「糖質と上手につきあう方法」セミナーレポート(正しく知りたいシリーズ第2弾)

「正しい知識を身につける」ことは、日々のトレーニングの効果を出すためにとても重要なことです。今回のテーマである「糖質」は、“制限”されたり“オフ”されたりと何かと嫌われがちですが、私たちの体にとっては非常に大切な、無くてはならないエネルギー源です。

「B&」では正しい情報をベースにした「自己判断」ができるよう、管理栄養士の佐藤彩香さんによる“正しく知っておきたい”テーマをシリーズ化。5月18日に開催された第2弾、「糖質と上手につきあう方法」についてのセミナーの様子をお届けします。

 

■セミナー講師

佐藤 彩香(さとう あやか)
管理栄養士

企業や保育園で栄養カウンセリング、献立作成、栄養計算、店舗運営を経験し、その後独立。健康を土台とした実践型の栄養サポートを行い、プロアスリート~スポーツキッズ、ダイエット希望の方など累計5,000人を超える人々と関わる。現在はパーソナル栄養サポート、セミナー講師、ライター活動、レシピ開発なども行いながら、「あなたのかかりつけ栄養士」として活動している。

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糖質をしっかり理解しよう

皆さんは糖質に対して、どんなイメージを持っていますか?佐藤さんからの問いかけから、セミナーははじまりました。


「太りそうなイメージがある」

「糖質はおいしい!」

「糖質をカットすれば痩せる」

「脳の栄養源」

 

佐藤さん
皆さんがおっしゃるように、糖質を減らすことでダイエットが成功したという事例があるのは事実です。今日は、なぜそういった結果が出るのか、また糖質の持つ重要性についてお話ししていきたいと思います。

 

糖質は脳と身体を働かせるエネルギー源

 

 

佐藤さん
糖質は身体を動かすだけではなく、脳にとっても貴重なエネルギー源です。社会人であれば、仕事や人とのコミュニケーションで脳を使いますし、アスリートであれば、練習中や試合中、集中力・判断力・瞬発力を働かせる際に身体だけではなく頭もフル回転しています。そういった時に糖質が力を発揮してくれているんです。

また、酸素を臓器や筋肉に届けるための赤血球にもエネルギー源として糖質が必要です。


単純に身体を動かすために、そして頭を使うためにも、糖質を適切にとることは非常に重要になってきます。

 

佐藤さん
少し難しい図ですが、これは私たちの体のなかで起こる化学反応を見える化した、“情報に惑わされないための情報”です。


私たちの身体は、必要なエネルギー源(たんぱく質・糖質・脂質)を消化・吸収しエネルギーに変えるために、体内のいくつかの回路(燃焼工場)を通じて各栄養素の形を変化させていきます。

 

佐藤さん
「糖質制限をするのであれば、たんぱく質をしっかりとる必要がある」と聞いたことはありませんか?
その理由は、この図にあるオキサロ酢酸。オキサロ酢酸は、体内で脂質を燃やしていくために必要不可欠なものですが、たんぱく質と糖質からしか生み出されないといわれています。

糖質を極端に制限してしまうと、オキサロ酢酸を作れるのはたんぱく質のみになってしまいます。
摂取した栄養をしっかりエネルギーに変換するために、糖質制限を取り入れる場合にはたんぱく質を意識的に摂取してあげましょう。

 


覚えておきたい単語

アセチルCoA、オキサロ酢酸
※たんぱく質・脂質・糖質はアセチルCoAをたどる。つまりこれらの栄養素はすべてエネルギーに変化する。

 

さらに、運動習慣と絡めて考えていくと……

 

佐藤さん
上の図は、運動強度が上がれば上がるほど糖質が優位に使われていくことを示すものです。普段から追い込んでトレーニングをしている方は、糖質を味方につけることで、パフォーマンスやトレーニングの質が上がりやすくなることを覚えておいてください。

 

