「脂質と上手につきあう方法」セミナーレポート(正しく知りたいシリーズ第3弾)

「正しい知識を身につける」ことは、日々のトレーニングの効果を出すためにとても重要なことです。今回のテーマである「脂質」は「脂質=脂肪、脂肪だからなるべく避けなきゃ!」と嫌われがちな栄養素ですが、実は身体にとって非常に重要な役割を持っています。今回も正しく理解していきましょう。

 

「B&」では正しい情報をベースにした「自己判断」ができるよう、管理栄養士の佐藤彩香さんによる“正しく知っておきたい”テーマをシリーズ化。6月3日に開催された第3弾、「脂質との上手な付き合い方」についてのセミナーの様子をお届けします。

 

■セミナー講師

佐藤 彩香(さとう あやか)
管理栄養士

企業や保育園で栄養カウンセリング、献立作成、栄養計算、店舗運営を経験し、その後独立。健康を土台とした実践型の栄養サポートを行い、プロアスリート~スポーツキッズ、ダイエット希望の方など累計5,000人を超える人々と関わる。現在はパーソナル栄養サポート、セミナー講師、ライター活動、レシピ開発なども行いながら、「あなたのかかりつけ栄養士」として活動している。

OFFICIAL BLOG「三度の食事は三回のチャンス」

 

脂質をしっかり理解しよう


皆さんは糖質に対して、どんなイメージを持っていますか?
佐藤さんの問いかけから、セミナーははじまりました。

 

「1gあたりのエネルギー量が高い」
「体重直結」
「糖分と一緒に摂ると太りやすい」
「気づいたら摂り過ぎている」
「アボカドは質のよい脂質」

 

佐藤さん
気づいたら摂りすぎてしまっていたる、1gあたりのエネルギー量が高い…その通りですね。皆さんが抱くイメージ通り、脂質とは付き合い方が課題となります。まずは脂質への理解を深めていきましょう。

 

 

佐藤さん
特に注意深く確認していただきたいのが、脂質の持つ役割について。細胞膜やホルモンを構成する大事な要素だったり、身体を衝撃から守る・動かすためのエネルギー源としての役割を担っています。

 

脂肪細胞の不足は過食や免疫力の低下につながる

 

 

佐藤さん
前回に引き続き難しい図ではありますが、皆さんに知っていただきたいのが「脂肪細胞」の持つ働きについてです。脂肪細胞は性機能や免疫にも関わってくることを覚えておいてください。


ただエネルギーになるだけではなく、身体を生かしていくという意味で大切な意味を持つのが脂質です。

脂質の摂取量を極端に減らして他の栄養素との摂取バランスが崩れると、脂肪細胞が少ない=食欲抑制ホルモンが少ない状態となり、過食の原因になることも。

 

さらに脂肪から分泌される「レプチン」は、エストロゲン(女性ホルモン)とも深い関わりを持っています。血管・骨量・自律神経などにも関わりますし、極端な脂質カットは閉経時のコレステロール値に影響をもたらす場合もあります。

脂質をしっかりと摂ることで過食を防ぎ、精神的な安定をもたらすことができます。


覚えておきたい単語「レプチン」

・生殖機能にとって大事なホルモン。
・食欲中枢に作用し、食欲を抑制させる働きを持つ。
・成長ホルモンなどの分泌機能にも影響を与える。

 

佐藤さん
続いて、肥満指数・BMIの値と死亡リスクの関係性についてです。特にスポーツをしている方は、BMIは低い方が良いと考えてしまいがちですが、BMIが顕著に低い人は高い人と同様に死亡リスクが高いといわれています。
多すぎることも少なすぎることもなく、適切な体脂肪をキープすることが、免疫力を保つ上では重要となります。

 


身体を構成するものに大きく関わる脂質、適切な脂肪量を保つことが身体の機能を正常に保つうえで必要ということですね。

 

脂質の代謝には糖質・たんぱく質が必要。運動は低強度で長時間行おう

さらに、脂質の理解を深めていくため、前回「糖質」についてセミナーで使用した図を使って、代謝に関するおさらいを行なっていきます。

 

 

■前回のおさらい(上図)

糖質・たんぱく質・脂質というカロリーを持つ栄養素が、どのようにエネルギーを生み出していくかを表すクエン酸回路に注目です。
この回路に運ばれることによって、各栄養素からエネルギーが生み出されていきます。図の通り、回路が正常に機能するためには、アセチルCoA・オキサロ酢酸が必要です。

アセチルCoAは三大栄養素から作られますが、オキサロ酢酸はたんぱく質と糖質からしか作り出せません。そのため脂質を燃やすためには、たんぱく質と糖質も必要になるというわけです。

 

次に、運動時のエネルギー代謝について。(下図)

身体の主要なエネルギー源となるのは、糖質と脂質です。
私たちの身体は強度の高い運動をすればするほど、糖質が優位に使われていきます。脂質を効率的にエネルギーとして使っていきたいなら、長時間・低強度の運動を続けるスポーツやトレーニングが良いでしょう。

 

運動強度・時間とエネルギー由来の関係

運動強度が高い場合=糖質
運動強度が低く、長時間の場合=脂質

 

脂質との上手なつきあい方

 

必要な脂質の量

では、実際にどれぐらいの脂質が自分には必要なのか、算出の仕方を確認していきます。

 

 

まずは、上記の表を確認しながら自身の食事摂取基準をチェックして行きましょう。

佐藤さん
三大栄養素の摂取割合としては、糖質が6割・脂質は2〜3割と考え調整していただくと良いと思います。減量やダイエットをしている場合、脂質をカットするのが最もエネルギー値は下がりやすいです。

