川端友紀が考える「女子野球は再びプロ化を目指すべき?」九州で挑む地域密着型チームづくり

2021年に無期限の活動休止を発表した女子プロ野球ですが、その一方でここ数年、プロの球団が女子野球チームを作ったり、若い世代を中心に競技人口が増えていたりと、女子アマ野球界が盛り上がりを見せています。

そこで再びプロ化を目指すべく、昨年2022年1月に福岡を本拠地とする女子野球チーム、九州ハニーズを発足させた、同チームの内野手でもある川端友紀さんに、これまでの経緯や現状、今後の展望のほか、ご自身の体との向き合い方についてもお話しいただきました。

女子野球存続の危機を感じて決意したチーム作りは困難の連続

―九州ハニーズは今年2年目を迎えられました。川端さんは2018年に一度現役を引退されたものの2019年に復帰し、栃木県小山市を本拠地とする女子野球クラブチーム、エイジェックに所属し活躍されていました。その後なぜ新チームの立ち上げに携わろうと思ったのか、そもそものきっかけを教えてください。

とても良い環境でプレーさせていただいていましたが、女子野球界全体を考えた時に、チーム数の少なさ等から現状のままでは今後発展できないのではという危機を感じ、日本中に女子野球を広めたいという思いで挑戦しました。

選手たちはプロではないので、午前中に練習をして、午後から職場や学校へ行くというように、ほとんどが働きながら、学びながら活動をしています。社会人経験をすることもすごく大事だと思っているので、受け入れてくれた企業さんには大変感謝をしています。

―選手のみなさんの仕事先はどのように決まったのですか?

1月の発足後、2月にトライアウトを実施してメンバーが決まってから、私と一緒に立ち上げた楢岡美和選手とで各選手に合う会社を探しました。履歴書、選手の情報、条件等のやり取りや面談を繰り返しさせていただいて、なんとか全員の仕事先を見つけることができたんです。会社の事務作業や工場、理学療法士の資格がある選手は病院勤務など、仕事先、職種はさまざまです。

ゼロからの出発で、私と楢岡の2人だけでは絶対にここまで来られませんでした。地域の皆様の温かいご協力があっての今のこのチームだと思っています。このことは、選手たちはもちろん、これから女子野球を広めていくうえでも、伝えていきたいと思いますね。

地域との繋がりは、職探しだけに限りません。何より練習場を確保できたことが大きいです。福岡に来た当初は、グラウンドを借りるのに抽選に応募していたんです。当たれば練習できるという環境でしたが、地域の方とだんだん繋がりを持てるようになり、今は基本的に大野城市民球場を使わせていただいています。そこから、同市とは昨年7月に連携協力する協定も締結させていただきました。

―そうした困難を乗り越えて、今があるということですね。

この2年で雇用先や練習場などのハード面は整えることができましたが、選手にはまだまだ苦労をかけています。基本的な運営は、大体私と楢岡でやっていますが、SNSでの広報活動やイベントなどの仕事の一部は選手たちがやってくれているんです。選手たちがついてきてくれるので、私たちは地域の方々に対してと同じくらい、選手たちにも感謝の気持ちを持っています。大切にしていきたいと思いますね。

―プロとアマチュア、それぞれのメリット、デメリットは何だと思いますか。

プロのメリットはまず、野球に注げる時間が十分に取れることが挙げられます。ですが、それはお金を払って試合に来てくださるお客様がいるから成り立っているわけで、その方々に満足していただけるプレーをしていかなければいけません。ですから常に緊張感や大きなプレッシャーを感じながら、日々の練習や試合を重ねていくことになります。これはメンタルにおいてデメリットとも捉えられますが言い方を変えれば、やりがいを感じられるということ。私自身、プロ時代はそれが大きかったので、メリットにも変換できると思います。

一方で、アマチュアは仕事や学校との両立が大変ではあります。今回久々にその立場になってみて、応援していただける地元の方々の存在をすごく身近に感じられたんですね。とても良い経験をさせていただいていると思います。また、負けたら終わりのトーナメント戦が多いので、よりドラマチックというか、選手たちの執念が出るというか、リーグ戦とは違う緊張感があり、そこもまたすごく魅力的ですね。

とはいえ、やっぱり理想は野球でお給料をいただいて、野球の技術を向上させるという仕事に専念できること。その世界を作っていくために、今は土台作りの時期なのかなと思っています。いずれはプロ化して、選手たちに大勢のお客様の前でプレーできる喜びや、ヒットを打った時の気持ち良さといった感情を体感してほしいと思います。

女子野球界、再びプロ化となるか?「今必要なこと」

―では、女子プロ野球が復活するために必要なこととは?

