おっとりして、マイペース。サーフィン・都筑有夢路の強さは、自分だけを見れること。
女子プロサーファーの都筑有夢路(つづき・あむろ)選手にとって2019年は飛躍の年となりました。
18歳以下のジュニア世界一を決める『World Juniour Championships』でタイトルを獲得。2018年には世界ランク48位だった成績を、2019年には8位まで押し上げています。
東京五輪代表まであと一歩と迫る都筑選手、地元鵠沼の昔馴染みからは「あのおっとりしたあむちゃんが」と言われるほどのんびりした性格なのだそう。直接お話を伺っていると、“競技に自然体で向き合う強さ”を感じました。
(聞き手=小田菜南子、文=横畠花歩、撮影=難波聖)
「私なら勝てる」焦らないことが結果に
世界ランク48位から8位まで押し上げた2018年から2019年にかけて、都築選手にとって飛躍の1年間でしたね。
そうですね。今まで練習してきたことが、目に見えて成長に結びついた年でした。
海外に行ける状況ではないので、実家のある鵠沼と練習拠点としている千葉の一宮の二拠点をメインにトレーニングをしています。
一宮では、プロ転向後からついてもらっているトレーナーさんの指導を受けています。
専属トレーナーをつけた効果は、どのようなところに表れていますか??
どの筋肉がどういった動きに作用するかといった説明がわかりやすく、一つひとつの練習に納得しながら取り組めているのが大きいですね。サーフィンの練習は、海に入るだけでなく、陸でのトレーニングも大切。陸トレの質を高められたことで、自分のサーフィンが変わっていくのがわかります。
自分でも納得してトレーニングができてるんですね。4年前からそのように練習内容を変え、昨年の成績に結びつくまでのあいだに悩む瞬間ってなかったですか?
あまりなかったです。結果が出ていなくても、私の周りでサポートしてくれる人たちがいつも褒めてくれてたのが自信になって、負けが続いても“私なら勝てるな”という思いでやれてました。
もともと、すごい落ち込んだりすることはあまりないタイプですかね?
自分のできることを素直に受け止めてポジティブに頑張れるタイプなんですね。周りの女子選手と自分を比べて焦ったりしないんでしょうか?ときにはライバルような扱いをされることもあると思うんですけど。
特にないですね。自分は自分でやってて、周りと比べるとかはあまり思ったことがないです。結局、最終的には相手じゃなくて自分と戦わないといけないから、そこは意識しなくて良いかなと思っています。
国内外問わず、サーフィンのスタイルやライディングを参考にされている選手はいますか?
もともと父がファンだった海外の男性選手の「イーサン・ユーイング」は、中学生ぐらいから勉強のために観なさいと言われてました。わたしも彼のスタイルが好きで、いまだに参考にしています。
参考にするのは男性のサーファーなんですね。都築選手のスタイルからも「パワフル」や「パワー」という印象を受けました。やはりお兄さんや憧れている選手の影響あってのことでしょうか?
男子サーファーの方が女子よりも動きが大きく、技もダイナミックですよね。その動きを勉強したら、わたしも近づけるかなと思って男性サーファーを参考にしてきました。
小さい頃はずっとお兄ちゃんのおさがりの板でサーフィンしてきたんです。自分の身体に対して大きいサーフボードを扱うにはパワーが必要だったので、自然に自分もそういうサーフィンになってきたというのもあるのかな。
幼いころから追いかけ続けた兄の背中。
都築選手がサーフィンをはじめたきっかけってなんですか?
本格的にサーフィンをはじめたのは11歳の時です。我が家は父も兄(都築百斗プロ)もサーファーなので、兄のオマケ的な感じでサーフィンをしていましたね、家族がサーフィンをするから、わたしも。と、海に入るのも自然な流れで。
本格的にサーフィンをはじめてから2年ほどで、最初のタイトルを獲られてるんですが、以前なにか運動はされてたんですか?