ただ、気をつけたいのは脂質不足による体調の変化。
実際、脂質を全体の1割しか摂らないという方の中には、体調が崩れやすい・爪が割れやすい・肌が荒れやすいなどの症状が出ていることもあります。脂質を落とす食生活に変えてみて不調を感じる場合は、カットし過ぎてないか、チェックしてみましょう。

 


冒頭でもお話したように、摂ろうと思えば意外と簡単に摂れてしまうのが脂質です。豚ばら100gを大さじ1杯のオリーブオイルで炒めるだけでも、あっという間に50gの脂質を摂取できてしまいます。


もしばら肉を使うのであれば、付け合わせにはボイル野菜やノンオイルドレッシングのサラダなどを添えるなど、調理を工夫することで脂質の量の調整を行いましょう。

 

佐藤さん
反対に、鶏胸肉やもも肉の場合は、皮を取り除くことで脂質量が一気に減るため、摂取量が不足してしまうこともあります。食材や調味料の組み合わせを変えて、全体のバランスをとってみてください。


このように、脂質量はとても調整しやすいものです。
日頃、脂質を過ぎているなと心当たりがある方は、脂質量を見直すだけで体が絞れたりすることも。

ご飯を減らすよりも油を減らす意識をしたほうが、食事制限をするよりも簡単ですよね。

 

脂質の種類


脂質には、「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」と呼ばれるものがあります。適切な量を理解したあとには、「なにを摂ったら良いのか」脂質の種類について学びます。

 

 

佐藤さん
飽和は常温で固体のもの、不飽和は液体のものと考えてもらうとわかりやすいです。この2つの摂取バランスが極端に乱れるとあまり良くないと言われています。肉ばかり・乳製品ばかりなど極端な摂り方はNGです。

また、不飽和脂肪酸のなかでもn-3系が不足すると、血液の状態がよろしくなくなったり、炎症が悪化したりすることがあります。量も大事ですが、摂るのであればn-3系を意識して摂っていきましょう。

 

 

n-6系:サラダ油など、キッチンにあるもの → 過剰になりやすい
n-3系:亜麻仁油、魚、ナッツなど → 不足しやすい

 

脂質の代謝を高める

脂質の代謝に関わってくるもの=ビタミンB群であることも、重要なポイントです。

 


ビタミンB群はエネルギー代謝と深い関わりを持つことは、これまでのセミナーでも学んできましたね。ビタミンB群を普段の食卓に摂り入れるために、食品のおさらいをしていきましょう。

 

佐藤さん
メインの食材に合わせやすく、積極的に摂ってほしい素材が「アリシン」です。アリシンは熱に弱いため、長ネギやあさつき、ニンニクなどを薬味として生の状態で食べることを意識してみましょう。

 

よく聞く「ケトジェニック・ファットアダプト」って?

 

 

佐藤さん
いわゆる、「ゆるい糖質制限」をアレンジしたものがファットアダプトですが、継続しないと成果が出にくいと言われています。もしトライしてみる場合には、継続する覚悟が必要です。

私も実際にアスリートのファットアダプトに携わったことがありますが、食材が限られるため「コストがかかる」「飽きやすい」という印象があります。

 

ファットアダプトのメリット・デメリットは以下のとおり。

 

さらに、ケトジェニックのメリット・デメリットについてのまとめです。

 

佐藤さん
ケトジェニックは、本来であればブドウ糖をエネルギーに変えるところを、糖質を制限してブドウ糖を枯渇させ、脂肪をしっかり摂って肝臓で作られるケトン体をエネルギー源として使っていく方法です。

日本ではまだあまりデータがありませんが、海外の文献や研究結果はありますので、興味のある方はご覧ください。

 

 

佐藤さん
ファットアダプト・ケトジェニック共に、食生活や食習慣をガラッと変える必要があり、エビデンスが少なくメリット・デメリット両方のある手法ですが、短期間の試験的導入ならば試してみてもいいかもしれないですね。

 

質疑応答

Q.陸上の新谷選手などがアスリートの無月経について言及していますが、この原因はエストロゲンにあるのでしょうか?

佐藤さん
全体的なエネルギーのカット=脂質のカットが無月経を引き起こす可能性はあります。このふたつの関係はすごく深いものかなと思っていて、無月経を解消するには適切な体脂肪へ戻していく必要があると思います。

 

Q.最近、脂の質を気にして毎日一食は魚を食べているのですが、肉類と魚類の摂取比率はどれくらいがよいのでしょうか?魚の食べ過ぎについては水銀の過剰摂取も気になっています。

摂取比率は難しいですよね魚を主に摂る国は、血液疾患が少ないと言われていたりもしますが、よく言われているのは「n-6:n-3系=4:1の割合がいい」ということです。私の感覚的には、週に魚を4日・肉を3日ぐらいが良いかなと思っています。肉と魚を交互か、魚が少し多いぐらいでしょうか。完璧にやりたい方は計算を!

 

Q.無月経の状態です。脂の質は気にするのは大前提で、生理が来るまでは脂質を気持ち多めにとっても問題ないでしょうか?

佐藤さん
脂だけに注目するのではなく、きちんとエネルギーが摂れている状態を作ることが必要です。エネルギーを作るためには、糖質と脂質とたんぱく質が必要。なんで無月経になっているかという点がポイントなので、必要に応じて医療機関を受診されても良いと思います。

 

Q.ビーガンに切り替えてから生理が止まりました。ナッツは摂っていますが、脂質が足りないということでしょうか?

佐藤さん
それまでしっかりと摂っていた栄養素のバランスが、ビーガンに切り替えることによって崩れてしまうということはあります。エストロゲンが分泌できていないのかもしれません。脂質や糖質が不足している場合があるので、食生活と栄養のバランスの見直しをする必要も。注意深く食事と自分の身体を観察していきましょう。

RELATED

PICK UP

NEW