【アスリートと生理 Vol.2】ピル服用のメリットデメリット。下山田志帆×婦人科医 小川奈津希(全3回)
悩めるアスリート、下山田志帆選手が生理について本音で質問する企画、Vol.2はホルモン剤を使った生理との付き合い方。
気になっていたけどいまいち良く分からなかったピルのことや、聞いたことがあるけど実際どんなものなのか知らない人も多いミレーナ。今回も、ジェネラルクリニックの小川奈津希院長に詳しく伺います。
■Vol.1の記事はこちら
■悩めるアスリート
下山田 志帆(しもやまだ しほ)
女子サッカー選手。なでしこリーグ2部SFIDA世田谷所属。株式会社Rebolt代表。2019年春に同棲のパートナーがいることを公表し、「スポーツとLGBTQ」「スポーツ界とジェンダー」をテーマに発信活動を行なっている。
生理については、これまで煩わしさや疑問をたくさん抱えつつ、産婦人科に行くというハードルの高さに相談することを躊躇していた。
■答えてくれた先生
小川 奈津希(おがわ なつき)
ジェネラルクリニック院長。金沢医科大学卒業。産婦人科専門医。
三田病院、山王病院、聖母病院、不妊治療クリニックなどを経て六本木ジェネラルクリニック院長へ。大学生の頃から月経不順、生理痛がひどくピルの服用をスタート。国内外多くのピルを自ら服用している。
ピルって実際どうなの?その副作用、費用、効果
ピルの副作用
最近、スポーツ界でも「ピル使ってます!」 という選手の発信が増えてきました。自分もすごく気になっているので、いろいろ教えてください。一番気になっているのが、副作用についてです。
ピルの副作用で一番大きいのは血栓です。何の薬も飲んでいない人は、1年間で1万人あたり4人が血栓症を発症するといわれています。ピルを飲むと、それが8~9人になります。
ただ、自然妊娠をした人に限ると、1万人あたり10~12人、さらに産後3ヶ月以内の人だと40~50人。だから、妊娠・出産よりはピルの方が血栓症のリスクは低いんです。血栓症の症状も人それぞれで軽くすむこともあれば、重体になることもあります。いずれにせよ、血栓症になったらピルは一生飲めなくなってしまいますが。
また、ピルを服用する上で、喫煙者は血栓症のリスクが上がります。35歳以上で1日に15本以上タバコを吸う人には、ピルは処方できません。数本でもタバコを吸う人は慎重投与です。
実は自分の母親が、ピルを飲んで血栓ができちゃった人なんです。
その場合は先に採血をして、リスクのチェックをします。
そんな方法があるんですね。アスリートだから血栓症になりやすいとか、そういう関係性ってありますか?
アスリートだから、ということはないと思いますよ。血栓症以外の副作用としては、飲み始めて最初の3ヶ月は、不正出血、胸が張る、お腹がだるい、吐き気というようなマイナートラブルが起こる人がいます。こちらは200人に1人ぐらいの割合といわれています。
私が診ている印象だと、吐き気を感じる人が一番多いんですけど、だいたい3~4週間のうちに治ることが多いです。吐き気止めの薬を併用する方法もあるので、対処はできます。お胸の張りを感じる人が、その次に多いかなと感じます。
アスリートがピルを飲む場合は、念のためシーズンを外して始めるのが良いかもしれないですね。
ピルにかかる費用は毎日コーヒー1杯分
あと、これもすごく気になっているんですが、費用ってどのくらいかかるんですか?
クリニックによって値段がちょっと違いますが、私のクリニックだと1ヶ月3,000円程度のものが多いです。1日100円ぐらい。保険適用とそうでないピルがありますが、どちらもコストはさほど変わりません。
女性アスリートの中には、アスリートとしての収入があまり多くなくて、ちょっとの出費もキツいという人も結構いるので、コストは大事なんですよね。
そうですよね。若年層の患者さんもそうですよ。検査にお金がかかることを懸念されて、「検査しないとダメなんですよね?」って聞かれたりします。
毎月ではありませんが、生理痛の原因があるかどうかの経腟超音波検査や、子宮頸癌検査、性感染症(淋菌・クラミジア)、血液検査は定期的に受けていただきます。
1日あたりコーヒー1杯分、1ヶ月3,000円か…。だったら続けられそうな気がする。
ピルの服用は毎日、本気で妊娠を望むまで
ピルって実際はどの程度の期間、どのくらいの頻度で飲むんですか?
必要がなくなったらやめてもいいとは思いますけど、本気で妊娠したいと思うときまで、毎日飲み続けることをおすすめしています。ピルを服用することで卵巣は排卵が止まるため、卵巣をお休みさせることができます。卵子の保存にはなりません。
これが基本の28日タイプのピルです。偽薬を飲んで休薬をする期間があるのが特徴です。上から3段目、飲み始めて21日目まではホルモンが入っていて、4段目の白い7粒は空粒、つまり偽薬なんです。4列目の左から3つ目を飲んだ頃にホルモンがからだから少なくなってきて、生理が始まります。
こちらは4日間休薬するタイプ。上から4段目の最後の4粒が偽薬です。これの場合は、偽薬3~4粒目を飲んだあたりで生理が始まります。
あとは最近、この休薬がないタイプのものもあります。全部ホルモンが入っていて、うまくいくと120日くらいは出血しない可能性があります。ただ、これのデメリットは、突然出血してしまう可能性もあるという点です。
限界がきちゃうんです。生理の時って、使われなかった赤ちゃんのベッドが剥がれ落ちて、経血として出てくるのですが、その赤ちゃんのベッドにも髪の毛などと一緒で寿命があります。このピルをずっと飲んでいる間にも、限界がきて出血してしまうことがあります。
そうなんだ、120日生理が来ないのはいいな。でも先生、途中で突然出血する場合って、溜まった分たくさん出血するんですか?