ポイント

・心拍が上がるような運動=糖質をしっかりとる必要がある。
・糖質を味方につける(適量・適時の摂取)=パフォーマンスや質の向上につながる。
・運動強度が上がるほど筋グリコーゲン(筋肉中の糖質)が優位に使われる。

 

佐藤さん
30分ほどのジョギング・軽くバイクをこぐ程度の運動量であれば、水分は必要ですが糖質を積極的に摂る必要はありません。水分も、スポーツ飲料ではなく水で十分。脂質と糖質がどのように作用するのかを理解しながら、摂るものを選択していきましょう。

 

減量方法として最近よく耳にする、糖質制限とは?メリット・デメリット

 

佐藤さん
現状では、「糖質制限」に関するガイドラインはまだありません。おそらく皆さんがよく耳にしているのは、バーンスタイン先生の提唱する「ゆるい糖質制限」、さらにそれをリメイクしたファットアダブトなどではないでしょうか?

 

 

・「ゆるい糖質制限」のメリット・デメリット

メリット

・血糖値スパイク(血糖値の波)があまり起こらない
・減量効果が期待される
・精神的に落ち着ける(血糖値スパイクが起こらないため)
・酸化ストレス(炎症)を避けられる可能性がある

デメリット

・運動パフォーマンスに結びつけられたデータがない
・エネルギー不足のリスク
・適切な量の判断が難しい、不明確
・適応度に個人差がある


ファットアダプトについてのB&の過去記事は
こちら

糖質制限をする場合、普段から摂取が過剰気味な方が「糖質を正しく摂る」という意味合いで捉えていただいた方が良いかなと思います。

また、リバウンドのリスクはありますが、短期間で変化が欲しい方には糖質制限の導入も選択肢の一つです。

 

糖質との上手なつきあい方


後半は、今まで開催された栄養セミナーを振り返りながら糖質との上手なつきあい方を学んでいきます。

 

必要な糖質の量

まず1日の必要エネルギー量を把握し、必要な糖質の量を算出していきます。

 

現在の体重に、基礎代謝基準値と活動レベルを掛けると、その数値が導き出されます。以下の表を参考に算出してみましょう。

 

 

アスリートのエネルギー推定については、こちらの記事に詳しい解説が載っています。

 

アスリートの推定エネルギーの求め方:

・JISS式:28.5カロリー×FFM×運動活動レベル(PAL)
・女性アスリートの場合(田口らの式):27.5カロリー×FFM*×運動活動レベル(PAL)+5
*除脂肪量(FFM)=(体重-脂肪量)
*運動活動レベル(PAL)は以下の表を参照

 

糖質摂取量は、1日のエネルギーの5~6割に設定します。
例えば1日2,000カロリーが必要なら、約1,200カロリー分(300グラム)が適切な糖質量といえます。

ただし運動習慣がある方やアスリートに関しては、体重と運動量によって調整しましょう。

 

食品別、糖質量の目安:

お米(ご飯1合、330g)110g
食パン(6枚切り1枚)30g
うどん麺(1人前)60g
バナナ(1本)30g
芋(1個、110g)15g
大福(1個)35g

 

佐藤さん
糖質は1gあたり4kcal。目安として、1日の糖質必要量の8割を主食で食べることを意識すると良いでしょう。

 

糖質のとりかたや、糖質の種類

 

糖質単体の食事は血糖値スパイクをもたらします。

血糖値スパイクとは食後の短時間に急激に血糖値が上昇し、急激に下がることを指します。結果として、糖質の摂取がやめられない糖質中毒を引き起こしてしまいます。減量中の方には致命的ですよね。


血糖値スパイクについての振り返り記事は
こちら

 

佐藤さん
栄養素を組み合わせる・甘いものから食べ始めないなどを意識し、血糖値スパイクのスイッチをなるべく押さないようにしましょう。

 

血糖値スパイクを回避するヒント

①ベジファースト(野菜から食べ始める)
②欠食をせず、補食などで長時間の空腹を避ける
③咀嚼をして食べる
④GI値の低い食品を選ぶ

 