たくさんありますが前提として、その世界を作りたいという一人ひとりの気持ちがないとそこに向かっていけないと思うんですね。そのうえで、各地で行われている活動を束ねる組織が必要だと思います。

また、競技人口を増やすことも重要です。野球は男子で言えば世界的に有名なスポーツで、野球を知らない人は日本にはほとんどいないと思いますが、それが女子野球となった途端に、「女性で野球やるの?」と意外に感じる方がまだまだ多い。ただ最近は、「すごいね!」と思っていただけることも増えてきたので次のステップは、「女性が野球をやることが当たり前にならなければいけない」と思っています。これには地道な活動が一番効果的だと思うので、女の子たちが野球に触れられるイベントを積極的にやっていきたいですね。

明るい要素としては、女子野球部のある高校数がかなり増えました。10数年前は5校だけでしたが、毎年1校ずつ新設して今は60校くらいあります。おそらくきっかけは、彼女たちが小学生の頃にできた、女子プロ野球リーグの影響だと思います。当時、小学生に聞いた「なりたい職業ランキング」でも、女子プロ野球選手がランクインしていたそうです。プロになりたいという夢を持ち続けている子たちのためにも、本当にどうにかしないといけないと思いますね。

―プロ化を望む声は、川端さんの周囲ではどうですか?

望む声は多いですが、復活できたとしてもこのままでは前回の女子プロ野球と同じ形で、いつかは活動休止になりかねないと思うので、トップリーグの作り方がとても大事だと感じます。

私はプロ生活を9年間送りましたが、振り返ると入ってすぐ世界的にも国内においても競技人口がとても多いことに驚いたのを覚えています。また、神宮球場で試合を行った際は1万人近くの人が来場したこともあり、それくらいの集客力もあったんですね。女子プロ野球は人を集められるスポーツなんだということを今に繋げて、良い方向に進めていけたらと思います。

―そのプロ時代、川端選手は海外でもプレーされていましたが、外国人選手と日本人選手の違いがあれば教えてください。

海外の選手はやっぱりパワーとスピードがすごくあります。筋肉量が多くてダイナミックなプレーが印象的ですね。対して日本人は、それらは劣りますが細かいプレーが得意だと思います。特にピッチャーは、変化球にしてもコントロールにしても、他国の選手に比べて飛び抜けて能力が高い。日本の強みはそこにあると思います。

年々体調が良くなる!川端流のケアとトレーニング

―また、違いで言うと、川端選手は引退前と復帰後で、体のメンテナンスやトレーニング法を変えたそうですが、具体的にはどういったことが挙げられますか?

練習をしないと不安になるタイプで、若い時は体が壊れるまで自分を追い込んでいましたが、30歳をすぎてからはやりたい気持ちをグッと堪えて、ケアや体の使い方に時間を割くようにしました。また、ウエイトを減らして中の筋肉を鍛えるトレーニングを増やしています。

加えて、少しでも体のどこかに違和感を覚えたら自分にストップをかけられるようになったことも大きな変化ですね。コンディショニングのトレーニングやケアで、体は調整できるということに気づけたんです。結果、体の柔軟性やバランスが良くなったことで怪我がかなり減り、大きな離脱もなくプレーできるようになりました。自分が動かしたいように体も動かせるようになり、今は痛いところがないぐらい調子良くプレーができています。

とはいえ、若い時にたくさん練習したことは、無駄ではなかったと思っています。だから、若手はもっと頑張れとエールを送りたい自分もいて、根性論ではないですが、あと一歩、あと少しの頑張りが私はすごく大事だと思いますね。そうしたやるべき時期と、無理をしない時期を私はうまく使い分けられているのかなと思っています。

数年前までは「この1年、この1年」と、目の前のことだけを考えてやっていましたが、年を重ねるごとに体の痛みや不調が減ってきたので、もう1年いけるかなという感覚ですね(笑)。とはいえ、どんなタイミングでも後悔なく終われるよう、やり切る気持ちは持ち続けていたいと思います。

―年々調子が良くなるというお話は、これまで数々の選手の方々を取材してきて初めてお聞きしたかもしれません。経験を積み重ねて生まれた精神的な余裕が、練習量を自制できるようになった要因のひとつとも言えそうですね。では最後に、今後の目標をお願いします。

福岡を中心に、女子野球を広めたいという思いでチームを立ち上げました。一番は、憧れられるチームを作りたいです。ただ強くて勝てるチームではなくて、多くの人から応援してもらえる、愛されるチームになることが目標です。これからもその気持ちだけはブレずに、頑張っていきたいですね。

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