血栓のリスクがある人向けのピル
ここまでお見せしたピルには、エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンが含まれていますが、血栓のリスクになるのはエストロゲンの方なんです。血栓症のリスクが心配という方には、プロゲステロンだけのホルモン剤もありますよ。
エストロゲンが入っていない分、効果が薄いんですか?
効果が薄いということはないです。ただ、最初3ヶ月ほど不正出血が多いかも。
うーん、やっぱり自分は、うまくいけば120日来ないというのに惹かれるな。今年も試合の期間が4ヶ月なんです。そのタイミングで飲んだら良さそうってことですか?
取り入れる価値はありますが、絶対に生理がこないというものではありません。
そっか。個人差があるものだから、そうですよね。こういう情報も含めて、ピルに関してもっとオープンに触れられるような場がほしいなって思います。
そうですよね。実は私のクリニックのホームページには、ピルについての動画を載せています。
ジェネラルクリニックHP ピルについての動画はこちら
そうなんですか!みんな知らないだろうな、こういう情報があるって。
多くの方が、「ピルって副作用あるんでしょ?大丈夫なの?」という状態なのが、もったいないなと思います。
ピルの服用にはメリットもあって、最初にお話したような生理前の過食や落ち込み、イライラ、肌荒れなど、PMS(月経前症候群)も軽くなりますし、卵巣がんのリスクを減らすこともできます。子宮内膜症の予防や改善にもなりますよ。
たしかにピルについての情報って、避妊できる、生理が来なくなる、ただし副作用が結構ある、みたいなことだけは頭に入っていたけど、病気のリスクを下げるとか、生理痛を軽くできるというメリットがあるって知らなかったです。同じように情報を欲している人がいたら、教えてあげようと思います。
ミレーナって何?
ピルについて、だいぶわかってきました。ただ実際、毎日飲むのは大変だなと思ったりもして、そこで最近ミレーナ*というものの存在を知りました。すごく気になっているので、ミレーナについても詳しく教えてください。
※ミレーナ・・・付加された黄体ホルモンが、子宮内で経皮吸収されることによって、5年間効果が続く子宮内システム。当初避妊目的で使用されていたが、2014年からは過多月経や月経困難症の治療用としても保険適用となった。
ミレーナですね。これです。シリコンでできているT字型のものを子宮の中に置いてきます。
これ自体はすごく柔らかくできていますよ。T字の先端にプロゲステロン系のホルモンがくっついています。ここに5年分のホルモンが付いていますので、5年間入れっぱなしで大丈夫です。毎日何かしなくてもいい。
え?5年分のホルモンが、その小さいのに付いてるんですか!? ホルモンってめっちゃ少ないものなんですね。本当に5年間効果が続くものなんですか?超楽じゃないですか……!
はい。毎日何かしなくても効果が続きます。先ほど、生理の時には子宮内の赤ちゃんのベッドが剥がれ落ちるという話をしました。ピルを飲むと、赤ちゃんのベッドを厚くするエストロゲンの量が少ない状態になるので、ベッドが薄くなるんです。
だから剥がれる量も少ないし、それに伴って生理痛も軽くなったり期間も短くなる。ミレーナに関しても、子宮に置いている間は赤ちゃんのベッドは薄く保たれた状態になりますので、同じ状況になります。ただ、入れて最初3ヶ月程度は、子宮内の膜が不安定なため不正出血があります。4~5ヶ月すると落ち着いてきますよ。
不正出血って正直イメージがわかないんですけど、どれくらいの出血量なんですか?
生理の終わりかけほどの出血量が、月の半分ぐらい続きます。
めんどくさい……(笑)。一旦落ち着くまでは出血があるって感じか。
最初、ちょっとだけね(笑)。それから、ピルは排卵を止めるんですが、ミレーナは排卵を止めないのも特徴です。避妊という観点でいうと、ピルは排卵自体を止める。ミレーナは排卵は止めないけど、赤ちゃんのベッドがすごく薄い上に、赤ちゃんのベッドを占拠しているものがいるので妊娠しないということです。
そういう仕組みなんですね。ちなみにミレーナを抜くときは、下の針金みたいなのをキュって抜くんですか?
針金ではなく糸なのですが、その糸を引っ張ると抜けます。
なるほど、入れる時と抜く時、2回は病院に行かなきゃいけないということか……。
それと、途中の経過も診ますよ。挿入後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月……という感じです。
ミレーナを取り入れたい気持ちはありつつも、でもやっぱり産婦人科で処置をしてもらうことに恐怖心があります……。
そうですね。やっぱりミレーナは、子どもを産んだ経験がある人からの需要のほうが多いですよ。抵抗感も少ないでしょうしね。
病気の予防にもつながるピル
実は若い人にはピルをおすすめしているのですが、それには排卵を止めることによって、卵巣がんの予防ができるという理由があります。最近は、卵巣がんの患者さんはすごく増えているのですが、生まれる子どもの数は減っていて、この関係は反比例です。
卵って卵巣の中にいくつかあるんですが、その中で一つだけ20mm程度まで大きく育ちます。排卵のときには、これが殻を破って飛び出すんですんですが、そのときに卵巣が傷つくんです。毎月の排卵が卵巣がんにつながったりもしているんですよ。だからピルを長く飲むことは、卵巣がんの予防にもなる、ということです。
うーん、ピルもミレーナもそれぞれメリットがありますね…。悩ましい。
Vol.3では、アスリートからみた産婦人科の敷居の高さについて、下山田選手と小川院長が本音でお話します。
<Vol.3に続く>