流行りに振り回されない減量の基礎知識。管理栄養士・佐藤彩香さんセミナーレポート
食事量や食事方法など、わたしたちは日々、からだに関わる様々な選択を迫られています。もしも自分に合わない方法を選択してしまうと、コンディションが低下したり、太りやすい体質になってしまうことも。
「B&」では正しい知識をもとに、自分に適した判断ができるよう、管理栄養士の佐藤彩香さんによる減量のための栄養セミナーを開催。最新の研究データなどをベースに、アスリートに向けた正しい減量の知識を伝えてくださいました。今回はそのときの講義内容の一部をレポートします。
■セミナー講師
佐藤 彩香(さとう あやか)
管理栄養士
企業や保育園で栄養カウンセリング、献立作成、栄養計算、店舗運営を経験し、その後に独立。健康を土台とした実践型の栄養サポートを行い、プロアスリート~スポーツキッズ、ダイエット希望の方など累計5,000人を超える人々と関わる。現在はパーソナル栄養サポート、セミナー講師、ライター活動、レシピ開発なども行ないながら、「あなたのかかりつけ栄養士」として活動している。
減量中の基礎知識
「そもそも、減量は本当にいま必要ですか?」という問いから、セミナーは始まりました。減量を始める際に、私たちが考えるべきことは3点あります。
①今、減量は本当に必要なのか
②ゴール設定はいつ?減量期間を決める
③どの減量方法を用いるかを明確にする
一般的に減量によるメリットには、「見た目の変化が気持ちにポジティブな影響を与える」ことなどが挙げられます。アスリートの場合は、跳ぶ・跳ねる・走るなど、競技によっては“軽いこと”が有利になる場合もあります。しかし、過度の減量が倦怠感や自律神経の乱れを引き起こすことも。
人体の必須脂肪量について、男性は体重の3%前後、女性は12%前後という報告もあります。この数値を理解した上で、今本当に減量が必要かどうかという点を判断していきましょう。
減量を決意した場合
必須脂肪量を理解した上で、減量をはじめる際の基準としては
・一般の場合:なるべく長期間で、緩やかに体重を落としていく
・アスリートの場合:時と場合によって調整する必要があるが、からだへの負担を理解しながら実行する
また、短期間での減量は、からだへの負担が大きく、リスクを伴う行為であることを心に留めておきましょう。続いて、わたしたちのからだの栄養素を認識していきます。
減量の仕組み
エネルギー消費の増加と、エネルギー摂取の減少で「負のエネルギーバランス」を作るには、1日あたり500kcal程を推奨しています。
<(エネルギー摂取量)ckal>ー<(エネルギー消費量)ckal>=<(負のエネルギーバランス)ckal>
運動量を増やすか、エネルギー摂取量を減らすことで、負のエネルギーバランスを作ることが大事なポイントになるんです。
表を見て、1日の推定エネルギー必要量を確認し、自分の負のエネルギーバランスを算出してみましょう。
アスリートの場合は、以下の計算式を用いて推定エネルギーを求めます。
・JISS式
28.5kcal×除脂肪量(FFM)×身体活動レベル(PAL)
・田口らの式
27.5kcal×除脂肪量(FFM)×身体活動レベル(PAL)+5
■身体活動レベル(PAL)
種目 | シーズン中 | オフシーズン中 |
持久系 | 2.5 | 1.75 |
筋力・瞬発力系 | 2.0 | 1.75 |
球技系 | 2.0 | 1.75 |
その他 | 1.75 | 1.5 |
除脂肪量(FFM)とは、シンプルに、脂肪量を全体の体重から引いたものです。例えば、体重が50kg・体脂肪10%の方の除脂肪量は45kg。50×0.1=5、50-5=45というふうに算出します。
栄養素の摂り方について
わたしたちのからだのエネルギー源になっているのは、糖質50〜60%・脂質20〜30%・タンパク質13〜20%です。減量を考えた際、気になる“糖質”の2文字。糖質制限という言葉もよく聞きますが、糖質や脂質、タンパク質の適切な摂取方法を伺いました。
糖質
一般的には、1日の糖質の摂取量を約6割で設定することが多いそうです。
お米をお茶碗に一杯で糖質110g、食パン6枚切りが1枚で30g、うどん麺1人前が60gなど、以下の表を見て糖質量の目安を覚えておきましょう。
