男子マラソン代表選手の意外にゆるい?食事・栄養管理を元モーグル伊藤みきが直撃!

上が男子マラソンの服部勇馬選手、下が元モーグル選手でオリンピアンの伊藤みきさん

男子マラソン界のホープ、服部勇馬選手(トヨタ自動車所属)は、昨年のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)では2位に入賞し、東京オリンピック代表に内定しました。大会延期やコース変更などもポジティブに捉え、東京の次のオリンピックまで見据えているといいます。

そんな服部選手を、元モーグル選手でオリンピアンの伊藤みきさんがインタビュー。練習や体作りなどに関する陸上と雪上のさまざまな違いや、東京オリンピックのレースの見どころまで、濃い対談となりました。

(聞き手:伊藤みき/文・臼井杏奈)

体重を増やすことも意識。好きなものも我慢せず、メリハリのある食事・栄養管理を

スープには「日清MCTオイル」を入れて

伊藤さん
本日はよろしくお願いします!まず服部選手に体作りについてお伺いしたくって。食事はどうされていますか?自炊ですか?
服部選手
実は自炊したことがないんです。昼は(トヨタ自動車)社員と同じ社食か外食で、朝と夜は寮で栄養士の方にバランスの取れた食事を作っていただいているので、そちらを食べています。
伊藤さん
その中でも糖質、脂質、たんぱく質など、栄養バランスで気にしていることはありますか?
服部選手
長距離種目は貧血になりやすいので、鉄分摂取に関しては選手同士で情報交換をしています。脂質に関しては全然考えていなくて…。ただ、最近MCTオイルを試して、今はサプリメントのひとつという意識でゼリータイプをよく食べています。中鎖脂肪酸って言葉は知っていたんですが、「MCTオイル」っていう名前は初めて知りました。オイル単体で摂るものなの?って思っていたんですが、手軽だしサラっとしていますね。
伊藤さん
私もMCTオイルを摂取していて、かなり体の変化を感じたんです。海外にも持って行っていました!服部選手は、何か変わったな〜ってポイントはありましたか?

今回服部選手も試された「日清MCTオイル」

服部選手
確かにこれなら持っていけますね。これまで脂肪を燃やすドリンクなどをよく飲んでいて低血糖だったりエネルギー切れを起こす感じがあったんですが、MCTオイルは効率よく、エネルギー切れにならない感じがします。エネルギー切れを起こすと練習の効率にも関わるので、そこは日頃から意識するポイントです。
伊藤さん
エネルギー切れにならない感じ、よくわかります!
試合中はドリンクを飲むと思うんですが、服部選手はマラソンのレース中、2つ首から下げて走っていましたよね?あの飲み方をするのはなぜですか?
服部選手
あれは片方が脱水予防の経口補水液で、もう一つはエネルギー切れ防止のための糖質メインのドリンクなんです。喉につっかえないように1キロ弱くらいかけてゆっくり飲むようにしています。
伊藤さん
長距離だとエネルギーが重要ですよね。レース前はどう調整していますか?食事は変わりますか?
服部選手
3日前から糖質をメインにして、たんぱく質を減らしています。当日は食物繊維も摂らず、糖質ばかり。サンドイッチだったりおにぎりだったり、種類を変えています。それと中学生ぐらいの頃から、試合前日は必ずお赤飯を食べるんです。験担ぎみたいな。
伊藤さん
お赤飯!前祝いみたいな感じですね。ご褒美に食べるものとかは?
服部選手
僕は自分に甘いから、好きなものは普段から食べていますね(笑)。お酒も飲みますし。ご褒美のために頑張るという意識はなくて、食べちゃった分は後から頑張っています。
伊藤さん
体重管理とかはどうしていますか?
服部選手
何キロ以上にはしたくない、という基準はあるので、こまめに体重を測り、減らすことを考えてきました。けれど僕はマラソン選手の中では骨格が大きい方。だから比べるのを止めて、自分の自然体の体で走ろうと、増やすことも考えるようになりました。

東京オリンピックのレースのポイントは?伊藤さんも札幌コースを視察!

札幌のマラソンコース(伊藤さん撮影)

伊藤さん
コースが東京から札幌に変わり、オリンピックも延期になり…、イレギュラーが続きますが、変化をどう受け止めていますか?
服部選手
今のメンタルとしてはどんな状況も受け入れられる、ポジティブな気持ちで考えています。1年の延期も、より自分の競技力を高められる時間になっていると考えています。
伊藤さん
私は今札幌に住んでいて、先日マラソンコースを見てきたんです。服部選手はもう試走できましたか?
服部選手
そうなんですね!札幌のコースは本番のちょうど1年前になる8月に行って、状況や気候を確認できました。
伊藤さん
私も自転車で試走してきたんです!気になったのが、コースの途中で緩やかな下り坂になりますよね?こういうところはレースが動く場面になるんですか?
服部選手
仰る通りです。8キロくらいから長く下るところがあり、僕もレース全体の流れを決めるポイントになると思っています。下りになることで全体のペースは速くなるので、1キロ3分を切る高速レースになり、外国人選手が速度を上げてくるのではないかと思いました。
ハイペースになっても序盤は集団でレースが進むと思うので、(コース中盤)北海道大学の中で細かなカーブがあるところに関しては、コース取りや集団の中でのポジションも重要になるかなと思います。走る技術、ポジションが大事ですね。

