ストレスでモヤモヤして寝つけない時に。睡眠の質を上げる方法

眠る女性の写真

こんにちは。ヒラノマリです。

『スポーツ×睡眠』をテーマにした連載、2回目は「ストレスと睡眠」についてです。

みなさんの中には、激しいトレーニングや試合の後に興奮して眠れない、試合結果や記録、人間関係についてあれこれ考えて寝つけない、という経験がある方がいらっしゃるのではないでしょうか。

こういった睡眠時の悩みには、ストレスが大きく関係しています。今回は、ストレスと睡眠の関係性を紐解き、さらにストレスを感じた時でも良質な睡眠が確保できる方法をお伝えしたいと思います。

 

■前回の記事はこちら

 

ストレスとは?仕組みと心身への影響

「ストレスがたまる」「ストレスを感じる」など、普段何気なく口にしている「ストレス」という言葉ですが、そもそもその正体がわからない方も多いのではないでしょうか。

カナダの生理学者であるハンス・セリス博士は、ストレスを「生体に作用する外からの刺激(ストレッサー)に対して生じる、生体の非特異的反応の総称である」と定義づけています。つまり、「外から刺激を受けた時に起きる、からだや心のゆがみのことをストレスと呼ぶ」ということです。

では実際に、何らかの刺激(ストレッサー)に出会ったとき、私たちのからだの中ではどんな反応が起きているのでしょうか。

私たち人間のからだはストレッサーに出会うと、一定の状態を保とうとするホメオスタシスという調節機能を働かせて、からだを守ろうとします。

例えば、寒いと感じると体温を保つためにからだが震えたり、軽いケガや風邪が自然に回復したりするのは、ホメオスタシスの働きによるものです。

ホメオスタシスは、以下の3つの機能のバランスで成り立っています。

1.自律神経(交感神経と副交感神経があり、呼吸・心拍・血圧・体温・発汗などをコントロールする)
2.内分泌(血管や細胞を通し、からだの “内側” へホルモンなどを分泌する)
3.免疫(侵入してきた細菌や異物をブロックする機能)

この3つの機能のバランスが、過度な外部からの刺激によって崩れてしまうと、肌荒れや生理不順、不眠など、からだに様々な症状として現れるのです。さらにストレスが慢性化すると、うつ病、胃・十二指腸潰瘍などの疾患につながることも。

また、慢性化したストレスは、ホメオスタシスの3つの機能の中の自律神経に大きな負担をかけ、筋肉にも直接影響を及ぼします。

ストレスを感じると交感神経が過剰に働くため、血管が収縮して血行が悪化します。それによって筋肉が硬くなり、肩こりや腰痛の原因となってしまうのです。

 

自律神経について

自律神経は、交感神経と副交感神経という2つの神経から成り立っています。

日中の活動モードのときは交感神経が優位で、血管が収縮して心拍数が上がり、血圧が高くなります。筋肉への血流量が増し、からだが活動しやすい状態をつくり出します。

一方、就寝前などのリラックスモードのときには、副交感神経が優位になり、血管が拡張して心拍数が低下し、血圧が下がります。消化器への血流量が増し、深部体温(脳や内臓の温度)が下がって、からだを休めやすい状態になるのです。

 

ストレスは睡眠にどう影響するの?

大きなストレスを感じると、自律神経の中でも交感神経が過剰に刺激され、夜になっても副交感神経のスイッチが入りません。

交感神経が優位なままだと、深部体温が下がらず脳が興奮状態で、寝つきが悪くなります。

入眠がスムーズにいかないと、成長ホルモンの分泌が妨げられ、傷ついた細胞や筋肉の修復もうまくできません。結果的に翌日までからだの疲れを引きずったり、不眠という新たなストレスにつながってしまうのです。

また、睡眠はからだのケアだけでなく、脳の嫌な記憶を消去したり、日中得た情報を整理したりする心のケアのための時間でもあります。

心身の健康を維持するためにも、副交感神経のスイッチの入れ方を知り、睡眠の質を上げる方法を身につけておくことが重要です。

 

良質な睡眠はこうやって確保しよう

ポイントは、副交感神経のスイッチを入れて、入眠しやすい体勢を整えること。遠征などで他の選手と同じ部屋に泊まる時でも、簡単にできるメソッドをご紹介します。

モヤモヤとあれこれ考えてしまったり、激しいトレーニングや試合の後で興奮して眠れない時などにぜひ行なってみてください。

 

