への配慮はすべきですが、自分がしんどくなるのは、ちょっともう違うのかなと。これまでの人生を歩んできて思うのは、「自然体」でいることが一番大事。これが私の現時点での答えです。

「年齢とスポーツ」AYUMI流の考え方

ーハードな競技ほど年齢を重ねると続けづらい部分もあるかと思います。AYUMIさんは年齢についてどう捉えていますか。

40歳であることにたまに気づいて、「やばい!」と思うことはありますが、正直なところ、あまり実感が湧いてないんですよね(笑)。21歳でブレイキンを始めたことも含めて「遅咲き」と言われることがあるのですが、私の年代では大学から始める人も多かったですし、姉も始めたのは21歳でしたから、遅咲きという言葉はあまりピンと来なかったんです。ただ、今のダンスシーンと重ねると、確かに遅いと思います。

ですが、21歳までに絵に描いたような学生生活を送れて、夢だった留学もできました。やりたいことをやりきってブレイキンを始められたのは、逆にすごく良かったのかなと思います。

写真提供:一般社団法人BODY CARNIVAL

何歳で始めるかが重要ではなくて、積み重ねた内容が大事だと思います。21歳で始めて今40歳である私のブレイキンと、10歳で始めて今20歳の子がやるブレイキン。何をどれだけやってきたかで、“今”はいかようにも変わると思います。

緊張しないとダメ「ピリッと感」が常に必要

ー先ほど、人前に出るのが苦手とおっしゃられていましたが、バトルは大勢のオーディエンスの前で行われます。緊張やストレスの対処法があるのでしょうか。

人前は変わらず苦手です。今でも、大勢の前で踊っている自分の映像を見ると、自分がやったこととは思えないんですよね。どうやって踊ってたんだろう?と考えることもあります(笑)。

緊張しない日というのは絶対なくて、緊張して当たり前とも捉えているんですね。先輩から「人前で何かをするというのは、緊張することだよ」と教わってきました。緊張しない方がダメ、ピリッと感が常に必要だと。

それでも、緊張が悪影響しそうな時は、集中を高めるおまじないのようなものをやっています。頭をバンバンバン! と叩くんです。自分にスイッチを入れる感じですね。なぜ頭なのかというと、顔を叩くと痛いから(笑)。

ー他にもルーティーンはありますか?

日頃から、心を安定させることを意識しています。これまで多忙を極めていたので、自分の時間を確保し、ヨガを取り入れるようにしました。ケアの積み重ねが、今の私のダンスを作っていますし、そのケアは体だけじゃなく心にも必要だなと、ここ数年は特に感じています。

メンタルコントロールについては、周りの人にすごく助けられていますね。私はブレイキンが大好きで、これまでの練習を含めて、苦痛を感じたことはほぼありません。目標達成までの道のりとして、何かに取り組むことも好きなんです。

ですが、うまくいかない時はどうしても感情が揺らいでしまう。そのサポートは周囲の方々にお願いしています。ひとりでは乗り越えられないので、感謝していますね。

ーオリンピック種目となり、注目度や競技性がより高まった印象があります。ご自身の中での変化はありますか。

心身のケアをより大切にしないといけないと思うようになりました。オリンピックに向けて始動するというタイミングで怪我をしてしまったんです。ですので、強化選手のお話をいただいた時もコンデイションに不安を感じて、周囲に相談しながら背中を押してもらった感じでした。ですから、やるからには心身を大事にしなければならない。それにはケアを怠ってはいけないと、すごく意識が変わりました。

今は週2、3回専門の先生にケアをお願いしていますし、ヨガやストレッチなどのセルフケアも必ず行っています。

ー今後の目標をお聞かせください。

常に自分をアップデートして、目の前にあるものを1つずつクリアしていき、試合へ全力で臨めるようにしたいです。


写真提供:一般社団法人BODY CARNIVAL

今年はオリンピックがありますが、まずはその前の予選バトルに照準を合わせて、体づくりをしっかり行っていこうと思います。当日、楽しいパフォーマンスができるように、がんばります!

ー最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。

誰でも壁にぶつかることはあります。私も今までたくさんの壁に目の前を阻まれてきました。これからも壁は現れると予想しますが、それでも前を向いて歩いていく人生でありたいです。そのためには、自分ひとりで抱え込むことはしません。ぜひみなさんも、周りにいる、みなさんを応援してくれる人たちを頼ってください。

そうすれば、どれだけしんどくても、明日は絶対いい日になると思えるようになります。そう思えたら、新しく第一歩を踏み出せるので、どうか頑張ることをやめないでください。応援しています!

ー応援しています!ありがとうございました。

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