マラソンとスキー、陸上と雪上の違い

MGCでの服部選手(写真提供:月刊陸上競技)

伊藤さん
自粛期間はスピードを上げるための期間と仰っていたと思うんですが、1万メートルでは7月に出した自己ベストをさらに9月に更新して(27分47秒55)、10月も素晴らしい走りでしたよね。

服部選手
新型コロナの自粛期間は、こういう状況の中で走っていていいのかと心が迷うこともあり、人目を気にしてロードで走ることは減りました。その分不整地*を走ることが増え、ロードでは使わない色々な筋肉を使うことができて、スピード強化に役立ったと思います。

*不整地:舗装・整備されていない道

伊藤さん
元々不整地を走ると伺っていたんですが、もっと不整地を走る頻度が増えたんですか?
服部選手
新型コロナ以前は練習の8割がロード、2割がクロスカントリーや不整地だったのですが、今は逆転して8割は不整地などを走っています。不整地で走ることで故障が減ったので練習が継続できますし、終わった後の疲労感が少ないんです。
伊藤さん
私は右膝の怪我をした後はロードを走れなくなったので、小さい山の不整地を走っていたんです。モーグルとかスキーも滑る面が不整地に近いので。マラソンでもそんなに不整地を走るんだと驚きました!

現役時代の伊藤さん

服部選手
普段ケニア人選手と練習しているんですが、彼らはあまりロードで練習しないんです。不整地はより自分で出力を出さないと前に進んでいかないので、自力を上げることにつながったかなと思います。
伊藤さん
あと驚いたのが、シューズをたくさん持っていて使い分けているんですよね?スキーってあまり変えないので。試合のシューズってどれくらい履いて決めるものなんですか?
服部選手
普段のジョギング用は1〜1カ月半くらいで交換しますし、レース用は少し慣らして、あとは本番の1回しか履かないです。使い終わったあとの靴はボロボロなので取っておかないですね。靴にはレース前に「(うまくいくように)よろしくお願いします」って気持ちを込めています。

東京オリンピックはまだピークじゃない。箱根駅伝での教訓は「燃え尽きないこと」

伊藤さん
東京オリンピックまで1年を切りましたが、今はどういう気持ちで取り組んでいますか?
服部選手
東京オリンピックはまだ先なので、次の福岡国際マラソンでの日本記録を視野にトレーニングしています。そこでの結果を自信にしてオリンピックでメダルを目指したいんですが、日本人のメダルは近年ないことなので、メダルを取れる可能性は高くはないと思います。それでもレース中どこかでチャンスは巡ってくると思うので、そのチャンスをしっかり掴み取れるように今、一日一日を大切に練習していきたいと思っています。
伊藤さん
オリンピックが自国開催って選手にとって素晴らしいことだと思うんですが、以前インタビューで「パリオリンピックも視野に入れている」と仰っていて驚きました。もう先も見据えているんですね。
服部選手
僕はまだ26歳で、マラソンを始めたのは22歳。今はまだピークではないと思っています。なので2024年にピークを持ってこられるように、そして東京オリンピックで燃え尽きないようにと思っています。大学の時は一度、燃え尽きたので。箱根駅伝は僕にとって憧れだったので、出場して憧れを達成したら、1年くらい目標を見失いかけたんです。その経験から、より長く競技をやるためにパリを意識しているところもあります。

昨年のMGCでオリンピック代表に内定(写真提供:月刊陸上競技)

伊藤さん
過去の経験から目標設定されているんですね。またレースを見るのが楽しみになりました!目標じゃないですが、服部選手が憧れる方っているんですか?
服部選手
選手じゃないんですが、ダンサーの菅原小春さん。今までダンサーさんってバックダンサーのイメージが強くて、主役のイメージではなかったんですが、菅原さんの踊りはメインになる。自分のマラソンは、駅伝の影響で注目されるところがあるので、主役になれるように頑張りたいなと思っています。
伊藤さん
これからの走りも応援しています!札幌での走り、楽しみです!
服部選手
ありがとうございます!

⬛︎プロフィール  服部勇馬(はっとり ゆうま)

マラソン選手、新潟県出身。トヨタ自動車所属。東洋大時代には箱根駅伝2区で2年連続区間賞を獲得し、2014年の完全優勝(往路・総合)に貢献した。2016年の東京マラソンでフルマラソンデビューを果たすと、2018年の福岡国際マラソンでは日本勢14年ぶりに優勝。昨年のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)では2位に入賞し東京オリンピック代表に内定。

伊藤みき(いとう みき)

元モーグル選手、滋賀県出身。高校時代にトリノオリンピックで初の五輪出場を果たし、ルーキーオブザイヤーを受賞。その後もバンクーバーオリンピック出場、2013年ワールドカップ優勝、世界選手権2種目で銀メダルを獲得。ソチオリンピックでは日本代表となるも右膝前十字靭帯損傷のため棄権。2019年5月に現役を引退し、現在は札幌を拠点に様々な活動を行う。

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