呼吸でぐっすり!腹式呼吸で副交感神経のスイッチをONにする

呼吸は唯一コントロールできる自律神経と言われています。

肺の下にある横隔膜には自律神経が密集しており、ゆっくりとした呼吸による横隔膜の動きが副交感神経を優位にしてくれるためです。

3秒間息を吸い、2秒間息を止め、5秒間で息を吐く、という呼吸を5~6回繰り返しましょう。

ポイントは腹式呼吸を意識し、息を吸う時間より息を吐く時間を長くすること。長く吐くことで副交感神経のスイッチを入れることができます。

徐々に心臓の鼓動も、呼吸に合わせて穏やかになっていくのがわかるはずです。ヨガなどをした後に気持ちがスッキリしたり、ポジティブな気持ちになりやすいのも、呼吸が大きく関係しています。

深呼吸で肩が上がってしまうという人は、仰向けになりお腹に手を当てながら行うのがおすすめです。ぐっすり寝ている赤ちゃんのお腹が、上下に動いているのをイメージするとやりやすいでしょう。

 

おでこを冷やしてぐっすり!冷却シートで脳も心もクールダウン

■熟睡の秘訣は深部体温のコントロール

赤ちゃんは、眠くなると汗をかいたり、手足がポカポカしてくるのはご存知でしょうか?実は、このメカニズムにぐっすりと熟睡するヒントが隠されているのです。

睡眠深度と体温の変化の表

出典:睡眠学入門ハンドブック日本睡眠教育機構

上記のグラフの深部体温と指先の皮膚温の変化をみると、眠りにつく4時間も前から指先の皮膚温が少しずつ上昇し始め、高温になるとやがて深部体温が下がり始めているのがわかります。

私たちのからだは、睡眠中は深部体温の温度を下げて、臓器や筋肉、脳を休ませ、朝の起床時間に向かって徐々に深部体温が上がる仕組みになっています。

つまり私たちは赤ちゃんの頃から、手足の皮膚から放熱をして眠るために深部体温を下げ、自ら眠るための体勢を整えているのです。

 

■おでこを冷やして入眠準備

しかし、ストレスを感じると交感神経が刺激されてしまい、夜になっても深部体温がなかなか下がりません。冷え性の方がなかなか寝つけないというのも、手足が冷たいため熱の放出がうまくできず、深部体温が下がらないからです。

深部体温は睡眠の良し悪しを左右する、とても重要なポイントとなるわけです。この深部体温と睡眠の関係性は様々な実験からも明らかになっています。

例えば、不眠症と深部体温の下がりにくさに着目した、ピッツバーグ大学のエリック・ノフギンガー氏は、不眠症の患者さんに冷たい水が循環する前頭部を冷やす帽子を被って寝てもらい、不眠症ではない人との入眠までの時間を比較した実験を行ないました。

すると、冷たい帽子を被って寝た不眠症の患者さんが約13分で寝ついたのに対し、不眠症ではないグループは16分かかるという驚きの結果が出ました。

(参考:Can’t sleep? Try cooling your brain – Los Angeles Times

つまりこの実験で、前頭部を冷やすことで深部体温を下げ、睡眠が改善できたことが証明されたのです。

特にアスリートの方は、ハードなトレーニングをした後や試合後には交感神経が高ぶっており、深部体温も上がっています。さらに遠征先では、いつもと違う環境に対して脳がストレスを感じやすくなります。

試合後や遠征先だと、なんとなく寝つきが悪いと感じる方は、寝る前に熱冷まし用の冷却シートを使ってみましょう。

実験に使用された冷たい帽子と同じ役割を果たし、脳をクールダウンさせて入眠しやすい体勢を整えることができます。

 

ストレスを感じたり、悩むことは決して悪いことではありません。大切なのは、ストレスを感じた時にどう対処すれば良いかを知っておくこと。

睡眠のメカニズムを知ると、自律神経だけでなく脳や心のメカニズムを知ることができます。このメカニズムを知っているか否かが、アスリートとしての強さにもつながります。

ぜひ今日からできることを試してみてくださいね。

 

◼︎プロフィール

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ヒラノマリ

スリープトレーナー。自身も睡眠で悩んだ経験から睡眠学に興味を持つように。大学卒業後、某大手インテリア会社に入社。寝具担当として幅広い顧客に寝室全体のコンサルティングを行ってきた。2017年から、アスリート専門に睡眠指導を行う『スリープトレーナー』として活動をはじめる。ショールームでの販売経験を活かした具体的なアドバイスは、プロサッカー選手や五輪出場選手にも好評を得ている。 

Twitter:@sleeptrainer_m3
Instagram:@maririn__gram

 

■参考文献

睡眠学入門ハンドブック(日本睡眠教育機構)
医療・看護・介護のための睡眠検定ハンドブック(全日本病院出版会)
Can’t sleep? Try cooling your brain(Los Angeles Times)

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