糖質メインの食事は血糖値が上昇し、脳からドーパミンが出ることによって禁断症状が発生し、食欲が刺激されてしまいます。
脂質
脂質のエネルギー比率の目安は、20〜30%です。自粛中はつい制限しがちになってしまう脂質ですが、量は減らしすぎずに、良質な油を摂ることを意識しましょう。
部位によって脂質のグラム数は大幅に異なります。自分が何を選び・食べているのか、なるべく意識しながら日々の食生活に反映させていきましょう。
タンパク質・その他
カロリーで考えた場合、タンパク質はエネルギー比率の13〜20%です。体重ベースで考えた場合、1.3〜2.0g/kg/日で算出します。3〜4回に分けて摂取していきましょう。
もちろん糖質・脂質・タンパク質以外にも、そのほかの必要栄養素はたくさんあります。食物繊維・ビタミンB群・アミノ酸など、カロリーを気にするあまり、栄養が不足してパフォーマンスの低下につながることもあるので、バランスの取れた食事を心がけましょう。
糖質制限やケトジェニックの注意点
最近流行している「糖質制限」ですが、特に運動しながら減量を目指すアスリートには、パフォーマンスが下がるリスクがあります。どのように取り組めばいいのか、ポイントを押さえていきましょう。
糖質制限(低糖質食)について
◼︎基本の仕組み
(バーンスタイン医師が唱える説を参考にしたもの)
・1日130gの糖分補給
・たんぱく質摂取量や、脂質量は多め
・主なエネルギー源は“ぶどう糖”
*ファットアダプトは、上記をリメイクしたもの
例えば・・・1日あたり2000kcalを摂取する場合
糖質:130g / 520kcal(全体の25%)
タンパク質:150g / 600kcal(全体の30%)
脂質:100g / 900kcal(全体の45%)
※バースタイン医師の提唱する糖質量を基準に、佐藤彩香さんの観点でタンパク質・脂質のバランスを考えたものです。
※カロリー量・割合には個人差があるので、あくまで目安としてお考えください。
注意点としては、糖質を控える代わりに、タンパク質と脂質を意識的に摂ることが必要となります。糖質制限の際も、血糖値の急上昇を抑えるためのベジファースト(野菜優先)、食べる順番を意識しましょう。
では、糖質制限のメリット・デメリットを見ていきましょう。
■メリットについて
血糖値の急な上昇を防げるため、①減量効果②精神の安定③危険な酸化ストレスの回避が期待されます。
■デメリットについて
エネルギー不足をもたらしがちなので、アスリートの方は特に注意が必要です。また、エビデンスの蓄積が十分とは言えないので、個人差があります。
ケトジェニック(超低糖質・高脂質ダイエット)について
◼︎基本の仕組み
・超低糖質・高脂質なダイエット
・エネルギー源は、ブドウ糖ではなくケトン体(肝臓で作られる)で脂質をエネルギーに変える
三大栄養素の摂り方のバランスは以下。
脂質:75%
タンパク質:20%
糖質:5%
では、ケトジェニックのメリット・デメリットを見ていきましょう。
■メリットについて
血糖値が下がることでインスリンの感受性が向上します。短期間で脂肪燃焼が可能です(基本的に、長期のエビデンスはありません)。
■デメリットについて
ケトン体をエネルギー源とするために、数日間の“慣らし期間”が必要なので、慣れない食生活を継続する必要があります。脂を多めに摂ることが必要なので、コストも掛かります。食事のバリエーション(チーズやアボカド、オイルなど)が少なくなってしまうことがストレスになる場合も。
トレーニング前後の食事は?参加者からの質問タイム
講義の最後には、直接質問ができる時間があり、この日話した内容から普段の悩みまで、さまざまな質問が飛び出しました。
まずはじめに「分食方法は?夜にトレーニングをする場合、前後どちらのタイミングで食べるべき?」という質問。エネルギーの摂取時間、たしかに気になりますよね。
また、「食事改善で部位痩せは可能ですか?」という正直な質問も。
セミナーならではの細やかなフォローアップから、プロテインなど栄養食品の成分まで、最新の研究データに基づいた知識が、ぎゅっと詰められた1時間半になりました。
知っているようで知らない、減量についての基礎知識。流行の減量方法は常に話題に上がりますが、しっかりとした情報をもとに、自分のからだに合った方法でゴールまでの道のりを実現していけたらいいですね。