幼い頃からバレエダンスを習っていました。4月生まれということもあって徒競走は早かったけど、あまりがつがつしている子じゃなかったみたいで(笑)性格的に“みんなで手を繋いで”というタイプだったので、2番・3番の子を待ってゴールする感じでしたね。
お兄さんから技を教えてもらうこともあったんでしょうか?
サーフィンの技は、教わったというわけではなく、けっこう自然にできていたかもしれないです。ずっと兄とサーフィンをしてきたので、イメージが頭の中にあって。兄を基準にして自分も同じように波に乗る想像をしていたら意外と出来ちゃった、みたいな。
意外とできちゃった(笑)運動能力の高さを感じます。プロとして世界を意識されたのはいつごろですか?
プロになりたいと思い始めたのは、試合に出はじめた中学生ぐらいからです。高校生になって、世界で勝ちたいという思いが強くなったことで本腰を入れて頑張るようになりました。
当時、ずっと負けが続いていて悔しかったんです。自分のサーフィンに自信はあったのに、周りの子がどんどん活躍していく。もっと本気でやろうという思いが強くなっていきましたね。
目指すは「ワールドタイトル」いつか、夢の舞台へ。
2019年に日本人として初のWJCタイトルを獲得してから、2020年にはプロサーフィンの最高峰の大会であるチャンピオンシップツアー(CT)の出場権も獲得していました。その大会が中止となってしまったことにショックはありませんでしたか?
ショックという気持ちはなくて、むしろ準備する時間が増えたと前向きに捉えています。サーフィンは、大会の開催地によって全くタイプが異なる波にチャレンジするんです。普段回っている地域とは違う波で戦うために、一年間の準備期間が取れるのはありがたいですね。
今回、東京五輪ではじめてサーフィンがオリンピック競技になったことについてどう思われますか?
オリンピックの競技になったことで、サーフィンという競技の注目度が上がることに期待しています。全世界の注目を集めるオリンピックは、日本のサーフィン界の未来を変えるためのすごいチャンスだと思うんです。変化を起こせるかどうかは出場する選手に掛かっているので、自分にその役目ができたら1番いいなと思います。
都築選手が、プロサーファーとして目指すゴールはなんですか?
ワールドタイトル獲得です。オリンピックは、まだ日本では馴染みの浅いサーフィンを伝えるための舞台ととらえています。個人としての1番の目標はワールドタイトルを獲得すること。その区別が自分の中で明確にあります。
東京五輪で初めて競技としてのサーフィンを観戦する人もいるかと思います。初めての方に競技の見どころを教えてください。
海の上での心理戦がわかるようになると、面白いと思います。波は、ひとつひとつ形や大きさが違います。どの波を選んで乗るか、でどんなパフォーマンスが出せるかどうかが変わるんです。
はい、技を決める前に波を予測して選び取る力がまず必要になります。
でも、一つの波に乗れるのは一人だけ。だから、試合の中では相手選手との駆け引きが繰り広げられるんです。この波に乗るように見せかけて相手を焦らせて乗らせて、自分はその波に乗らずに次の波に乗ったり。
もちろん、次々と繰り広げられるダイナミックな技の数々も見どころのひとつですが、そういった心理戦にもぜひ着目してみてほしいです。
あと、チャラいイメージを持たれがちなサーファーですが、実は意外とチャラくないってことも知ってほしいですね(笑)
■プロフィール
都筑有夢路(つづき・あむろ)
2001年4月5日生まれ。サーファーの父と兄の影響で、幼い頃から自然と海に入る生活を送る。二人を見ながらサーフィンの技を覚えるようになり、中学生の頃からプロを志す。15歳でプロ公認を得ると、翌年のジュニア大会で優勝を収め、注目を集めた。現在は実家のある鵠沼と、練習拠点である千葉を行き来している。2019年の『World Junior Championships』では日本人として初の優勝を飾り、東京五輪出場が期待されている。