佐藤さん
糖質の消化吸収の速度は食品によって異なり、GI値が低いほど吸収は穏やかで、血糖値の上昇もゆるやか。GI値が高い食品は急激な血糖値の上昇を招きます。砂糖を原料にしたものの食べ過ぎには注意しましょう。以下の表を参考にしてみてくださいね。

 

 

また、くわしく知りたいシリーズ 第一弾のセミナー(テーマ:代謝)で、「ビタミンBが代謝を高める」ことを学びましたが、実は糖質とも関係していることをご存知でしょうか?

佐藤さん
糖質を燃焼する際に必要となるのがビタミンB群です。さらに、補佐として亜鉛やマグネシウムも取り入れることが重要となります。
ビタミンB群の主な働きについては以下の図を参考にしてください。

 

 

佐藤さん
ビタミンB群を意識的に摂取し、「糖質は太る」ではなく「糖質がエネルギーになる」という流れを作れると良いですね。

 

ビタミンB群含む、エネルギー代謝を高めるための食品にはさまざまな選択肢があるので、「これなら摂れるな」というものを選んでみてくださいね。

私自身も飲み会では冷奴やモズク、貝を焼いたものなどを頼むようにしています。おつまみも上手に選んで、アルコールともうまくつきあっていけたらいいですね。

 

運動中・運動後の糖質摂取について

 

佐藤さん
長時間の運動時の糖質摂取には、グルコースという砂糖由来のブドウ糖だけではなく、果糖(フルクトース)を摂取すると効果的です。トレーニング直後は糖質が骨格筋内に入りやすくなるため、糖質補給が推奨されています。

 

運動後の糖質必要量:体重1kgあたり1.0~1.2g程度

 

※『運動中(長時間)』とは、1時間を超える運動や夏場の運動などを指します。

 

おわりに

佐藤さん

私たちの身体は、食べて吸収されたものから作られています。小さな意識と日々の継続が大切だということを忘れないようにしましょう。

ベストな選択よりも、ベターな選択の継続が大切です。

 

参加者からの質問タイム

セミナーの最後には直接質問ができる自由な質問タイムがあり、糖質についてのさまざまな質問が飛び出しました。


Q.マラソンをしていますが、体重への影響を考えると夜に糖質を摂るのが怖いです。

佐藤さん
夜の時間帯だと、糖質が脂肪になるリスクも上がってくるので注意が必要です。走る前におにぎりやバナナを食べてあげるのがいいかなと思います。必要摂取量がわかった段階で、太りづらい日中に摂ることをまずは試してみてください。

 


Q.筋トレ前の補給食にバナナを食べていますが、代謝がいいのか20分後にはお腹が空きます。
腹持ちが良く筋トレ前におすすめの食材はありますか?

佐藤さん
筋トレ前だけではなく、その前段階の食事から変えてみても良さそうですね。補食で腹持ちがよいものとしては、コンビニのお赤飯やお餅をおすすめしています。アスリートからも、白米よりもち米の方が「腹持ちがよい」という反応が多いですよ。

 

Q.糖質は運動何分前に摂取するのが好ましいですか?

佐藤さん
消化に時間のかかる固形の食べ物は、3-4時間前が理想です。果糖やバナナ・エネルギーゼリーなどであれば、1時間前などがいいですね。これを目安に試していただき、胃腸とご自分の感覚を観察して微調整をかけていくのがいいかと思います。

 

Q.カロリー摂取量より運動量の方が多いけど、1食当たりの食事量が増やせずなかなか体重を増やせません。補食でおすすめのものはありますか?カロリーが摂れるもの=お菓子になってしまいがちです。

佐藤さん
脂肪も筋肉も大きくしたい場合の理想の補食は、おにぎりやバナナです。それでも増えない場合は、大福や羊羹を追加。あとは、ヨーグルト+オイル、サラダ+オイル、アボカドなどで補ってあげるのもおすすめです。

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