「強いだけでは、つまらない」空手 多田野彩香は、美しさも追求する

写真:本人提供

元空手日本代表の多田野彩香(ただの・あやか)さんは、2015年から2021年まで日本代表として活動し、アジア選手権では二度の優勝を経験。現役時代からフリーランスとしてトレーナーやYouTubeでの発信を始め、2021年の引退後も続けています。

競技として美しいだけでなく、おしゃれやメイクにも積極的です。しかし、伝統を重んじる空手界では「ふさわしくない」と言われたことも。「殴り合いのイメージを払拭し、“美しい”空手を伝えていきたい」競技を楽しむ気持ちや、伝えていきたい空手の魅力について伺いました。

 

現役時代に会社を辞め、フリーランスへ。

ーまず、空手を始めたきっかけと引退にいたった経緯を教えてください。

4歳の時、祖父母の家にあった道場へ見学に行ったことを機に始めました。そこでは叔父も指導者をしていましたね。

高校からは空手部に入りました。ずっと成績を残せていなかったのですが、大学4年時に初めて全日本学生空手道選手権大会で3位になり、日本代表入りを果たしました。

初めての国際試合だった2015年のアジア選手権を一区切りに、空手を辞めようかと思っていたんです。でも、その大会で優勝できたことで自信が生まれ、もう少し続けてみようかなと。その後も代表として活動し、2021年10月のアジア選手権を最後に引退しました。

ー最終的な引退は、どのように決められたのでしょうか?

勝負にこだわらなくてもいい、と思っている自分に気づいたんです。中途半端な気持ちで日本代表にいるのは違うなと。年齢的にも結婚など次のライフステージを考える時期だったのもありました。

女子空手界は、30歳前後で引退する選手が多いです。ただ最近は現役中に結婚する選手が出てきたり、流れが変わりつつありますね。

現役時代の多田野さん<写真:本人提供>

ー現役中の2020年には、会社をやめて独立されましたね。

「今できることをやりきろう」と下した決断でした。東京五輪の選考に落ちたあと、まだ上を目指して続けたいという気持ちがありました。ひとつの区切りとしてお世話になった会社をやめ、自由に活動できるように独立しました。

ーいきなり独立して競技を続けていくのも、難しかったのではないでしょうか?

大変でしたね。資金集め、練習場所や相手の確保……これまで会社がやってくれていたことを全て一人でやらなければいけなくなりました。拠点がないので、公園で練習したり、高校の部活に参加したり。会社に所属していた頃の環境がいかに恵まれていたか、身をもって実感しました。

 

“美しい空手”を伝えていきたい

ー今ではトレーナーとしての活動や、YouTubeでも発信されています。空手を広めるための活動は、いつ頃から考えられていたのでしょうか?

現役時代から、引退後は空手を広める活動をしたいと考えていました。現役選手としての感覚がある間に行動したかったので、2019年からYouTubeを始めました。手探りでしたが、とにかく「空手を知ってほしい」という気持ちでしたね。

最初はSNSのフォロワー数も数千人しかいなかったのですが、投稿を重ねると少しずつ増えていきました。直近だとInstagramで投稿したリール動画がバズって、フォロワー数が一気に伸びました。

 

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ー空手とトレーニングと音楽を掛け合わせた、『空手Fit』というエクササイズも実施されていますね。

初心者の方に向けて、空手の動きを取り入れた運動に落とし込んでいます。意外とキツいんですよ(笑)。

 

競技を楽しむ要素は、たくさん持っておくべき

ー多田野さんは現役時代、メイクや髪型など自由にされていた印象があります。空手界は風習など厳しいイメージもありますが、実際はいかがでしたか?

厳しかったですね。金髪にした時は、怒られました。暗黙のルールで、空手界では金髪にしてはいけないとその時に知りました。

海外の選手を見ていると、メイクもバッチリしているし、もちろん髪型も自由。「日本の選手は黒髪ショートでみんな同じ」と言われたことがあります。

確かに、昔は髪の毛を染めていると遊んでいるイメージがあったと思います。それでも私が髪の毛を染めたいのは、おしゃれをすると気持ちが上がるからなんです。

ー競技を続ける中で、楽しむ要素も重要ですよね。今では女子アスリートのメイクも注目が高まっています。

強いだけでは、つまらないなと。そこに「美しさ」という別の要素が加わるとワクワクしますし、自分で自分の気分を上げることも重要だと思っています。

ルールを破ったり、人に迷惑をかけるのはいけません。でも、自分が最大限楽しめるように環境を整えることは大切です。それが、私にとってはおしゃれでした。成長していくためにも、楽しむ要素はたくさんもっておくのが良いかなと。

写真:本人提供

ー今後の活動の展望について教えてください。

これまでは単発でしかレッスンをやっていなかったのですが、今年の11月からリアルで定期レッスンを開催します。空手を使ったエクササイズを体験できるところは他にないので、楽しんでいただけると思います。

ー改めて、空手のどういった魅力を伝えていきたいですか?

まずは美しさです。一般的に「空手=殴り合い」といったイメージも強いかと思いますが、私が取り組んでいる伝統派空手はコントロールが原則。相手を仮想して単独で演じる「形(かた)」と、1対1の攻防を行なう「組手(くみて)」の2競技があるところも見所です。美しく、無駄のない動きが重視されます。私がレッスンで取り入れているような基礎の動きなど、あまり知られていない空手の一面を伝えていきたいです。

あとは、老若男女何歳からでも始められ、皆が楽しめるところも魅力ですね。

ー最後に、女子アスリートへのメッセージをお願いします。

人生は競技だけではありません。競技を終えた後の人生も楽しんでもらいたいです。私は独立した時に苦労しましたが、身近な人たちにたくさん助けられました。周りの方への感謝を忘れずに、挑戦を楽しんでもらいたいです!

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