アスリートは噛むべき?スポーツデンティスト武田友孝が語る噛むこととパフォーマンスの関係

近年、トップアスリートたちがトレーニングのためにガムを噛んでいることをご存知でしょうか?意外に思われるかもしれませんが、実は噛むという行為が筋力アップやパフォーマンス向上に繋がるという研究結果が出てきています。

今回は、ガムを噛むことがトレーニングに繋がる理由から、噛むことで期待できる美容効果、さらにはガムを使った実践的なトレーニング方法まで、東京歯科大学 口腔健康科学講座 スポーツ歯学研究室 客員教授の武田友孝さんと株式会社ロッテ マーケティング本部ブランド戦略部 チューイング企画課の毛利彰太さんにお話を伺いました。

ガムを噛むとパフォーマンスが上がる二つの理由

ーさっそくですが、なぜ噛むことがアスリートのパフォーマンス向上に繋がるのでしょうか?

武田 一つは、噛むという行為が筋力の向上に寄与するからです。噛むことで全身の離れた筋肉、つまり遠隔部の筋力が強化されると言われています。具体的には、強く噛んだり手をグッと握ることで足の筋力が上がるのですが、実は握るよりも噛む方が効果が高いと、既に論文で報告されています。これらの現象は脊髄の運動神経と脳の運動野、この二つの活動性の上昇によるものと考えられています。

加えて、噛むことで関節が固定されることもアスリートのパフォーマンス向上には良い影響があります。

まずは関節の固定について少しだけ説明をさせてください。例えば、肘を曲げる動作をする際、曲げる方の筋肉(上腕二頭筋)が活動すると反対側の伸ばす筋肉(上腕三頭筋)の活動が減少します。このような反射的な活動低下を「相反性抑制」と言います。しかし、強く噛むことで両方の筋活動が増し、関節が動きづらくなることで、全身のバランスが安定するんです。

ではなぜ関節の固定がパフォーマンス向上に繋がるのか、分かりやすく説明するためにサッカーを例に挙げます。サッカー選手がボールを蹴る瞬間は関節が固定されていた方が、軸足が安定するので良いキックができますよね。一方で、次の動作に移る際には筋肉の活動が求められる。ですから、適切なタイミングで噛むことができれば、より良いキックができると考えているんです。

ーそのような効果が得られるとは意外でした。ちなみに、噛むことに着目されたきっかけを教えていただけますか?

武田 難しいことを聞きますね(笑)。しいて挙げるとすれば、徒競走のゴール直前で選手が歯を食いしばる光景を思い描いたときに「ここで噛むのは違うな」と思ったのがきっかけです。

これはあくまで仮説ですが、例えば100m走では、スタート時や5m、10mの地点では噛んだ方が良いんです。地面を強く蹴る力が全身に伝わるので。でも走り出してからはスムーズな動きが求められるため、それ以降は逆に噛まない方が良いんです。噛むことで関節が固まり、流動的な動きも取りづらくなります。つまり緊張したときに身体が固まって動けない時と同じ現象が起きてしまうんです。

では各スポーツごとにどんなタイミングで噛むべきかと言うと、実はまだ調査中です。現在はそのデータを集めている最中で、日々トップアスリートたちの協力のもと、様々な実験をしています。

基本的にスポーツ中の動作は瞬間的なものですし、特に噛むことを意識する場面はありません。ですからデータによって噛むべきタイミングが分かれば、それだけでもパフォーマンスを向上させられる可能性があるんです。仮にコンマ1秒の改善であってもアスリートにとっては価値がありますからね。無駄に噛むことを避けて必要なときに噛めるように、引き続き研究を進めていきたいです。

ー野球やサッカーの選手がプレー中にガムを噛んでいる姿はよく見かけますが、水泳のような競技中にガムを噛むことが難しい選手なども、噛むことで得られるメリットはあるのでしょうか?

武田 競技中にガムを噛むことが難しいスポーツは、ウォーミングアップ時に噛むことを推奨しています。緊張しているときにガムを噛むとリラックス効果を得られますし、逆に寝起きのような時に噛むと覚醒・集中効果も得られるんです。

毛利 噛むことで副交感神経と交感神経のバランスが整うという研究結果もあります。ロッテの実験で成人に2週間ガムを噛んでもらった結果、自律神経のバランスが整い、気分が改善しました。

武田 我々の実験でも、ストレスを感じる音を聞いている最中に前頭前野の活動を測定したところ、ガムを噛むと反応が上がり、他のストレスを感じる脳部分の活動を抑制する効果があると分かりました。

噛むだけで痩せる!? ガムを噛むことが美容に与える影響

ーガムを噛むことで美容やダイエットの効果もあると伺いましたが、これは本当ですか?

武田 本当です。ガムを噛むことでエネルギー消費量が増加するため、ダイエット効果があると言われています。具体的には、食後に20分間ガムを噛むと、その後4時間にわたりエネルギー消費が増えるという研究結果があります。

他にも古いデータではありますが、食前に20分間ガムを噛むと満腹中枢が刺激され、食事量が減るという報告もあります。つまりガムを噛むことで、エネルギー消費量が増えて、食事量が減る。この二つの事象によってダイエット効果が期待できるわけです。

毛利 そもそも食後は体温が上昇しますが、ガムを噛むことでその効果がより持続します。具体的なデータを出すと、1日3回食後に必ず20分間ガムを噛むことを1年間続けると、約21,000kcalのエネルギー消費が見込まれます。これは理論上、約3キロの体脂肪減少に相当するもので、つまり食後にガムを噛むだけで体脂肪を減らせる可能性があるのです。

さらに噛むことは、口周りの筋肉を活発に動かすため、フェイスラインが引き締まる研究結果も出ています。意外なところでは、噛むことで頭皮の血流が上がるとも言われており、頭皮マッサージのような効果が期待できる可能性があります。

カロリー消費に頭皮血流の向上、フェイスラインの改善……美容面においても様々なメリットがあるんです。

今日から実践できる、ガムトレ

ーロッテ噛むこと研究部が監修する、ガムを使った口周りのトレーニング「ガムトレ」があるんですよね。ぜひ実践方法を教えてください。

武田 まずは、噛むことに意識を向けましょう。特に力強く噛む必要はありません。大切なのは意識を持って噛むことです。可能であれば、粒ガムを2つ使い、バランス良く左右均等に5分ずつ計10分間噛むことを推奨します。

片側だけで噛むと筋肉痛が起きる可能性があります。あとは口を閉じて噛んで、噛む音を立てないようにしましょう。マナーを守ることも大切です。そして最後に、必ずガムはゴミ箱に捨ててくださいね。

毛利 トレーニングとしての噛み方は武田先生の説明通り、意識して噛んでいただけると嬉しいです。「ガムトレ」※の3つのポイントをおさえ、心身の健康によいとされている「噛む」という行為をガムを使って日常的・継続的に実践しましょう!

※ガムトレの3つのポイント

ー早速実践してみます!本日は、ありがとうございました。

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